そこで、今、最も新しいクリエイティブに挑戦し続ける伊藤直樹氏(PARTY)、朴正義氏(バスキュール)、齋藤精一氏(ライゾマティクス)、猪子寿之氏(チームラボ)と、各社代表をお招きし、なぜ学校やワークショップを積極的に開くのか、彼らが今求める人材とは、そして若者は何を求めているのかについて、クリエイティブ界の校長先生的存在の中島信也氏(東北新社)をモデレーターに座談会を開催。その模様をお届けしよう!
■ それぞれの教育的取り組みとその理由
朴正義(以下、朴):もうすぐ卒業式を迎えます。
中島:猪子さんのチームラボは「チームラボ オンラインスキルアップ」なるものをやってらっしゃって、齋藤さんのライゾマティクスは「skills」っていうワークショップをやっている。みんながこういうことを一斉にやり始めたっていう現象は、ヤングな人々、たぶん美大、工科大、専門学校からやってきた子たちに対して、「このままじゃあかんちゃうか?」っていう不満というか、既存の育ち方に対して、ある種のトライアルやと思うんですよ。
そこで、業界の最先端を行かれている会社の面々が「“欲しがる人材の姿”って何なのか」「どうしたらそうなっていけるのか」っていうところを聞いていきたいな、とね。僕はね、コマーシャル制作っていう、広告という大きな産業の中に組み込まれてきた、伝統的な業態にいるんですが、でも今の時代、それではあかんことがいっぱい出てきてるわけですよね。
まずは、「BAPA」はなんで始めたんですか? デジタルとかインターネットとかでバリバリ活躍している企業が。
中島:実験の場を作る感じですね。
伊藤直樹(以下、伊藤):PARTYだけでやるのもあったんですが、バスキュールさんと一緒にやることで一つの社会運動になればと思っています。“バパイズム”じゃないですが、「アートやデザインの歴史に名を刻めればいいね」なんて冗談を言っていたんですよ(笑)。
卒業制作はヒカリエで展示するんです。ヒカリエにスポンサーになってもらっていて、渋谷を舞台に「渋谷を面白くしよう」っていうテーマに最後、落とし込んだ作品を発表してもらうんです。
猪子寿之(以下、猪子):何人くらいいるんですか?
朴:30人くらいですね。100名程の応募者から選考テストをして、授業料は“バパ”なので8万8,000円いただいています。やっぱり社会人が多いですね。7、8割くらい。
猪子:安いですね。全10回で、1回は何時間くらいあるんですか?
朴:最低3時間で、PARTYのスタジオとウチのラウンジで行ったり来たりしてやっています。
伊藤:とにかく作品制作を第一にグループワークをしてもらっています。アイデアを考えるところから、実装してフィニッシュするまでの制作過程に合わせてカリキュラムを作っています。授業が終わった後は「BAPA Bar」っていうのをやっていて、「もうちょっとこうした方がいいよ」とか作品について個別指導を飲みながらやるんです。
中島:お二人とも会社をやられているわけで、そういう意味では「ええ奴おったら、捕まえようかな!」みたいなのはあるんですか?
伊藤&朴:もちろんあります(笑)!
中島:「もしご縁があったら一緒にやれるかもしれない」っていうのが大学や専門学校にはないからね。そこがやっぱり、受講者からすると狙いたいところだし、主催側もそうで、利害が一致すると思うんですよね。
齋藤さんのところの「skills」はどんなワークショップなんですか?
