そろそろ偽ホログラム・偽ホログラフィについて語っておくか

本物と偽物の区別をつけておくのは必要だってことです。

最近、このホログラムがすごいとか、ホログラム劇場とか流行ってますよね。そういったものはほぼすべてホログラムではないというのはご存知でしょうか?

何が本物で何が本物でないか、知らないまま「えーでも便利だからいいじゃん」と放置しておく人も多いと思うので、そういう人のために、調べておきました。

まず、「本物のホログラム」とはどういうものか。

ホログラムは、ガーボル・デーネシュという物理学者が発明し、それにより1971年にノーベル物理学賞をとり、特許も取得している、ちゃんとした技術であることを知っておくべきでしょう。彼の理論は、その後さまざまな分野で発展していくのですが、そのいずれも最近頻繁に登場する「いわゆるホログラム」とは無縁のものです。

ホログラムというのは写真(フォトグラフ)との対比で考えるとわかりやすいと言われています。

Wikipediaのホログラフィ(ホログラム)項目では、次のような説明がされています:

白黒の写真は光強度(単位面積あたりの光のエネルギー)が記録された点の集まりで、どの点も光強度という1つの情報しかない。カラー写真はさらに、光の三原色に相当する3つの光の波長の情報が加わる。
ホログラムでは光の電場の振幅や波長の情報だけでなくそれに位相の情報が加わる。写真では位相の情報は失われるが、ホログラムでは光の電場の振幅と位相が記録される。通常は単一波長であるが、カラーも可能である。像が再生される時にできる放射光は完全な3次元像となる点が、写真との違いである。また、写真と違い、像を反射率の違いで再生できるだけでなく、記録したホログラムを漂白することで屈折率の違いでも像を再現できる。

写真は通常光で記録しますが、ホログラムではレーザーを用い、写真はレンズを使い記録しますが、ホログラムでは直接メディアに記録します。

ホログラムは映像に限らず、コンピューティングやメモリなど、さまざまな分野で応用されています。

なお、ホログラフィというのは、ホログラムの製造技術を指します。

で、この本物のホログラフィの技術がどこまで進んでいるかというと、

これは2010年の動画ですが、この時点で対角4cmのカラー動画が実現されています。

NHK技研はよくホログラム映像の技術発表をしています。

空間像再生型立体映像の 研究動向」というこの論文によれば、NHKでは裸眼で立体画像を見ることができる、立体テレビへの応用を目標として、ホログラムの研究を進めているようです。

ホログラムともう1つ、インテグラル方式というのもあるのですが、そちらも含めた記事はこちら:

この記事では、ホログラムTVの「実用化はおそらく数十年単位先の話だろう」と担当者が語ったそうです。

NHK技研の論文の中では、「2030年頃の実用化を目指して立体テレビの研究を進めている」としています。動画でのホログラム実用化はそのくらい待たないといけないようです。

だから、今の時点で大きな画面でホログラムがグリグリ動くはずはないのです。


ここまでは本物のホログラムのお話。

では、ホログラムが誤用されている例をピックアップしていきましょうか。

「3Dホログラム」と主張しているもののほとんどはホログラムではありません。

Musion Eyelinerという、ペッパーズゴーストという劇場などで使用される視覚トリックを応用したプロジェクション技術のことを勝手に「3Dホログラム」と呼んでいるだけだからです。これは立体映像ですらありません

故マイケル・ジャクソンが本物のダンサーたちと踊っているように見えるこれも、ペッパーズゴーストを使っています。これを見て、メディアのほとんどは「ホログラフィすげー」と絶賛してまた誤解が広まるんですよね。

初音ミクのライブでは、ディラッドボードという半透明スクリーンとリアプロジェクションの組み合わせによって、人間のバックバンドと初音ミクが一緒に演奏・歌唱しているように見せており、ホログラフィっぽい効果を生み出していますが、クリプトン・フューチャー・メディアがこれをホログラフィと自称しているわけではなくて、メディアが勝手に誤解してそう言っているだけなんですよね。

これも単なるペッパーズゴーストです。ひどいですね。あ、ITmediaじゃんこれ……

あと、MicrosoftのHoloLensもひどいですね。これは、HMD型のARデバイスなんですが、それにHoloとつけることで、ホログラム技術が使われているかのような誤解を呼び込んでいます。Windows Holographicという、Mixed Reality技術をホログラフィックと自称することにより、さらに混乱させているとも言えます。レンズ周りに本物のホログラム技術を使っているという話もありますが、それでホログラフィックコンピューティングと呼ぶのは本物の研究があるのにあまりにミスリーディングと言えるでしょう。


こういう偽物をホログラムって呼ぶのは、多分便利だからなんでしょう。じゃあ、他にどう呼べばいいのかって言われると思うので、その回答を用意しておきました。

セミ・ホログラム

いかがでしょうか?

WikipediaのHolography項目(英語版)を見てみましょう。

ここの最後に、Semi-Hologramsとして偽ホログラム、偽ホログラフィを羅列しています。

Effects produced by lenticular printing, the Pepper’s Ghost illusion (or modern variants such as the Musion Eyeliner), tomography and volumetric displays are often confused with holograms.

はい。ペッパーズゴースト、Musion Eyelinerありますね。事例として、ゴリラズがマドンナと共演したやつとか、故トゥーパックがスヌープドッグと共演したライブとか、ディラッドボードを使った初音ミクライブ、HoloLensの誤用についても載っています。

セミ・ホログラム、どうですかね?

蝉の脱皮ホログラム……。

ちょっと見たいかも。

そう。なんでこの件をまとめようかと思ったのが、これですよ。

これも、面白いけど、3Dホログラムじゃないよね。

これもホログラムじゃないです。手軽にできる3D映像装置。

キットカットのは、これを手軽にしたやつですね。

そう、セミ・ホログラム