2016年2月6日(土)
【論説】県内の指定廃棄物 問われる国の責任能力
福島第1原発事故で出た指定廃棄物の県内での処分方法が固まった。分散保管で落ち着いたものの、それは廃棄物の行き場が定まらず関係自治体がやむを得ず選択した方法にすぎない。国が責任を持って対応すると言っても、現実には極めて困難が伴い、同様の問題を抱える他県では、福島を除いては処分先がいまだに定まらない状況だ。使用済み核燃料と同様に汚染された物質に国がどれだけの当事者能力と具体策のある責任を持てるのか、本県の状況を見ても疑問を感じざるを得ない。
県内の指定廃棄物の処分方法については4日、一時保管している14市町と環境省との会議で、現状のまま各自治体で分散保管することが容認された。
福島の原発事故では大気中に放射性物質が放出され、原発周辺だけでなく、東北から関東周辺まで広範囲にわたって汚染される事態となった。ごみの焼却灰、浄水発生土、下水汚泥、稲わら、堆肥などの汚染廃棄物が生じ、その処分や保管方法が大きな問題となった。
福島県以外でも、宮城、栃木、千葉、茨城、群馬では量が多く、一定の濃度を超えた指定廃棄物については、国の責任の下で適切に処理することが決まった。その対策として、5県にそれぞれ長期管理施設を1カ所造る計画が立てられた。だが現実には地元の理解を得るのが難しく、5年たった今も5県で処分地が決まった所はない。本県では高萩市内への建設計画が浮上したが、地元の強い反発に遭い白紙に戻された経緯がある。
行き場のない指定廃棄物。打開策が見当たらないまま、県内の関係首長が苦肉の策として出したのが分散保管である。これを容認した国は、さらに放射性物質の濃度が基準値以下となれば、一般のごみと同じように処分場に埋め立てられるという新ルールも示した。
関連する費用は国が担うにしても、廃棄物の保管から処分まで結局は自治体に委ねられた格好だ。この5年間、国が目に見える形で責任を持って対応できた策はいかほどだったろうか。
国内では昨年8月、九州電力川内原発(鹿児島県)が再稼働し、他原発でも準備が進められている。再稼働に当たって国は、原発の事故対策や廃炉などの課題に「責任を持って取り組む」と表明しているが、指定廃棄物の問題すらなかなか解決できない現状の中で、万一、重大事故が起きた場合に、国がどこまで責任ある対応ができるのか、今の福島県の現状を見てもはなはだ心配である。
国は原子力政策として核燃料サイクルを打ち出している。しかし、使用済み燃料に対応する再処理工場はトラブル続きで本格稼働に至らず、抽出されたプルトニウムを燃料とするはずだった高速増殖炉は頓挫。再処理で生じる高レベル放射性廃棄物は処分場が見つからない状況だ。各原発には使用済み核燃料がたまり、指定廃棄物に限らず、処理策も不完全なまま原子力政策は進められている。
原子力事業には地元の同意が必要となるケースが多い。だからといって負のツケだけを地元に回されてはたまらない。そこに至るまでには、国の政策、地元還元策という呼び水があるからだ。福島で起きた人と財産の莫大な喪失、「国の責任」を持ってしても対応困難な状況が限りなくあることを、国はさらに自覚して住民目線の政策を進めるべきであろう。