書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。
書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
天久聖一(あまひさまさかず)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表第91回目である。
川本真琴と狩野英孝の熱愛騒動に、また新たな女性が現れ新展開を迎えているという。ハッキリ言って興味はない。ただ以前からなんとなく狩野英孝ってファラオ顔だなと思っていた。ツタンカーメンのコスプレとか無駄に似合いそう。それがあの男のモテる理由かどうかはさておき、今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう。
書き出し自由部門
今、この瞬間、月の自転を意識している人間は何人いるだろうか、と僕は思った。
代官山 ヒロシ
私のカルテを見て、初老の医師も頬を染めた。
偶数の指達
父の毛が生え始めた。人形の毛は伸びなくなった。
タクタクさん
「半身浴しながらでいいので聞いてください。」
くのゐち
長年通り過ごしてきた中華屋から、先輩が出てきた。
まじいい
インプラントという言葉の響きと露出の多い看護師のせいで、担当医の言葉が全く頭に入らない。
ら+
久々の田舎は少しも変わっていなかった。強いて言えば、おばあちゃんが語尾に小さく「ベイベ」をつけるようになっていた。
Mch
言われるがままに新入りの服を脱がし終えた。
うにねこ
ほとんど勘だけで大量の単行本から目当ての一話を見つけた。
TOKUNAGA
アンニュイな課長の呟きが祝日のタイムラインを汚している。
TOKUNAGA
灯の落ちたコインランドリーに、母が閉じこめられていた。
紀野珍
かい摘んだ要点は尾っぽを残して逃げ去った。
小夜子
雨がやみ、風がやみ、母だけが笑っている。
ウチボリ
本題に入ると、社長はカツラを外した。会議室の透明感が増していく。
ボーフラ
産まれや育ちなんか関係ない、と言われ続けた和牛が、赤提灯の鍋の中で湯気を立てている。
流し目髑髏
某はこの地で忍者を生業としているものである。あ、で御座る。
ホウソウブ
夜に輝く月もいいけれど、青空に浮かんだ白い月が好きだ。ふだんは意識しないが、ふと澄んだ冬空を見上げたとき「あ、あったんだ」と気づいてなんだか得した気分になる。代官山 ヒロシ氏の「今、この瞬間〜」を読んで思い出した。
タクタクさん「父の毛が〜」これはどっちの文を先にするかでかなり悩んだと思う(笑)。普通なら人形の下り先に書いてしまいそうだが、敢えて逆にすることで父のキャラ(毛髪への執念)がより出たと思う。
大伴氏「いったん法螺貝〜」くのゐち氏「半身浴〜」は奇しくも同じ呼びかけパターン。たしかにこの手法だと一発で周囲をオチに変えることができる。これは大喜利的な展開もできそう。大伴氏は「アメンボの〜」も秀逸!
まじいい氏「長年通り過ごしてきた〜」は地味だけど味わい深い作品。まるで小さな段差を踏み外すような出来事だが、本当のドラマとはこういうことからはじまるものかもしれない。
続いては規定部門。今回のモチーフは「芸能人」であった。書き出し記者たちの妄想スクープをどうぞ!
規定部門・モチーフ「芸能人」
マネージャーに確認してから笑うようにしている。
ヘリコプター
逃げも隠れもしない。そして質問は禁止だ。
東ことり
「みんな結局、悔い改めなあかんやんかー」懺悔室のついたてを、倖田牧師がハスキーボイスで震わせている。
アイアイ
その夜、蛭子能収は、六本木のバーの片隅で、世間が求める自分のイメージと闘っていた。
乾燥肌
すべてのパスワードを「PARM」に設定している男と言えば、私が誰だかおわかりだろうか。
伊勢崎おかめ
「私が死んだら魚葬にしてください」ボクはそう遺書に書いた。
伊勢崎おかめ
「芸能人がお忍びで訪れる隠れ家的な名店」は、意外にもチェーン店然とした外観だった。
紀野珍
テレビショッピング枠でなんとか食いつないでいける見通しがついた。
茂具田
職業欄には女優と書く。本当ではないが嘘でもない。
小夜子
「この人芸能人なんよ」知らない人だった。一緒に饅頭を喰った。
ボーフラ
道行く人のほとんどに「テレビで見るより縄文ぽいですね」と言われる。
morin
彼のサインが描かれた色紙は、心理テストの教材として良く使われている。
あつし
ジャニーさーん。僕っす。僕っすよ。ほら。僕っす。
ベランダ
先月の給料は八兆円だったぜ、錦鯉銀河です。
ベランダ
芸能界のドンと呼ばれる男は、大根役者と音痴の歌手が好きだ。
ボーフラ
謝罪したり、仕事を干されたりすることもあるけれど、何度でも復帰できるこの世界で、私は元気に生き延びています。
いいそのやすお
路傍のそれは、事務所を通すことでキラキラと輝き始めた。
suzukishika
「ちょっと勘弁してくださいよー!」と奴が立ち上がった所を撃て。
正夢の3人目
倒しても倒しても、三戸なつめもどきが現れる。
たこフェリー
カミングアウトした私は、歌のお兄さんだろうか。歌のお姉さんだろうか。
偶数の指達
歯も全部抜けたし、私たち、普通の年寄りに戻ります。
よしおう
夜に輝く月もいいけれど、青空に浮かんだ白い月が好きだ。ふだんは意識しないが、ふと澄んだ冬空を見上げたとき「あ、あったんだ」と気づいてなんだか得した気分になる。代官山 ヒロシ氏の「今、この瞬間〜」を読んで思い出した。
タクタクさん「父の毛が〜」これはどっちの文を先にするかでかなり悩んだと思う(笑)。普通なら人形の下り先に書いてしまいそうだが、敢えて逆にすることで父のキャラ(毛髪への執念)がより出たと思う。
大伴氏「いったん法螺貝〜」くのゐち氏「半身浴〜」は奇しくも同じ呼びかけパターン。たしかにこの手法だと一発で周囲をオチに変えることができる。これは大喜利的な展開もできそう。大伴氏は「アメンボの〜」も秀逸!
まじいい氏「長年通り過ごしてきた〜」は地味だけど味わい深い作品。まるで小さな段差を踏み外すような出来事だが、本当のドラマとはこういうことからはじまるものかもしれない。
それでは次回のモチーフを発表する。
台詞からはじまる小説は多くある。いまパッとは思いつかないが、とにかくある。次回はそんな台詞はじまりの書き出し小説に挑んで欲しい。台詞であることが分かりやすいよう台詞部分にはカッコをつけること、またカッコ以降には地の文がくっついていてもオッケーです(なくても可)。台詞ではじまる小説は単純にインパクトがある。物語のはじまりを告げるナイスな台詞をお願いします。あ、台詞はじまりの小説をいま思い出しました。蟹工船の「おい地獄さ行くんだで!」……流石名作ですね。
締め切りは2月19日正午、発表は2月21日を予定しています。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選んでお送りください。力作待ってます!
最終選考通過者
しゅぶた/井沢/たくま/g-udon/prefab/松っこ/菅原 aka $UZY/コロンブスのたま子/