AppBank社、元役員の横領金の流出先に「暴力団関係者」の疑い 調査報告書に記述せず

恋の予感(写真:アフロ)

山本一郎です。最近地上にいるよりも飛行機で飛んでいる時間のほうが長いような気がしますが気のせいです。

ところで、先日「たのしいiPhone」の標語を掲げる「マックスむらい」こと村井智健さんがいろんな意味で人気なAppBank社が、元役員である木村さん(仮名)による1億4,000万円あまりの横領を行っていることを発表。その後、外部有識者を交えた社内調査委員会による状況確認を経て、横領の事実の発表から一ヵ月半後の16年1月28日付で調査報告書が開示されるにいたりました。

マックスむらいのAppBank「経理部門の責任者であった元役員が約1億4千万円を業務上横領したと疑われる事実が判明いたしました」(市況かぶ全力2階建 15/12/11)

社内調査委員会からの調査報告書受領及び当社の対応についてのお知らせ(AppBank 16/1/28)

マックスむらいのAppBank「経理部門の責任者に横領された1億4千万円はキャバクラ豪遊や滞納していた税金や恐喝に使われたようです」(市況かぶ全力2階建 16/1/29)

AppBank社は上場直前期にいたるまで、当期利益の半分近い金額がこの元役員・木村さんによって横領されていたことになるわけです。横領の主犯であった木村さんはもちろんのこと、そのような横領が業務の中で行われていたことに気づかなかったAppBank社CFO廣瀬光伸さん、また監査法人トーマツと、状況を見抜けずマザーズ上場させてしまった主幹事の野村證券には凄く残念な感じを否めない事件になったと言えます。

とりわけ、調査報告書の中で記述されているスキームにおいて、問題となった木村さんの入出金については、そのすべてが専務CFOである廣瀬さんの決裁を経てからでないと支払いができない仕組みになっています。実際、当方が入手した社内資料でも、30,000円以上のすべての入出金について廣瀬さんの承認なしには支払えない状況が見て取れます。確かに木村さんが巧妙に資金流出先を工作して露顕を防ぐ工作を施していたのは間違いありませんが、一方で、支払先からの請求の突き合わせを決裁責任者である広瀬さんが足掛け3年一回もしていなかったことになります。ということは、月によっては月次利益の半分近い多額に行われていたこれらの不正出金について、この3年間にわたってチェックしていたはずにも関わらず廣瀬さんは問題をまったく見抜くことができなかった、ということになるわけです。大丈夫なのでしょうか。

その上で、調査報告書でもっとも注意するべき点が、さらっと書かれています。

また,本調査委員会は,資金使途について,木村氏から上申書を受領しており,上記のほか,以下の支払が記述されているが,本調査委員会は,事実確認が行えなかった。。

税金(県税,区税等) 約 225 万円

・O 氏への貸付 約 1,200 万円

・恐喝 約 3,000 万円~3,500 万円

116ページにも及ぶ調査報告書だが、最も重要な「恐喝」の文字は一箇所だけ。
116ページにも及ぶ調査報告書だが、最も重要な「恐喝」の文字は一箇所だけ。

税金はともかく、ここで「恐喝」の文字で括られる四桁万のお金について「事実確認が行えなかった」とするのは、どういうことなのでしょう。

この社内調査委員会へ2016年1月20日に提出された上申書によると、横領が始まったと見られる2013年3月からわずか数ヵ月後に、上場準備が本格化したタイミングで会計責任者であった木村さんに対して、暴力団関係者と見られる人物からの接触と、恐喝の実態が記されています。

男(やまもと註:暴力団関係者と見られる人物)「おふくろさん大変だよな。あんなに足をびっこ引いていて、もし階段から落ちたら大けがだな」と言いました。

私(やまもと註:木村さん)は、怒りがこみ上げましたが我慢しました。

同時に「おふくろが人質か」と思いました。

私は「あなた、何が言いたいのですか?」と伝えると、男は「解決しようよ」と言い出しました。

私は察知して「金か」と思いましたが、「金ならないです」と答えましたが、男は5本くらいなんとかなるだろ」(たぶん500万円のこと)と言い、「明日、20時に新宿駅の地上東口あたりに居て」と言われ、去っていきました。

悩みました。

もし、私だけが被害に合うなら無視し続けることは出来ましたが、おふくろを巻き込んでしまうことになると考えると相手の要求に応じる方に傾いてしまいました。

さらに、この時期はまだ不正流出させたお金をAppBankに還流させようと、まだ思っていた時期でもあるため、この500万円を支払う事によってAppBankに戻す事ははほとんど不可能になる為、その点でも大きく迷いました。

ただ、やはり「おふくろに万が一のことがあったら・・・」と考えると、お金を渡す事を決心してしまいました。

この時に一瞬だけ警察に相談する事を考えましたが、自分が不正送金をしているという後ろめたさがあった為、どうしても警察に行くことが出来ませんでした。

調査委員会が聴取調査した結果の全資料と上申書。暴力団との関わりが詳細に記述される
調査委員会が聴取調査した結果の全資料と上申書。暴力団との関わりが詳細に記述される

