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【社会】

少女がつなぐ「78円の命」 猫殺処分の値段「胸がはりさけそう」

 猫の殺処分に心を痛めた愛知県豊橋市の少女の作文「78円の命」がインターネットなどで広がり、共感を呼んでいる。賛同した東京の若手アーティストらが作文を絵本やポスターにして、全国の子どもたちに命の大切さを伝えようと動きだした。(小椋由紀子)

 <命の価値がたった78円でしかないように思えて、胸が鳴り、はりさけそうになった>

 作文は、豊橋市青陵中三年の谷山千華さん(14)が小学六年の夏休みに書いた。近所の野良猫「キキ」の産んだ子猫がいなくなったのをきっかけに、殺処分のことを知った。

 処分の現状を伝える動画などをネットで見たところ、映し出された「処分費一匹七十八円」の文字に言葉を失った。子猫を捜しているかのようなキキのかれた声に、眠れなくなった。

 思いを書き、市内小中学生の作文大会で発表すると最優秀賞に。地元で野良猫の保護活動をする市民団体がブログで紹介し「少女の悲しみに心が痛む」「無責任な大人たちが読むべきだ」と反響が広がった。

 豊橋市の漫画家鈴尾粥(かゆ)さん(30)が昨夏、漫画にしてインターネットで発表すると、東京都在住のライター戸塚真琴さん(28)や写真家、デザイナーらの目に留まり、ボランティアのプロジェクトが始まった。

 インターネットを通じて不特定多数に事業資金を募る「クラウドファンディング」で印刷費を集め、命の大切さを訴える絵本や啓発パンフレット、ポスターを四月に完成させる。まずは豊橋市の小中学校に寄贈し、全国に広めていく。

 戸塚さんは「幼いころ、捨てられた猫や犬を救えなかった経験がある人も多く、作文に心を揺さぶられる。命を捨てないよう考える一助になれば」と話す。

 千華さんの母泰代さん(47)は作文をきっかけに、野良猫に不妊手術をして世話をする「地域猫」活動を近所の人たちと始めた。千華さんは「作文でたくさんの人が命について考えてくれている。一匹でも多く救えたら、うれしい」と話す。

 クラウドファンディングは「78円の命プロジェクト」でインターネット検索。三月三十一日まで。

―作文抜粋「命の価値がたった…」

 近所に捨てネコがいる。人なつっこい性格からいつの間にか近所の人気者になっていた。2年たった頃にうれしい出来事があった。赤ちゃんを産んだのだ。行き場所のない子ネコたちを近所の○○さんが預かってくれた。

 ある日、子ネコの姿が見えなくなった。○○さんは「センターに連れて行ったよ」と、うつむきながら言った。たぶん新しい飼い主が見つかる所に連れて行って幸せに暮らせるんだなと思った。

 学校で友達に話したら「保健所だろ? それ殺されちゃうよ」と言った。「そんなはずない。絶対幸せになってるよ」。授業中も保健所のことで頭がいっぱいだった。走って家に帰ると、パソコンの前に座った。

 想像もできないざんこくなことがたくさんのっていた。見捨てられた動物は3日の間、飼い主をひたすら待ち続けるのだ。飼い主が見つからなかった時には、死が待っている。

 10匹単位で小さな穴に押し込められ、二酸化炭素が送り込まれる。数分もがき、苦しみ、死んだ後はごみのようにすぐに焼かれてしまうのだ。動物の処分、1匹につき78円。命の価値がたった78円でしかないように思えて、胸が鳴り、はりさけそうになった。

 命を守るのは私が考えるほど簡単なことではない。生き物を飼うということは一つの命にきちんと責任を持つことだ。今も近所に何匹かの捨てネコがいる。このネコたちをかわいがってもいいのか、ずっと悩んでいる。(一部抜粋、原文のまま)

 <犬猫の殺処分> 環境省によると、全国の犬猫の殺処分数(2014年度)は10万1338匹に上る。新たな飼い主を見つける民間や行政の取り組みもあり、10年前の約4分の1に減った。猫は7万9745匹で、6割近くが子猫。犬は2万1593匹。殺処分にかかる費用は自治体によって異なるが、インターネット上では、1匹当たりに換算して「78円」などとする記述がある。

(東京新聞)

キキと遊ぶ谷山千華さん=愛知県豊橋市で

キキと遊ぶ谷山千華さん=愛知県豊橋市で
 

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