この国にいま、新たな新幹線がどれだけ必要なのか。まずそこから考えるべきだ。

 北陸新幹線を福井県敦賀市から大阪市へ延ばす計画の早期着工論が、関西と北陸の政財界でにわかに高まっている。与党が5月をめどにルートを絞り込む作業を進めているためだ。

 ちょっと待ってほしい。巨額の建設費はどう捻出するのか。国の財政難や人口減を考えたとき、大阪延伸は喫緊の課題といえるのか。疑問は尽きない。

 地域の要望に応じ、新幹線をどんどん延ばせる時代ではないことを認識すべきだ。与党側には、夏の参院選で関西や北陸の有権者へのアピール材料になるとの思惑もあるようだが、「我田引鉄」などもってのほかだ。

 北陸新幹線は昨年3月に長野―金沢間が開業し、北陸と東京が直結した。22年度までに敦賀へ延伸される予定だが、その先はルートも決まっていない。

 関西―北陸間の移動の際、乗り換えなくて済むように、JR西日本は、車輪の幅を変えて在来線と新幹線を両方走れるフリーゲージトレイン(FGT)を投入する方針だった。

 ところが、国が主導するFGT開発はトラブル続き。実用化は大幅に遅れ、敦賀の延伸時には間に合わない見通しだ。

 北陸は首都圏からの観光ブームにわく。「大阪延伸を早く実現しないと、北陸が東京に取り込まれてしまう」との危機感は関西の経済界にとりわけ強い。

 ただ、新幹線建設費は原則として国民の税金でまかなわれる。国の借金が1千兆円を超す財政状況で、新規着工は努めて慎重に判断すべきだ。

 関西広域連合の13年の試算では、滋賀県米原市で東海道新幹線と合流させる最短ルート案でも5100億円、福井県小浜市経由だと9500億円かかる。

 JR西日本は先月、小浜から京都駅を経て新大阪に至る新たなルート案を与党側に示した。京都市内は地下を通り、京都―新大阪間には東海道新幹線と別に線路を引きたいという。

 JR西から説明を受けた関西広域連合が米原ルート支持を撤回するなど、沿線では「小浜・京都ルートが最有力」との見方が急速に広がっている。ただ、人口密集地を通すだけに建設費が1兆円を超すのは確実だ。

 敦賀―新大阪間は特急で1時間15分ほどだ。新幹線にすれば30~40分短縮できそうだが、巨費に見合う効果といえるか。

 与党と地元には、「早期着工ありき」ではない議論を望みたい。そうでなければ、多くの国民の理解は得られまい。