日本一の書評
2016年02月06日(土) 週刊現代

「被害国ニッポン」ばかりを映す、テレビドキュメンタリーへの違和感【リレー読書日記・堀川惠子】

週刊現代
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【PHOTO】gettyimages

映画は「一スジ、二ヌケ、三ドウサ」と言ったのは、映画監督・マキノ省三(津川雅彦の祖父)だ。訳せば「一に脚本、二に撮影、三に役者」。確かに映画は脚本である。どんな優れたカメラマンも名優も、ツマラナイ脚本を面白くはできない。テレビドラマも然り、出演者の顔ぶれが同じシリーズの中でも名作あり駄作あり、脚本の力は大きい。

テレビ朝日『相棒』は書籍化もされていて、最新刊はシーズン13。シリーズ累計230万部というから本の世界でも人気は凄い。とはいえドラマはやっぱりテレビで観たい。わが夫などCSの再放送を欠かさず録画し、脚本家ウォッチングに余念がない。この数年に確定した、わが家の独断に満ち満ちた『相棒』脚本家ランキングは次のような具合だ。

1位「社会派ヒューマニズム」の櫻井武晴。どんなテーマでも人間の弱さや業を描き、不条理の向こうに希望も忘れない。司法の知識は相当で、彼の2時間モノは見ごたえがあった。

2位「時空の旅人」こと古沢良太。話の種をあちこちにバラまきながら、時間と空間を自在に操る技巧派だ。

3位「穴熊」こと戸田山雅司。派手さこそないが、物語を手堅くまとめる腕は職人技。だが最近、この三人の名が見えなくなった。

目下、テレビではシーズン14の放送が続く。全体として謎解きに労力が割かれ、トリックに関心が向きがちな脚本が多い。人気ドラマを支える制作現場の苦労は計り知れないが、我が家の独断ランキングの脚本家たちが発するような深いメッセージ性は消えて久しい。

同じテレビでも、こちらは気の滅入る話。『NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか』。NHKの経営委員だった著者が、籾井会長就任前後の内幕をまとめている。

今ほど政権の意向が露骨に影響したNHK人事はない、と著者はいう。NHK会長の選出には経営委員の同意が必要だ。そこで安倍政権は、松本前会長時代の2013年、新任の経営委員に百田、長谷川両氏らの人事案を国会に提示。

野党は「これでは安倍の応援団だ」と猛反対。与野党一致で承認という慣例を、最後は自民が押し切った。良識にもとづく慣例など、いざとなれば本当に脆い。

会長人事の最中、NHKには街宣車が連日のように押しかけた。それが「前会長が退任を表明したとたんに姿が消えた」そうで、「その行動は明らかに政治的」という。そして就任した籾井会長はといえば「政府が右といえば右」的な思考の持ち主ときた。

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