一言にプログラマって言っても色々あって、実際は大企業でルーティンワークでシステム作ってるシステムエンジニア(SE)が世の中の多くを占めている。そういう人達に、例えばロボットを動かすためのプログラムを教えると、彼らはスキルを活かして全く違うことが出来るようになる。もちろん、ある程度、新技術や知識を習得したりとハードルは超えなきゃいけないんですけど。で、「skills」に参加して、最終的に彼らが独立してくれてもいいし、良い人材がいたらウチに来てほしいというのもあります。
伊藤さんも僕も大学で教えてるんですけど、基本的に、大学教育が全然ダメなんですよ。
齋藤:東京理科大です。よくよく考えてみると、大学でやってることって就職が大前提じゃないですか。でも、今ってアーティストになるとか、フリーランスの道もあると思うんです。学生が「これだったら僕でも独立出来るかも」ってなった方が面白いし、そういうのを本当は大学がやらなきゃいけないんです。なので、僕ら企業が人材を育成して、最終的に一緒に働いたり、覚醒した人が自分で始めたりと、カタチはあれども全体のレベルアップにはなるかなと。
中島:面白いですね、それは。技は持ってるのに、何かちょっとブレイクスルー出来ない。人はある種の覚醒を求めて来ると。
齋藤:ライゾマの課題は、いい意味でも悪い意味でもあんまり競合会社がいないこと。でも僕は、競合が出てきた方が面白いと思う。脅威になるし、刺激にもなるし、適性価格が出来て、マーケット的にバランスが取れてくるだろうし。教育の先にはそういう考えもあります。
中島:「ニセライゾマ」みたいなね(笑)。それは、人を育てるっていうだけじゃなく、新しい仕事のやり方にやや繋がっていきますね。さて、猪子さん、みなさんの取り組みを聞いてきましたが。
猪子:ウチはね、ハードコア思想なので、一人で何でもやる、所謂アーティストみたいな人よりも、基礎素養を付けてきて欲しいっていう思想が強いんです。クリエイティブなことって楽しいので、大人になって仕事をしながらでも身に付くと思っていて。基礎素養は楽しくないので、そっちは・・・。
中島:僕はそれが既に分かりませんもん。
猪子:プログラミングだったら、本当に基本的な、ハードコアな部分のスキルを上げてきて欲しいっていう思いがあって、デザインだったらデッサン力がとにかくあるってことです。
中島:それは凄く分かりますね。僕らの映像業界が結構そうなんですよね、文章作らせたら右に出る者はいないとか。そういう人を採って、仕事の中で叩き上げていく。
猪子:でも、絵に関しては十分な人材がいて、むしろ社会側が、絵が描ける優秀な人材を上手く使えてないんじゃないかって思ってて。でも、そういうハードコアな技術力を持ってる凄い人っているのに全然人気がないし。
中島:そうなんですか?
猪子:基本的に、今は凄い理系離れ。
中島:理系離れなの?
朴:世の中的にはそうですよね。
中島:僕は文系離れしてるのかと思ってた。美術大学とか、男の子が行かなくなってるから。
中島:しんどいんでしょ?
猪子:しんどいんですよ。僕もしんどかったですよ、学生の時。地味だし、行列計算とか面白くないじゃないですか(笑)。だから、そのプログラミングの一番コアなところが、もっと華やかになったらいいなと思って、今「CODE VS」っていうコンテストをやっています。去年の12月に3回目を迎えて。
猪子:あれ、リクルートさんと一緒に開催してて。簡単に言うと、ソフトウェア書いてもらって、ソフトウェア同士が戦うんですよ。
中島:「ロボコン」みたいな?
猪子:そう! まさに「ロボコン」のソフトウェア版。アルゴリズム作って、どっちのアルゴリズムが優秀かみたいな、ハードコア過ぎて、今までよく分からなかったところを将棋っぽくビジュアライズして、戦ってる様子が分かるようにしてるんです。攻め入ってるとか、駒を取られたみたいな。決勝戦をニコファーレでやってニコニコ生放送してるんですけど、3万人くらいに見られてるんですよ。コメントなんて4万件くらいつく。カッコいいじゃないですか。
中島:それでスターになれるチャンスが。
猪子:アート寄りのプログラミングだとさ、作るものも派手じゃん。一番ハードコアなプログラミングはめちゃくちゃ地味で、表と一切関係ないからさ。アルゴリズムとかデータベースとか、そういうの。そこが華やかになったらいいなって。僕らが小さい頃に「ロボコン」見て、エンジニアに憧れたりしてたので。
中島:予選は全部で何人くらいが戦うの?
