これは、はま寿司での出来事である。
はま寿司で寿司を注文すると、『ご注文品』という容器に乗って、他の寿司と同じレーンで流れてくる。
一応それは一目見ればオーダー品なんだと分かるビジュアルではあるが、しかし他の寿司と一緒に流れてくるので自分のところに『ご注文品皿』が来たときには既に寿司が乗っていない…なんてことがあるのだ。
要するに、川上の席の人に寿司を取られる…いや盗られてしまうのだ。
私はこれを「寿司スチール」と呼んでいる。
しかし同じレーンで流れている以上は防ぎきれないことで、仕方ないことだと思っている。
その日私は昼時に一人ではま寿司に来てカウンター席で寿司を食べていた。
最初は隣の席…私から見て川上の方の席が空いていたのだが、しばらくしたら定年は過ぎているであろうお爺さんが隣の席に着いた。
それから間もなくして、注文していたヒラメが流れてきたことを知らせる電子音が鳴った。
さあヒラメちゃん食べてあげるからウェルカムウェルカムと待ちの構え。
しかし何を思ったのか隣の席のお爺さんが目の前に来た私のヒラメをヒョイと取ってしてパクっといって「うまいなー」と抜かしおった。
…まあ、これくらいは想定内だ。
なにせ非オーダー品とオーダー品が一緒に並んで流れているのだから、こんなこともある。
なに、取られたならまた注文すれば済む話だ。
Take2
再度ヒラメを注文して、数分後に再び電子音がなった。
ヒラメちゃんカモンカモンと待ち構えると、お爺さんが「ヒラメきた」と言ってヒョイパクー。
ご注文品皿が私の目の前を流れていって唖然。
お前のヒラメじゃねえええええええええ。
…まあまあ、まあまあ。
また注文すればいいだけの話じゃないか。それで済むじゃないか。
Take3
さあ三度目の正直。ヒラメをおいでおいでと取る準備をしていた。
ヒラメ号ペースを保ちながら最終直線、爺の前に差し掛かるも取られる気配は無く、ゴール目前。
これはもらった…と油断したところで、ジジイの手が伸びて二度あることは三度あるヒョイパクー。
てめえどんだけヒラメ好きなんだダダダダダ。
仏の顔は三度も保たず。
お寿司スチール許すまじ。
年上や老人は敬えなんて言われてきたが、人の寿司を食べるような老害を敬えとは言われたことはない。
流石に席を離れて店員に「隣の客が私の注文した寿司を取って困っている」とチクってやった。
直接文句言うと面倒くさいことになりそうなのと、店のルールを守れていない人に対して、一客がルール説明するよりも店員がした方が客も納得してくれるだろう。
事情を店員に説明したらあっさりOK。
私が席に戻ってから少しして店員がジジイのもとに注意しに来た。
さあ、これで平和が訪れる。
そう思ったのも束の間、何だか店員にゴネ始めた。
ジジイの話を聞いてみると、「回っているものを食って何がいかんのだ」「分かりづらいから今すぐ直せ」「店長を呼んでこい」と何故かご立腹。
理不尽もいいところである。
しかしこれは案外店側がこういうシステムを採用しているのも問題あるんじゃないかと考えざるを得ない。
『ご注文品』と書いてあれど同じレーンで流すということは客の善意に委ねた方式となってしまうため、悪意又は知らない人が利用するとどうしても発生し得る問題だ。
ならば寿司を盗まれないように何か対策を講じるのも会社の役目だ…なんて思ったりはしたがどう考えても悪いのは寿司スチールする人間である。
食べ物の恨みは恐ろしい、これは老害じゃなくて可愛い女の子がやったとしても許さんぞ。
お爺さんにグチグチ言われる店員を見て罪悪感を覚えつつも、食事し終えた私は揉めている彼らの隙をついてホームスチールに成功、無事レジまで生還し金だけ払ってさっさと外の世界にトンヅラー。
その後彼らがどうなったかは定かではないが、とりあえず寿司スチールをする人・される人が無くなることを願うのであった。