TPP署名 発効へ丁寧な議論を
毎日新聞
日米など12カ国が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に署名した。各国は議会承認など国内手続きを本格化させ、早期発効を目指す。
世界最大の自由貿易圏を形成するTPPはアジア太平洋地域の発展に不可欠だ。だが、日本でも市場開放に消極論が根強い。内容も国民に周知されているとは言い難い。
政府は来月にも協定の承認案や国内農業対策の関連法案などを国会に提出する。政府は国会審議を通じて丁寧な議論に努めるべきだ。
安倍晋三政権はコメなど重要5項目を「聖域」と位置付け、TPP交渉に臨んだ。首相は「関税撤廃の例外を確保した」と説明する。
ただ、牛・豚肉などは関税が引き下げられる。野党は「聖域が確保されていない」と批判している。
歴代政権は高関税で農家を手厚く保護してきた。だが、農業は衰退に歯止めがかからない。TPPは農産物の輸出拡大によって農業の足腰を強める好機でもある。
首相も「攻めの農業」への転換を掲げる。しかし、具体案は先送りされた。政府は畜産農家の経営安定化策として国の負担を増やし農家の赤字穴埋め比率を引き上げる方針だ。
不安を抱える農家に一定の配慮は必要だ。だが、参院選を控え、保護策の議論ばかりが先行し、ばらまきに陥りかねない。意欲的な農家を後押しする政策の具体化も急務だ。
政府は「TPPは国内総生産(GDP)を実質で約14兆円押し上げる」と試算する。懸念される農林水産物の生産額減少は、最大で2100億円にとどまるとしている。
しかし「楽観的だ」との指摘もある。交渉が秘密裏に進められたため、政府が主張する効果も国民に理解されているかは疑問だ。
交渉経過を熟知している甘利明氏が金銭授受問題でTPP担当相を辞任した。閣僚が交代しても、政府は説明がおろそかにならないよう万全を期すべきだ。
米オバマ政権も早期の議会承認を求めている。しかし、与党・民主党には「貿易自由化で雇用が奪われる」との反対論が根強い。
議会の過半数を占める野党・共和党は賛成派が多い。だが、11月の大統領選を控え、政権批判を強めている。共和党幹部は審議を大統領選後に先送りする意向を示している。
大統領選の有力候補者は多くが反対している。審議を持ち越すと、先行きに不透明感が増す。
オバマ政権の狙いはアジア太平洋地域の活力を米国に取り込むことだ。中国経済が減速し、域内の成長底上げが見込めるTPPの意義は高まっている。重要性を議会に説いて理解を広げる努力をしてほしい。