公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、株式を直接買うことを認めるかどうか。

 GPIFの組織と運用の改革を考える厚生労働省の審議会で議論の焦点となっている。

 現在、国内株式での運用は、外部の金融機関への委託に限られている。直接、買うようにすれば、市場の変化に機動的に対応でき、手数料も節約できる、というのが解禁派の理屈だ。

 だが、「国の機関」としての性格を持ち、130兆円を超す巨額の資金を持つGPIFが個別企業の株式を買うことは、政府と企業の関係や市場での価格形成などの点で弊害が大きい。

 この問題が障害になり、GPIFの組織改革にまで遅れが出てはならない。まず、理事長に権限が集中している今の体制を見直し、合議制の経営委員会を設けて運用方針など重要事項はそこで決めるなど、これまでに固まったガバナンス強化案を早急に具体化するべきだ。

 直接、株式を買っての運用がなぜ、問題なのか。

 まず、GPIFの資金規模だ。国内株式市場に占める保有割合は現在約8%もある。これだけ巨額になると、GPIFが何を買うか、で企業の株価が左右されてしまう恐れがある。

 外部に委託している現在の仕組みは、そうした弊害を防ぐ役割を果たしている。手数料はそのために必要なコストだと考えてもよいはずだ。

 また、GPIFの運用が政府の意向に沿うものになるのではないか、株式の売買や議決権行使を通じた政府による企業への影響力拡大や支配につながりかねない、との懸念もある。

 実際、政府の経済財政諮問会議で、安倍政権の掲げるGDP600兆円の実現に向けて、設備投資や賃上げに前向きな企業にお金が回るようにGPIFを活用してはどうかといった発言がすでに出てもいる。

 そもそもGPIFに求められているのは、年金財政の中で見込まれた運用目標のもと、安全に収益を上げることだ。現在の収益はその目標を上回る水準だ。なぜ、運用方法の見直しが必要なのか。

 また、運用の原資になっている積立金は国民のものだ。保険料を拠出している労使の代表は、今回の株式への直接投資にともに反対している。

 GPIFの体制は、巨額の資金を運用する組織としては、あまりに脆弱(ぜいじゃく)と言われてきた。いま取り組むべきなのは、その強化であって、自由に投資をできるようにすることではない。