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地方発の新事業モデル
ヤマハミュージックジャパンは、地域の課題を音楽で解決する「おとまち」事業を展開している。年齢、性別、国籍を問わず人々を繋げる音楽の力を使ったまちづくりが、いま、注目を集める。
ヤマハは、創業以来125年を超え、「モノ」事業と「コト」事業の両輪で成長してきた。「モノ」とは、楽器や音響機器などの製造・販売。「コト」とは、販売した楽器を実際にどう使い、楽しむのかという点にフォーカスした音楽教室やコンサートなどの企画運営を指す。沢山の楽器を売っても、その音色が町から聞こえてこなければ意味がない。楽器販売と音楽の普及・啓蒙を両輪で進める独自のビジネスモデルで、ヤマハはこれまで成長してきた。
しかし今後、少子高齢化の進展で、マーケットは確実に縮小していく。そうしたなか、新たに立ち上げたのが、地域の課題を音楽で解決する「おとまち」事業。いわば、音楽を使った地域コンサルティングだ。
経済が成熟し、モノの溢れる現代の日本社会において、地域コミュニティの衰退が問題となっている。
ヤマハミュージックジャパン音楽の街づくり推進課・山本直市郎氏は「音楽は、言語以前の、もっと根本的なレイヤーでコミュニケーションを可能にする、非常に有効なツールだと感じます」と話す。社会課題に対し、音楽を使ってコミュニティづくりをしていくことで、社会・地域に対しての共有価値を作り上げていく。それが、「おとまち」の目指す、音楽の街づくりだ。
「おとまち」ではまず、自治体や企業といったクライアントとともに課題を探索・共有し、地域の資源を活かした最適なプランニングを行う。そして、そのプランの実現に向け、市民を巻き込んだコミュニケーションプログラムを開発する。さらに、次のステップに向けたメンバーの育成やプログラムの改善を通し、その主体を徐々に市民側に移し、持続可能なコミュニティへと自立させていく。
「我々はあくまで影の存在です。地域課題に対し、単にソリューションを提供するだけではなく、もともと地域にある資産やナレッジに敬意を払いつつ、それらを音楽の力でうまく輝かせることができれば、〈おとまち〉として成功だと言えます」
「おとまち」が現在取り組んでいる事例に、2015年8月に東京・渋谷で開催された、1日だけの音楽解放区「渋谷ズンチャカ!」がある。参加型の音楽フェスで、聴衆や通行人も飛び入り参加で歌ったり演奏したりできる。
プロジェクトは、「渋谷の街を音楽の力で盛り上げたい」という桑原敏武前区長と、その想いに賛同した渋谷駅周辺の商店会で発足した実行委員会からの依頼で2013年にスタート。プレイベントを経て、2015年の第1回は、市民や渋谷に訪れる社会人、学生などで発足した「チーム・ズンチャカ!」が主体となり、企画運営を行った。
交流人口の多い渋谷は、遊びやショッピングなどで町を訪れる人と、そこで暮らす住人との間に溝がある。外から来る人も中に住む人も楽しめるものをと思案した結果が、市民参加型の音楽フェス。当日はメイン会場と街中を繋ぐパレードや大合奏など「1日だけの音楽解放区」と称し、渋谷に住んでいる人と集う人の境目をなくし、自由な渋谷を演出した。
イベント運営や音楽のプロが中心となった一過性のイベントではなく、あくまで市民や街を良くしたいと思う人が、主体的に続けられる地域活動を作りあげるのが「おとまち」のゴール。例えば「渋谷ズンチャカ!」では、行政予算に依存しすぎない資金調達モデルをつくるためにクラウドファンディングを活用したが、これも企画運営ノウハウを市民に移すための試みである。
「渋谷ズンチャカ!に参加した方は1万人以上。これは、動員数という指標でくくれない、大きなムーブメントへの第一歩だったと思います」
「渋谷ズンチャカ!」では、地元商店街からは「イベントを通じ、世代間の本当の意味での交流を図れた」、若者からは「街づくりに参加できてうれしい、渋谷の街への愛着が生まれた」といった感想が多く聞かれた。
「おとまち」のソリューションは市民参加型音楽祭に限らない。大規模マンション開発(千葉県船橋市)でのビッグバンド形成や、愛知県岡崎市の「ジャズの街 岡崎」の活動支援など、地域の特性に合わせた様々なプログラムを展開している。
「一つのモデルを水平展開していくのではなく、地域資産を有効活用することでオンリーワンのモデルが生まれます。そうした事例が増えていくことで、音楽を通した街づくりが互いにつながっていくと思います」
音楽を一つのソフトとしてとらえるだけでなく、音楽を使ってその先のコミュニティを繋げるソリューションを生み出していく。それが、「おとまち」事業の本質だ。
地域の社会課題を音楽で解決する「おとまち」の取り組みが、結果的に楽器業界、音楽業界全体のパイを広げることにつながっていく。
株式会社ヤマハミュージックジャパン 音楽の街づくり推進課
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