よく講演やセミナーなどで、講演終了後、会場から質問を受け付けるものの、まったくお客さんから質問が出ず、会場が「シーン」としてしまう場面に出くわせます。嗚呼、厳しい。非常に気まずいシーンです。
しかし、この状況がなぜ生まれているのかを冷静に考えると、実は、こうした事態を避けるためのいくつかのコツがあることに気づかされます。僕は、これまで数多くの登壇経験を踏まえて、いくつかのコツ(言われてみればしょーもないことです)を編み出してきました。今日はそのことを書かせていただきましょう。
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たとえば100名もの人間が会場にいながら、質疑応答の際「シーン」としてしまうのはなぜか。この事態を分析していくと、まずは下記の3つの回答が考えられます。現象はいつだって論理的です。
1.質問を考える時間がなかった=事前準備ができなかった
質問を突然投げかけられたため、そもそも質問を考えていなかった
2.よい質問が浮かばない
どうも考えが言葉にならない
3.手をあげて発言するのがはずかしい
会場に緊張感が漂っていて、アホな質問ができなそうな雰囲気が漂っている
これら3つの状況に対する対処法で、僕がよくやる方法は下記です。
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まず、「1.考える時間がなかった」を防止する方法としては、会の冒頭、講演開始前の自己紹介の後など、
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「今日は、質疑応答の時間があります。講演者のAさんも皆さんとの質疑を楽しみにしていらっしゃいます。皆さんに質問をだしてもらいますから、必ず1人1個は考えて下さいね」'''
と「事前に打ち込んでおく」ことです。事前に「打ち込み」のない質疑応答には、「シーン」がつきまといます。僕は、質疑応答を突然はじめることはありません。突然質問を求めることもありません。必ず「考えてもらう時間」「準備してもらう時間」をもうけます。
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2番の「よい質問が浮かばない」への対処は、講演内容が難しいときなどによく起こりがちです。「モヤモヤ」しているんだけど、そのことが、「言葉」にならない。でも、この言葉にならない状況を手をあげてぶちまけるには勇気がいる。そうしたときに、この状況が生まれます。
結局、「質問ができる」ということは、それなりに「わかっていること」が求められるのです。
で、いきなり質疑にいくのが難しいという場合には、
「質疑応答の前に、会場内で、ペアになってペアトークをしましょう。お互いに、今、きいた話で印象深かったことを話し合ってみてください。また、同時に、どんな疑問がわいたかを話し合ってみましょう。1人1個は、質問を考えて下さいね」
としたりします。ペアトークで、「言葉にならない考え」を無理矢理、言葉にしていただくのです。ペアトークの後は、質疑応答にうつれば、たいていは質問がでるものです。
3「手をあげて発言するのがはずかしい」を防止する方法は、「なんか、アホな質問をしてしまったらどうしよう?」とみなが思っているときに生じます。このときに必要な対処は「質問のハードルをさげること」です。
じゃあ、どうするか。
自分でやるしかありません。
これは司会者である自分が、
「あのー、すみません。じゃあ、まずは、僕から、少し基本的なことから伺ってもいいですか?あのー・・・についてはどうなんでしょ。少し基本的な質問からですが」
という具合にして、「ハードルの低い質問」を講演者に自ら投げかけることです。そうすれば、質問のハードルがぐんと下がります。
経験上、ここまでやれば、ほぼ100%、1つくらいの質問がでるものですが、本当に、ここまでやってもダメな場合はどうするか。
それは少し荒技なのですが、
''' 「シーンとしている状態を自ら消去し、会場に、質問例を提示する」
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という高等テクがございます。「シーンとした状態」がさらに場を重苦しくしてしまうので、「自分がしゃべることで、シーンという状況を消す」のです。
すなわち、
'''「質問どなたかいらっしゃいませんか?(3秒くらい沈黙)質問ねぇ、、、たとえば、僕ですとね、・・・・なんてどうなんだろう?みたいな疑問がわきましたね。たとえば・・・についてはどうなんでしょうね・・・そういう質問、皆さんもでてきていると思うのですが・・・」
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という具合に、自ら「シーンという沈黙」を消去し、質問例を投げかけていきますと、たいてい、手があがります。
「シーンという沈黙」はそれを破るのも勇気がいります。それを司会者自らが引き受け、さらには質問例までだしてしまう、ということですね。
司会者は、そんな事態に対処するため、常に内容を精査し、自ら質問を考えておくことですね。司会者というものは、講演者の名前を呼んで、会場に拍手を促す存在ではない、と僕は思っています。司会者とは、会場に問いかけ、考えさせる状況をつくりだす人のことをいうのだと思います。
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最近、僕は、講演にくわえて、司会などをさせていただくことも多くなってきました。今日は、僕自身が編み出した?「質疑応答を制御するためのテクニック」をかかせていただきました。
このほかにも、いろいろテクニックがありそうですね。
皆さんは、どんな風にして「シーン」に対処していますか?
そして人生はつづく
(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に掲載され2015/11/11の記事に、加筆・修正を加えたものです)