猪子:400人くらいが応募して戦う。
中島:そんな人達が潜在的には結構いるわけね。
猪子:あ、でもやっぱり、そこに参加出来るくらいに技術力がある人はめちゃくちゃ少ないんですよ。でも、たぶんロボコンも初めはそうで、ロボット作れる人とかって少なかったんだけど、ロボコンが盛り上がって、学校が取り組んだりして、底上げが進んでロボコン人口が増えた。ハードコアなところの人口が増えたり、そこが「カッコいい」ってなったらいいなと思ってやってます。優勝者は最後スポンサー企業代表と戦うの(笑)。
中島:プロと戦うってことだよね。
猪子:そうなんですけど、若いし、気合い入ってるから、1秒で企業のプロに勝っちゃうわけ。
中島:そういう人をチームラボに入れていくわけ? 優秀な学生達を。
猪子:それが、そういう人達は外資に行っちゃうんですよね。
中島:やっぱり出来る人はあっという間に連れ去られていくもんなんですね(笑)。でも、「何とかしたい」っていうことなんですよね。理系離れ、斎藤さんはどう思います?
齋藤:理系でアートの子はデットエンド、出口がないと感じてる子が多いと思う。アーティストが「作品作りました」って言っても、メディアアートって売れないんですよ。猪子さんのところは売ってるけど(笑)。インスタレーション全体、「Macを5台納品します」ってなかなか出来ないので。それに学生も気付いている。みんな良い意味で頭がいいから、先のことも考えると、今あるスキルでどういう企業に就職出来るかってなるよね。
猪子:そうですね、まさにそんな感じです。基礎素養を付けようって感じじゃなくて、如何に面接が上手く出来るか、人脈を作れるか・・・。
齋藤:名声を手に入れるかとかね。
猪子:そうそう。学生時代に名声を得たいんですよね。
齋藤:それは本当間違ってる。それでスタートアップみたいの始めたりね。
猪子:僕はそれが嫌だから、学生時代は基礎素養の方に行った。大人になっても、あんなことやりたくないし、学生時代ぐらいしか詰め込んで出来ないんだし(笑)。
齋藤:プログラム言語ってどんどん簡略化されてくるし、GUIも変わる。なんですが、学生の時にオブジェクト指向とか、そういう、猪子くんが言ってるような基礎素養を付けていると変化にも対応出来る。
猪子:ウチの半端ない基礎素養ある奴とか、3日もあれば新しい言語は大丈夫って言ってる。彼は十何言語使えるんだけど。
中島:というと、凄いもう切磋琢磨の世界なわけ? プログラミングの世界って。メジャーリーグみたいな。
齋藤:僕はそうだと思います。
猪子:そういう切磋琢磨してる人達が華やかになったらいいなって思ってます。
齋藤:時代もそういう方向に来てるような気がする。凄いディープな、サーバーのプログラム書いてる人達がいきなり雑誌に取り上げられてたり。
それに、ラーニングっていうのは、個人同士がユーザーグループ作って勝手にやってるんですよ。超切磋琢磨してるし、そのユーザーグループの中で自分が発言権を持ち、ステータスを上げることを大事にしてる。いくら僕が褒めたって「あー、なんか言ってるわ」みたいな感じになっちゃう。だから、彼らに凄いと思ってもらえる、効率を超えたプロジェクトを作らなくちゃ、優秀な才能に振り向いてもらえない。僕ら大人がそこをやっていかないといけないと思っています。
中島:なるほど。これはもう教育の問題というよりも、クリエイティブ業界が最終的に目指すビジョンですね。若い人を育てようと思ったら、若者が目指したくなるような夢をぶち上げないとダメっていうことですね。PARTYもバスキュールもライゾマもチームラボも、理系男子がアートに触れて、アートの人達が理系に行った一番イケてる人たちだと思っていたけど、意外とみんなドカチンなんだね、ベースは。
もう少しソフトにいくと、伊藤さんはどうでしたか、今の話聞いていて。
中島:数学がダメだから絵を描こうってことだからね。
伊藤:そのとおりですね。きっと中学の数学の授業中にノートに絵を描いていたような子が多い。だから絵は本当に上手いですよ。手を動かしてものを作ることも大好きです。
そういう子が、それこそライゾマの真鍋くんとかに触発されて、独学でやりだすわけですよ。openFrameWorksとかArduinoとかから入って、そこそこ出来るようになってくるんですよね。そういう裏の独学みたいのが、美大の中で今起こってます。絵を描けるということはアイデアを視覚化出来るわけだから、美大生がプログラミングを覚えたら強いですよ。
中島:僕は息子がいるんですけど、息子は高専出て、武蔵野美術大学に編入してるんですよ。だから、そこら辺にトレンド感をひしひし感じています。「BAPA」に来る人は、自分のどこを伸ばそうと思ってきているの?
