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 戦国武将のイケメン化が止まらない。たとえば、NHK大河ドラマ「真田丸」で話題沸騰中の真田幸村。小柄な体格で、大坂の陣の時には歯が抜け、白髪交じりだったとされる。それなのに、ゲームやマンガではキラキラの美少年に。一体なぜなのか。

 戦国武将たちが戦いを繰り広げる、アクションゲーム「戦国BASARA」。2005年の第1作以来、28の関連作品が発売され、累計売り上げは380万本を超える(昨年9月現在)。歴女ブームの立役者とも言われ、イベントや舞台には女性ファンがあふれる。

 ゲームの主人公は、幸村と伊達政宗。幸村は中性的な顔立ちの美少年キャラで、ライダースジャケット風の赤い衣装をまとい、2本のヤリを操る。

 史実によれば、大坂の陣で豊臣軍についた幸村は、大阪城に築いた出城「真田丸」で奮戦。夏の陣では、徳川家康の本陣に切り込み、一時は家康に自害を覚悟させるほどまで追い詰めたとされる。その雄姿は、敵方からも「日本一の兵(ひのもといちのつわもの)」とたたえられた。

 そんな幸村も、大阪の陣以前、和歌山・九度山での蟄居(ちっきょ)時代には、老境にさしかかった我が身を憂うような手紙を残している。

 「去年よりにわかに年より、ことのほか病者になり申し候、歯なども抜け申し候、ひげなども黒きはあまりこれなく候」。病気がちになり、歯が抜け、ひげの白髪も増えた、という内容である。

 が、近年のゲームやアニメでは、幸村の「高齢化問題」はなかったことになっている。ひたすら若々しく、美しく描くのが定番なのだ。

 戦国BASARAを発売するカプコン(大阪市中央区)の小林裕幸プロデューサーは「映画でもドラマでも、カッコイイ男が熱く戦う姿は人を引き付けます。生き様がすごくても、見た目がダメだと興味を持ってもらえない。幸村に限らず、幅広い層に受け入れてもらうために、爽やかにカッコ良く描いている部分はありますね」と明かす。

 購入者の男女比は7対3程度。男性はアクションの面白さ、女性はキャラやストーリーに魅力を感じる人が多いという。小林さんは「イケメン以外のキャラもおり、特に女性を狙ったわけではありません。子どもからお年寄りまでプレーできるよう間口を広げた結果、女性ファンがついてきた」と説明する。

 ゲームをきっかけに、歴女に開眼する人もいる。「歴ドル」の小日向えりさんは「そういう歴女の友達がいます。イケメンキャラにひかれて恋に落ちて、その人物に興味を持って史実を研究する。最終的には『肖像画でさえもいとおしい、愛せる』と言っていました」と話す。

 ゲームばかりではない。マンガで描かれた幸村像を見ると、1980年代ごろまでは簡素で武骨なビジュアルのものが多い。年を追うごとに多様化が進み、2000年代以降は線が細く中性的な描写の作品も目立つようになった。

 マンガ評論家の伊藤剛さんは「最近では、学習マンガや自治体のキャラクターなどにも、いわゆる『萌(も)え系』の絵が浸透しています。こうした絵柄の多様化は、『歴史上の人物は写実的な絵柄で描かれるものだ』という従来の考え方が『お約束』に過ぎなかったことを示しているのかもしれません」と指摘する。

 池波正太郎原作『真田太平記』のコミック化作品を手がけるマンガ家の細川忠孝さんは、BASARAが歴史コンテンツに女性ファンを呼び込む一つの契機になったとみる。

 細川さん自身の画風はどちらかと言えば力強く写実的で、いわゆる萌え系の描写とは一線を画する。それでも、「読者の共感を呼び、憧れられるようなカッコイイ男を描いていきたい。史実として正しくても、肖像画のオジサンが戦うようなマンガでは客層が広がりません」と語る。

 一方、武将のイケメン化の背景に、男性キャラ同士の恋愛関係を読み込む「ボーイズラブ」(BL)の影響を指摘する声もある。

 『なぜ幸村は家康より日本人に愛されるのか』の著書で、オタク文化にも詳しい東大の本郷和人教授(日本中世史)は、BLを愛好する「腐女子」の存在がイケメン化を促進する一因になっているのではないかと推測する。

 「エッフェル塔と東京タワー、どちらが『攻め』でどちらが『受け』か。そんな議論が成立してしまうぐらい、腐女子の人たちはクリエーティブで想像力豊か。おっさんの幸村をイケメンにしてしまうのなんて、朝飯前なんです」

 そもそも、幸村が美化されるのは、いまに始まったことではない。史料に残る名前は「信繁」。「幸村」の通り名は、死後に軍記物の講談などを通じて広まったとされる。

 『真田信繁 幸村と呼ばれた男の真実』の著者で、ドラマ「真田丸」の時代考証も務める平山優さんは、講談の幸村像に徳川幕府への不満を募らせた庶民のヒーロー願望が投影されているとみる。おおっぴらな批判ができないために、実名を避け「幸村」としたのだという。

 「家康をあと一歩まで追い詰めながら華々しく死んだ幸村の悲劇性は、日本人の琴線に触れる。だからこそ、そのイメージは繰り返し再生産されてきました」

 時代くだって大正期には、講談を書籍化した「立川文庫」が流行。言論弾圧など時代が徐々に息苦しさを増すなか、幸村に仕えた架空の忍者集団「真田十勇士」の活躍が喝采を浴びた。

 そして平成。ゲームやマンガ、さらには堺雅人さん主演の大河ドラマなど、「イケメン幸村」が百花繚乱(ひゃっかりょうらん)だ。平山さんは言う。

 「幸村は時代時代で表情を変化させてきた。これからまた、思いもしないキャラクターとして世に姿を現すのではないでしょうか」(神庭亮介)