この恐喝を行った二人組の男の片方は、木村さんが調査委員会に語った内容を元にするならば右手の小指が欠損している人物です。また、横領事件の露顕前に、木村さんの役員辞任後この問題の資金提供を示唆する接触が複数回、AppBank社にあったと証言する元事業責任者たちもおります。この時点で、木村氏の資金使途における「恐喝」とは、暴力団関係者に対する利益供与の可能性があったと強く認識されるべき事象です。また、木村さんがAppBank社から不正に流出させた資金をAppBank社に何らかの形で還流させ返済する意向を強く持っていたことから、一連の木村さんによる横領事件についてはこの暴力団関係者に対する利益供与500万円が行われていなければ、恐らくは1億4,000万円もの最終的な被害金額に膨らむような事件にはならなかったであろうと思料されます。

本来ならば、AppBank社は継続的な横領の原因となったこの暴力団を調査し突き止め、告訴しなければならないはずです。

同様に、木村さんが健康上の理由で酒を控えなければならない状態であったことや、組織上のトラブルと激務に疲れ果てた木村さんを幹部社員が慮って慰労していたこと、木村さんが税金の差し押さえなどを受けてある種の自暴自棄となった末に、同僚社員などを伴ってキャバクラ豪遊を繰り返した経緯などが、社内文書で明らかになっています。

この点で、AppBank社の社内調査委員会はかなり詳細なヒヤリングを関係者に対して行っており、本件横領事件に関してはかなり早い段階で全容を解明していました。事件を起こした木村さんの責はもちろん免れ得ない一方、そもそも、弱みを握られた木村さんが恐喝されるにあたって、なぜAppBank社が上場準備中であることが分かっていたのか、恐喝を行う相手が暴力団関係者であると木村さんが分かっていたにもかかわらずAppBank社経営陣に相談をする決断ができなかったのか、会社のマネジメントに信頼できる人物がいなかったのかなど、明らかにするべき謎が多く残ります。木村さんの横領の規模が大きくなる理由こそがこの問題の本質であり、本来調査委員会として知っておくべき事柄の多くが放置されたままで、企業経営陣や関係者の処分が行われている点は、かなりの部分で不自然と言えます。

極めつけは、この木村さんがAppBank社役員に就任したわずか一ヵ月後に退任しているのですが、この調査報告書では木村さんがAppBank社役員を退任し会社から去っている理由については一言も触れられていません。

それも、AppBank社取締役会では「一身上の都合」という形で木村さん退職の理由が明記されていたが、関係者の証言と内部資料によれば、木村さんは「AppBank創業時点からの幹部がCFO廣瀬さんにより冷遇されていたことに対する改善を要求して、木村さんが管理部員にストライキを持ちかけたため、密告を受けた廣瀬氏が辞任に追い込んだ」という摩訶不思議な事情であることが判明しています。当時を知る幹部に聞いても「木村さんの役員辞任は、廣瀬さんによる幹部社員への風当たりに対する抗議のストライキを唆したことが原因でして、そのとき横領が発覚したとかそういう話では一切ないです」。

要するに、役員であった木村さんが横領していた事実を、彼の退職までAppBank社も監査法人トーマツも知らなかった、ということになります。このAppBank社が上場承認されたのが15年9月8日ですので、その前に横領の事実を分かっていて過去の決算修正を行わず上場承認を得てマザーズ上場を果たしていたのだとするならば、単なる上場ゴール案件ではなく、上場取り消しや、むしろAppBank社経営陣の刑事告発にも繋がる重大経済事件となる可能性さえもあります。

繰り返しになりますが、横領は犯罪であり、木村さんの問題は当然指弾されるべきである一方、3年にわたり多額の不正送金を見抜けない決裁責任者である廣瀬さんや、幹部も「明らかに異常な状態だった」と証言する木村さんを追い込むガバナンス、さらには問題に気づくことなくマザーズ市場への上場承認をさせてしまった監査法人トーマツ(トーマツベンチャーサポート)や野村證券にも一定の責任があるように感じられます。

AppBank社が、社として1億4,000万円もの資金を流用した木村さんを2月5日現在いまなお刑事告訴していないように見えるのは、ひょっとして、木村さんを告訴するとAppBank社から暴力団関係者に資金が流れたという情を知った時点で上場審査が取り消しになるなど、慎重にならざるを得ないからなのかとも思えてきます。マザーズ上場をAppBank社が行ったこと自体に疑義がもたれかねないという話はあるのかないのか非常に非常に気になるところです。もちろん、そんなことはないかと思うのですが。

もしも、問題となる部分がないのであれば、木村さん退任にかかる本当の理由と、AppBank社が組織として横領の事実に気づいて処理を開始した時期について、きちんとIR上で正確なところを開示していただきたいと強く願う次第であります。

もっとも大事な点として、暴力団関係者にAppBank社の資金が流れていたのですから、木村さんからきちんと事情を聞き、どこの組の誰さんなのか、特定しなければいけません。何より、横領と言う不祥事の調査報告書として、一番大事な恐喝からの暴力団への利益提供をきちんと記載しないというのは、腑に落ちないですね。本来ならば、関係者の処分や刑事告訴の勧告などよりも、まずは暴力団への利益供与があったことを真摯に捉え、AppBank社として対策を発表し、解決しなければならないでしょう。

なお、この調査報告書の公表を受けて、問題についてAppBank社経営陣各位にメールで質問を行い、またTwitter上でも問い合わせをかけましたが、何らの返答は得られませんでした。

最後になりますが、AppBank社に税務調査が入ったのは15年11月中旬ごろと認識しております。

AppBank社の皆様が、問題の所在に一刻も早く気づかれ、上場企業に相応しいコンプライアンスとガバナンスを実現できる日が来るよう、高度14,000メートルからの上から目線で強く強く願う次第であります。

今後とも、よろしくお願い申し上げます。