伊藤:独学って言いましたが、つまり大学教育では理系、文系で完全に分断していて、美大には教授陣にプログラマがいない。今、社会は本当の意味での“アート”、技術と芸術を両方学んだ学生を求めているのに。本当は学びたいのに、行き場がないからこういうところにくる。
猪子:あと、アイデアや絵を描ける子は、どうやったらああいうことが出来るようになるのか、プログラム出来る子はどうやったらクリエイティブなものを作れるようになるのかっていうのがあるよね。そこは別世界に見えちゃうんですよね。実際は、統合的にやっていけば、案外自分でもやれるって想像つかないじゃないですか。僕は、基礎素養派ですけど(笑)。
朴:昔と違うのは、映像はTVのCMとして30秒とか15秒とかパッケージが決まっていて、その土俵の上で文系の人が頑張ってたと思うのですが、今は、そもそもどこで触れてもらうかという表現の場から作れる時代なので、やっぱり技術がないと出来ないんですね。「次のプラットフォームは何かな」みたいなところをみんな探してる。
ソーシャルゲームもその過程で生まれたものだったりする。大手のソーシャルゲームの会社には、頭の良い優秀な子がたくさんいると思うのだけれど、きっと給料もたくさんもらってるので、なかなか「BAPA」には来ないんじゃないかなって思う。だから、そういう従来の枠組みのを全部突き抜ける何かを作らなきゃいけないんですよね。
中島:でもさ、美大はそういう危機感を全然持ってないよね。
伊藤:今、日本のどこの大学も教育改革が必要ですよね。学生は文系、理系の区別なく本当の意味での教養(リベラル・アーツ)を学ぶべきだし、工学と芸術を両方学べたほうがいい。そして課題制作で作品をバリバリ作った方がいいし。
齋藤:独学で言うと、プログラマは独学が一番強いですよね。楽器買う金ないから手元にあるPCでプログラミングして(楽器を)作ろうとか、そういう志持ってる子の方が断トツ伸びます。更に言うと、理系の子たちは、最近マーケティングスキルやデザインスキルを独学で学んでる。これまでの文系が理系化してるその逆パターン。一人完結のスタートアップの流れが出てきた。今までは主語に文系の人がいて、理系の人達がその下にいる構図だったのが変わってきてますね。
猪子:それは、もう全否定ですよね、我が社では(笑)。我が社では「コードが書けない奴は人に非ず」ですからね。
中島:今、僕はチームラボの面接落ちました(笑)。理系の子が、クリエイティブやマーケティングっていう文系ワードを学ぶ・・・プログラム書ける奴が。怖いなー。
猪子:そもそも、世の中、美大と理系しかいらないんですよ!
(一同爆笑)
猪子:世の中の教育はハードコアなところしかいらなくて。教育はドリルですよ。美大と工学部と理学部以外は全廃止ですね(笑)! かわいそうなんです。基礎素養が身に付いていれば、面接の練習とかしなくてもどこにでも入れるはずなのに、面接の練習とか大人と仲良くなる方法とかばっかり学んでて。あとは若い内に名声を欲しがったりとか。
中島:猪子さんみたいになりたいんだよ、みんな(笑)。
■ 今、教育の場に必要なことって?
猪子:現実的に言うと、大学後半の2年間は工学か美大しかいらないと思ってる。
中島:今の世の中ってもっとハイブリッドになってるというかさ、両方やれる人も必要なんじゃないの?
