読書を通じて何を感じとるかは、年齢とともに変わってくる気がするんです。今回挙げた本は、私がそれぞれの年代ごとに、少なからぬ影響を受けた本です。
1位の『大数学者』と4位の『旅人』は大学1年生のとき、田舎育ちの僕が下宿で親しくなった首都圏出身の医学部の学生に、「僕は高校時代に読んで、とても感動したから君も読んでみろよ」と勧められたものです。
『大数学者』は、6人の数学者を軸に、彼らの数学的な業績だけでなく、人生のさまざまなエピソードを描いた1冊。
高校までの学校教育で触れた数学の定理や理論が、どのような人たちによって考え出されたか分かるだけでなく、「天才」と呼ばれる人たちの生き様に魅せられました。なかでも印象的だったのは、「ガロア理論」という現代数学で非常に重要な理論を編み出した若き天才・ガロアが、弱冠20歳で決闘に臨み、撃ち殺されてしまうくだりですね。
のちに私は大学で物理学を学び、核融合の研究をしたいと米国の大学院に留学までしました。この本を読んでもまだ、「自分は天才ではないが、努力すれば何がしかの成果は出せるだろう」と思っていたんです。けれども、天才級の世界的な研究者の下についてみると、息をするように自然に、次々と飛び出す数式の意味が、私にはほとんど分からないんですね。
悄然としているとき、同じ日本からの留学生の中に「小説を書きたいんだ」という人が二人もいて、彼らの草稿を読んだんです。私の感想は、「これなら、自分にも書けるんじゃないか?」(笑)。その後、すぐに小説家を志したというわけではないのですが、天才に対する憧れと挫折とが、いまの私を形づくっています。
それにしても、科学を発展させてきた人々の人生には、個性的で魅力的なものが多いです。先に触れた『旅人』は、日本人初のノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士が自らの前半生を書いたもの。理論物理学へと向かう過程を振り返るなかで、人柄もにじみ出て非常に興味深かったです。