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リリースエントリー




人が目を見て話す生物学的な理由

Essay

最近、小学生の息子が『ミッション・インポッシブル』にハマっている。きっかけは最新作の『ローグ・ネイション』を一緒に観たことで、ガジェットを駆使した潜入捜査や銃と車の派手なアクションが、小さな男心をくすぐったようだ。

私はもともとトム・クルーズのファンで、『ミッション・インポッシブル』のシリーズは当然観ているし、『アウトロー』や『コラテラル』などの渋い作品も含め、ほぼすべての出演映画を観てきた。だから息子が『ミッション・インポッシブル』を好きになったのは少し嬉しい。

昨夜も息子が観たいと言うので、4作目の『ゴースト・プロトコル』を借りてきた。物語の冒頭、イーサンがロシアの刑務所から脱出し、バンに乗って逃走するシーンがある。イーサンは後部座席で仲間のジェーンを見つめて話をするのだが、イーサンの透き通るような青い瞳を見て『神経内科医の文学診断』という本を思い出した。

この本は、神経内科医の目線で文学作品を分析した異色の一冊だ。たとえば谷崎潤一郎の『鍵』の描写を引用して、バビンスキー反射と呼ばれる錐体路障害を解説する。たとえばルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』の描写を引用して、失名辞を解説する。

著者の岩田教授は神経内科学が専門だが、文学に関しても造詣が深い。30冊ほどの名著が取り上げられているのだが、どれも作家の描写と病気の関係性を鋭く分析している。中でも印象に残ったのは瞳孔の話だ。作品はマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』で、引用されていた描写はこちら。

しかしゲルマントという名を聞くと、ルグランダンの碧い目のまんなかに、見えない針で突かれたかのように褐色の小さな瑕がさっと入るのが見えたが、そのとき瞳の残りの部分はやがて空色の波をにじませて、それをかき消した。

この後、ルグランタンは「ゲルマントを知らない」と嘘をつくのだが、主人公はルグランタンが緊張したところを見逃さなかった。ルグランタンは老人で、もともと瞳孔が小さくなっているのだが、それでも主人公には瞳孔が開くところが見えたのだ。

瞳孔とは光の量を調節する孔で、暗いところでは拡大し、明るいところでは縮小する。カメラのレンズの絞りと同じで、光を多く取り入れたいときは孔を大きくして、逆のときは小さくする仕組みだ。

実際は瞳孔自体の大きさが変化しているのではなく、瞳孔を覆っている虹彩(こうさい)という薄い膜が開いたり閉じたりしている。欧米人はこの虹彩が青いため、黒い瞳孔との境界線がはっきりしている。だから数メートル離れていても瞳孔の動きが見て取れるそうだ。

人は嘘をつくと少なからず緊張する。緊張すると交感神経が活動し、瞳孔が開く。だから欧米人は相手の目を見て真意を確かめる。普段は意識していないのかもしれないが、無意識にそのような習性が身についているのだろう。

日本人の虹彩は黒いため、瞳孔の大きさが判別しにくい。同じように虹彩が黒いアジア人でも目を見て話す文化はあるため一概には言えないが、目から得られる情報が少ないのは事実だ。

日本人は奥ゆかしさや人見知りのせいで目を合わせないと思っていたのだが、このような生物学的な側面もあるようだ。逆に、欧米人が目を見て話すのにも生物学的な理由がある。

こんな発見があるから本を読むのはやめられない。

神経内科医の文学診断

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