猪子:これはみんなと違うかもしれないけど、僕らは“両方出来る必要なんかない派”で、深けりゃ深いほどいいと思ってるんです。
中島:でも、なんでそうやってクリエイティブな感じの活動が出来るんでしょうか。
猪子:僕らは、結構個人で完結することを全面的に否定しているので。
伊藤:“チームラボ”だもんね。
猪子:専門性がある人達が集まることで何かをアウトプットする。欠落とか大歓迎だし、専門以外のことはあんまり分かってなくてもよくて、深い方がいい、という思想ですよね。ライゾマさんはもうちょっとスター型みたいな感じするけど。
中島:なるほど。はっきりしてるね。
猪子:はい。カルトなんで(笑)。
中島:とは言え、みんなプログラミングを書けるっていう。
猪子:いや、建築出身の子は絵も描けないし、プログラミングも出来ないです。
齋藤:それは、建築学科に喧嘩売ってるんですか(笑)?(※齋藤氏は建築学科卒)
齋藤:建築って、最初は文系なんです。敷地に対しての調査やプレゼンテーションとか。それって歴史もあれば人の精神的なものもあれば、政治もあれば法律もある。そして、最終的に構造計算や図面と算数っていう理系になって形にする。
中島:形にするからバッシングを受けると。
猪子:そう。〆切もある。
中島:それは美術系もそう。
猪子:でも、美大よりも建築の方がハードコアなのは、美大は作ったものがまあまあいい加減でも、アウトプット出来るでしょ。大学時代の話ですよ。模型はいい加減だと建たないからさ。絵はさ、白いところが残っててもさ、「わざとです」って。
中島:美術は確かに、好き嫌いで言われるからね(笑)。家は、倒れちゃうと大変だもんね。
美大の場合はね、“自分”っていうものが並べられて「あんたダメね」っていうのが分かっちゃうわけですよ。作品は明らかにランキングされるし、自分でも「ここのランクだ」っていうのが明確に分かる。思い込みだけじゃトップにいけないんだよね。「負けてる」って明らかだから、「じゃあどうしようか」って作戦考えたりするんですね。
伊藤:美大は打たれ慣れた、パンチドランカーなんですよ(笑)。1週間に2本は課題制作を抱えている。年中作ってる。いい作品とは何かが分かるようになるし、自分の何が良くて何がダメかがはっきりする。「BAPA」はそういうのに慣れてない子たちも来てるから、怒ったり、超悲しんだりしてるんですけど、それがいいんですよ。その経験がないといいもの作れないじゃないですか。「クソッ!」とか思って、それはそれでいいんです(笑)。
中島:あ、齋藤さんが東京を発つ時間になりました。一言いただいておきましょう。
もちろん、大学みたいに、矢をバーッて浴びる教育も大事ですけど、僕らなんかは「矢を放てよ、放てよ」って焚き付けるようなやり方なんですよね。そういうことをやった方が、国のクリエイティブ産業の人材育成への貢献度は全然違ってくると思うんです。クールジャパンもいいですけど、現場教育に対してお金を使った方が、全然5年先が見えるような気がしますね。
中島:ありがとうございました。
(齋藤氏が出張のため退席)
――「BAPA」を通してPARTYさんバスキュールさんはどういう思想をお持ちですか?
