デフレ脱却を前に進めるために期待されることの一つが、パートなど非正規で働く人たちの賃上げだ。今年の春季労使交渉では非正規社員の待遇改善が例年以上に注目される。その前提となる生産性向上の手立てについて企業の労使は議論を深める必要がある。
総務省の労働力調査によれば非正規で働く人は昨年12月に2038万人に達している。雇用されている人の38%を占める。だが国税庁の調査では2014年1年間に非正規労働者に支払われた給与総額は正社員の12%にとどまる。賃金水準が正規と非正規で大きな開きがあることを示している。
今より付加価値の高い仕事をしてもらったり、業務効率の向上を促したりしながら、企業は非正規社員の賃上げに努めるべきだ。消費が拡大して企業収益が伸び、それがまた賃金増や雇用創出につながる好循環には、正規、非正規両方の賃金上昇が求められる。
バブル崩壊以降、企業は人件費削減に力を入れてきたが、労働力不足は軌道修正を迫る。労働力が貴重になれば、一人ひとりの生産性を上げ、それに見合った対価を払う経営が企業の成長に欠かせない。非正規社員の待遇改善は経営環境の構造変化に沿う。
生産性を高めるうえで重要になるのは働く人が新しい技能を身につけることだ。春の労使交渉は正社員のほか非正規社員についても能力開発の進め方など人材育成策を議論するいい機会になる。
非正規社員を、短時間勤務や勤務地限定の正社員に登用することも検討すべきだ。責任が強まることで、持てる能力をより発揮できる場合もあるだろう。
流通・サービス分野を中心に非正規社員の組合員が多い労働組合はあるが、日本の労組の大部分は正社員を主体に構成する。このため非正規社員の待遇改善より正社員の利益を優先する傾向が強い。
しかし雇用形態が多様化し、働く人全体の利益にかなう行動が労組に求められよう。春季交渉では労組の存在意義も問われている。