死生観題材に震災考える「霊性の震災学」刊行
数多くの命を奪った東日本大震災について、東北学院大(仙台市)の学生らが、「死生観」を主題に向き合った。被災地でのフィールドワークを基に、これまで忌避されがちだった「震災死」を真正面から捉え、論考を書き上げた。論考は「呼び覚まされる 霊性の震災学 3.11生と死のはざまで」(新曜社)と題する本にまとめ刊行された。
論考を書いたのは教養学部地域構想学科の金菱清教授(社会学)ゼミの4年生7人。2014年4月から約1年間かけて調査や取材を重ねた。
「被災地支援のボランティアに参加するなどしてきたが、震災による死を正視してこなかった面がある。きちんと向き合おうということになった」。ゼミ長の菅原優さん(22)=栗原市出身=は一連の取り組みに込めた思いを語る。
菅原さんは名取市の閖上中旧校舎に建立された慰霊碑に着目。「生ける死者の記憶を抱く」という論考にまとめた。犠牲になった14人の生徒の名を刻む碑文は、生徒たちが生きていたという事実のみを記したと受け止めた。
鎮魂などの言葉がある慰霊碑を追悼型、復興などの文字が記されたものを教訓型と分類。閖上中の慰霊碑はそのどちらでもない「記憶」型だとし、記憶型の慰霊碑の本質を考察した。
「死者たちが通う街〜タクシードライバーの幽霊現象」を書いたのは工藤優花さん(22)=秋田県五城目町出身=。石巻市で何人ものタクシー運転手に聞き取りをし、「震災の犠牲者だったのではと思われる客を乗せ、会話もした」といった複数の体験談に接した。
工藤さんはもともと輪廻(りんね)転生などに関心があり、亡くなった人はどうなるのかを考えてきた。石巻での調査を振り返り、「亡くなった方の霊魂は被災した人々の心に宿っていると感じた」と話す。
このほか、「672ご遺体の掘り起こし〜葬儀業者の感情管理と関係性」、猟友会をテーマにした「原発避難区域で殺生し続ける」など多様な視点からの論考が並ぶ。金菱教授も「共感の反作用〜被災者の社会的孤立と平等の死」と題して一つの章を担当した。
金菱教授は「『死者はずっと生きている』といった人々の受け止め方が見えてきた。学生の調査と考察を通して、新しい宗教観にもつながる提起ができたと思う」と話している。
2016年02月07日日曜日