伊藤:美大で教えていると、行き詰っている子たちがいるんですね。でも、ある子がopenFrameWorksを覚えた瞬間に、花開いて。何か一個覚えると、いきなり開花したりするんですよ。学生は道が全部開けて見えているわけじゃない。自分も学生の頃は道で迷子になってた。「どっちに進めばいいの?」って立ち尽くしてた。だから、そういう化学変化を与えていきたい。BAPAもPARTYも共通して、一つ何か違うことを覚えるだけで全然変わるよっていうね。
朴:とにかく何を作るのが一番カッコいいのか、常にそれを探しているというか。やったことないことをするっていうのは、コミットしないといけない。
例えば、インタラクティブな映像を作る際、映像監督と僕らのどっちがディレクションするかとなったら、「俺がやります」ってコミット出来るかどうかが重要。結局、みんなコミットしないんですよ。凄い絵が描けても、建つかどうか分からないから、怖くてコミットしない。エンジニアも「俺はクリエイティブは分からない」とか言ってコミットしない。せっかくこんな時代にいるのに、そこにトライしないっていうのがもったいない。
猪子さんはまさにコミットしてるから、そういう現実が生まれていると思うんですよね。もちろん、その下に各スペシャリストがいると思いますが、そのスペシャリストもそういうコミットする人間になったら、物凄いものが出来るかもしれないし、単純に見てみたいですよね。
なんかね、焼き直しの、評価が決まってるもので100点を取るんじゃなくて、もう500点とか、或いは3点だけど凄かったとか、そういうトライがあるようなものにしたいんです。でも、そういう機会って仕事をしていく上では少ない。だから、「BAPA」ではそれを作るっていうか。さっきの「CODE VS」にしても「BAPA」にしても、今の教育の一番大事なのは、そういう機会を作ることじゃないかと思うんです。化学反応は起こせないんですよ、一人では。
――とは言え、国際広告賞をみていると、近年、サイバー系の日本クリエイティブは強いですよね。
中島:そこは、画期的な活路ですよ。やっぱりフィルムでは、圧倒的なフィジカルが弱くて、負けてたから。
猪子:フィジカルが弱いっていうのは?
中島:とにかくね、「どうやってこんな映像が撮れるの!?」っていうね。それに比べたら、淡々と伊右衛門さんが夫婦でお茶出してる(※サントリーの緑茶「伊右衛門」シリーズのCMは中島氏が監督を務める)みたいなのは、吹っ飛んじゃうんですよね。向こうの映像の強さに、しばらくやられっぱなしだったの。だけど、サイバーやモバイルといった新部門で日本が世界にアピール出来てるってことは、やっぱり向いてるものがあるんだと思うんだよね。
猪子:今回も獲られてましたよね、なんか。
中島:「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」ね、ライゾマが。(※カンヌライオンズGrand Prix×1 Gold×6/Silver×6/Bronze×2 合計15個のLionsを獲得)
猪子:僕ら、日本では、審査外だと無視されるんですよ。業界の外にいる感じ。でも、海外では業界の外にいると、褒められるんですよ。凄い差を感じる、そこ。
■ 枠組を壊して世の中を変える!
猪子くんとかは、それをやってるんでしょ、アートでさ。デジタルで、いつかはアート乗っ取るみたいなさ(笑)。
猪子:乗っ取りますよ。ほんと、油絵の具は混ぜると黒くなるからね(笑)。
中島:そうよ、最後はグレーというか黒くなるからね。
猪子:ダサいと。ウチらは混ぜると白くなるんです(笑)、光源だから。「(絵の具は)混ぜると黒くなるからダサい」って言おうと思ってて(笑)。
伊藤:凄いよね、チームラボ、デジタルアートが売れてるから。この間、香港のアートバーゼルに行って現代美術の現場で作品が売れてる目の当たりにしたから。だって目の前で金額交渉している人、見たし(笑)。僕はスパイとして行ったから、買うふりして値段とか聞いたし(笑)。
猪子:デジタルは「売れない」っていうのが定説だったんです。もっと言うとウチらはメディアアートでもないんですよ。メディアアートは定形が決まってて、例えばインタラクションだったり何らかのテクノロジーがコンセプトの中に入ってないといけないんですよね。でも、ウチらはメディアアートじゃない作品も多い。
僕はアートが好きで、現代アートはデジタルでやった方がバージョンアップすると思ったから、売れないって言われてたけど、作り続けました。「あれ、何か違うんだけど」って言われても、知らんぷりして(笑)。土足ですよ、土足で。日本では無視され続けてたんですけど、たまたま海外でやる機会があって、それで海外が引っ張ってくれたんですよね。良いように言うと、海外はプロフェッショナル。固定概念もあんまりない。作品のコンセプトが頑健かどうかちゃんと分かるんですよね。
