環太平洋経済連携協定(TPP)の参加12カ国が条約に署名し、協定の内容が確定した。

 ただ、これで協定が発効するわけではない。議会での承認を含め、各国が国内での手続きを進める必要がある。

 日本では、協定や関連する法改正についての審議がこの国会で予定されているが、気になるのは政府の姿勢だ。TPPが経済成長につながりそうなプラス効果の宣伝に余念がない一方で、さまざまな懸念については「限定的」「心配ない」と強調する場面が目立つ。

 「21世紀型の協定」と称されるTPPの対象分野は幅広く、影響は社会、文化など多方面に及ぶ。プラスの効果が最大限表れるように努めつつ、「消費者の利益」を基準にさまざまな懸念の妥当性を見極め、必要があれば対策を講じる。そして政策決定の過程をしっかり国民に説明する。それが政府の役割である。

 「プラス効果」の一例が昨年末に公表した経済効果分析だ。

 13年に示した試算と比べ、貿易や投資の活発化に伴う産業界の生産性向上や賃金の上昇を見込み、効果がフルに実現すれば国内総生産(GDP)が2・6%増えるとはじいた。

 関税削減・撤廃の対象産品を判断する「原産地比率」の計算で国際分業を前提とした方法を採り入れたり、途上国で課題が残る税関手続きが改善されたりすることを通じた貿易促進効果を織り込んだ。

 その一方で、農林水産物の市場開放に伴う国内業界への影響では、「競争を通じて価格は多少下がるが、生産量は落ちない」と説明する。今年度の補正予算に対策費を計上済みで、今後も対応していくからという理屈である。

 これでは政策展開の順番が逆だ。影響を見定めて必要な対策を練り、予算を確保するべきなのに、「おカネを積んだから安心して」と言わんばかりのやり方では、消費者の反発や疑問だけでなく農林漁業者の不安も高めかねない。

 将来の協定改定をにらんだ規定に関しても「いいとこ取り」の姿勢がうかがえる。日本が強く求めてきた政府の入札・調達の開放では「発効から3年以内に再交渉する」と成果を強調しながら、農林水産物の関税の再協議が7年後から可能になることには及び腰だ。

 通商交渉では各国の主張がぶつかりあい、妥協の末にまとまるのが常だ。全体像をしっかり説明する誠実さが、国民の理解を得るうえで欠かせない。