中島:凄い画期的な例を作ってるよね。厳然とした美術界にしれっと入っていく。全然違う文法で。向こうのやり方でやるとただのデジタルアートになって、ペインティングの方が上にいっちゃうからね。
猪子:すっごい簡単に言うと、(アンディ・)ウォーホル。当時、絶対にオートクチュールの方がカッコよかったんですよ。実際、マーケットでも、パリコレでもオートクチュールだけ。お金持ちは仕立て屋さんでスーツ作るし、既製品の量産品を買うっていうのは貧乏人のやることだったんですよね。
そこを、ウォーホルは「量産品の方がカッコいいじゃん。オートクチュール超ダサいじゃん」って言ったわけですよ。それは、世の中的にもそっちに動くかもしれないし、ウォーホルが動かしたかもしれないし、ウォーホルが言おうが言うまいが動いたかもしれないし。
ただ、どっちにしろ、ウォーホルがそこのポジションだったわけですよね。それに対してベッドした人達がいた。「もしかしたら大量生産の方がカッケーってなるかもしれない」と。実際、結果的には街の仕立て屋さんより、グローバルの大量生産、既製品のプラダの方が、ヴィトンの大量生産の塩ビの方がカッケーってなったわけじゃないですか。産業がそういう美意識になっていったんですよ。
そうするとウチは、ポジション的には「あれ、油絵の具って黒くなるんだ? デジタルの方がカッケーじゃん」みたいな(笑)。で、美術界でそこのポジションをカルト的に取ってるところが世界にはウチだけで、そうするとなんとなくマーケットがついてきたんですよね。
中島:結局、今にない新しい世界を作るんだっていう、世の中の変革の動きとアートとの関係が見えてないと、そういう話にならないしね。
猪子:アートも教育とセットだから。「こういうことを学んだ方がカッケー」みたいになるといいし、その方が面接の練習より生産的だし、その作ったもので企業から「ウチに来て」って言われた方が、本当はカッコいいんだけど。
中島:大元の問題としてね、教育ってことを考えると、常に僕らが産業として、イノベーションを起こして、面白く、良くしていくっていうドライブ感がこの国になかなかなくて。
伊藤:ほんとそうですよ。日本も少しはスタートアップが増えてきたけど、主流は大企業への“就活”ですからね。
猪子:企業が学校をせざるを得ない状況に、社会が追い込んでるとも言えてて。
中島:美大で「英語喋りなさい」とか言ってるんじゃなくて、徹底的に専門を掘ることだったり、専門外のちょっとした別の刺激を得ることで、そこから見えてくるものがあるよってことですよね。
猪子:今、知識層では、英語は学ばなくていいんじゃないかって言われてます。何故なら、恐らく10年以内に言葉の問題は解決するっていうのが、ほとんどの人の見解だから。翻訳技術が半端なく向上してるじゃないですか。単純に10年も経つと、スマホのスペックが半端ないことになるんで、10年経たずに解決するかもね。言語は技術で解決出来ます。
伊藤:非言語文化にも向かってますよね。InstagramもLINEもそうだし。ひとつの流れとしてありますよね。日本人の英語力が問われなくなったら、日本人はホント強いですよ。はっきり言ってそこだけだから、弱いの。コトバ関係なければこっちも強く出れるし。イノベーション起こしまくりですよ(笑)。
中島:10年後くらいには治る病気ってことだね。個人的にスーパースターとして名声を得る世界はあるんだけど、そういうことではなくて、どんなにオタクでもいいからそこんとこを突き詰めてた上で、色んな専門分野の人がギューッといたら、それがインテグレートされて世界を動かせるところに立てる、大企業に入るよりも大きなムーブメントになり得るってことを、ヤングたちに思っていて欲しいと思います。
そして、学歴とか、面接が上手になった果てに見えるものよりも、世界を動かせるところに行くには全てにおいてハードコアじゃないとダメだと。猪子さん風に言うとね(笑)。
猪子:企業が学校をやるっていうのは、本当は結構強いメッセージだから、もうちょっと学校や国はそういうメッセージに反応した方がいいんだけどね。あんまり反応しないよね(笑)。
中島:僕は、美大関係者にこれをちゃんと伝えます。「全然ダメだよ。英語は10年後くらいにはもう喋れるから。やっぱ絵描かないとダメだよ。その代わりね、絵の具は混ぜると黒くなるよ」って(笑)。今日は、教育を出発点として、何か現代の問題が浮き彫りになりましたね。
■ 5つの質問 一問一答
写真:森口鉄郎
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