かつて花形ジャンルだったシューティングゲーム。
自分が子供の頃、ゲーセンの王者は間違いなくシューティングゲーム(以下STG)だった。
まだアップライト筐体ではなくテーブル筐体が主流で、平面のモニターが蛍光灯の光を反射して見難くなるので、ダンボールで出来た謎のカバーが置いてあった。
だが、1991年にその状況を一変させるゲームが登場する。カプコンの「ストリートファイターII」だ。
もともと、その2年前の「ファイナルファイト」の大ヒットで、ゲーム業界にベルトスクロールアクションのブームが来ていたが、ストIIのヒットはSTGを王座から引きずり下ろすのに十分な威力を持っていた。
なにしろ、インカム(ゲームの稼働に対する売上率)が格闘ゲームとSTGでは圧倒的に違うのだ。オペレーター(ゲーセンの経営者を昔はこう呼んだ)は当然ながらインカムの高いゲームを好んで入荷した。必然的に、ゲーセンは格闘ゲームだらけになっていった。そして、対戦が主流になるにつれて、筐体もテーブル筐体からアップライト筐体へと変わっていった。
そのストIIと同じ年に、ある1つのSTGがリリースされた。それこそが、後のタイトーSTG、そして多くのSTGに影響を与えることになるカルト的な名作「メタルブラック」だ。
F2システムとの苦闘。
まずは何も言わずこのデモから1面のスタートに繋がる素晴らしい演出を見て、ZUNTATAの渡部恭久 (Yack.)氏による美しい曲を聞いて欲しい。
とにかくこのゲームは一事が万事この調子でカッコイイ。
特に、1面のBGMである「Born to be Free」は、ゲームの世界観、退廃的なストーリーとそれを演出する美しいグラフィクスと相まって、STG史上に残る名曲と言っても過言ではない。
このゲームの精神的な前作に当たる「ガンフロンティア」と、この「メタルブラック」は、タイトーのゲームデザイナーであり、元アニメーターである仙波隆綱氏が中心となって作られた。仙波氏のアニメーター時代の代表作は「プロゴルファー猿」「ホワッツマイケル」「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」などである。
この制作過程をここで見ることが出来るが、なかなか壮絶だ。
「ガンフロンティア」は、元々は新開発の基板である「F2システム」の普及を目的に、(企画当時はまだメジャージャンルだった)テーブル筐体でのSTGを自社で開発するという理由で制作された。
当時、タイトーのSTGといえば「ダライアス」や「ナイトストライカー」などの専用筐体ものが主流で、テーブル筐体のSTGは殆ど東亜プランやホット・ビィなどへの外注だった。その中には「究極タイガー」などの名作や、「インセクターX」などのカルトゲーがあったりする。
そんな中、肝心のF2システムの開発者である藤本克二郎氏が、交通事故で急逝する事件が起こる。これにより、ガンフロンティアの開発は「基板の能力を解析しながらゲームの開発をする」という、今で言うデスマーチの様なものになってしまった。だが、その過程でF2基板の潜在能力が非常に高いものであることが判明する。
最終的に、仙波氏を中心とするスタッフはタイトーが求める納期を守り、かくして「ガンフロンティア」は世に放たれた。爆発的ヒットというわけには行かなかったが、後に「バトルガレッガ」などのフォロワーを生み出し、STGの歴史に名を残すことになる。
※ちなみに、個人的なことを言うと、「ガンフロンティア」は行きつけのゲーセンに入荷しなかったので、遊んだのはSEGA SATURN版が最初である。だが、あれは評判がよろしくなかった。後にタイトーメモリーズでちゃんとしたのを遊んだが、えらい難しかった。
演出系STGの極北。
タイトーは仙波氏にF2システムを使った新たなゲームの制作を即座に依頼した。元々企画自体はガンフロンティアの1年前に作られていたが、そんな経緯で生まれたのが「メタルブラック」だ。
ガンフロンティアから若干名を追加されたスタッフは、このゲームを7ヶ月でマスターアップした。タイトーの要請では3ヶ月(無理ゲー)だったが、ガンフロンティアの11ヶ月からすれば大幅に短縮された。
「メタルブラック」は、タイトーの経営陣に企画を通す際に、ハードSFすぎる内容が理解されないと考えて、あたかもガンフロンティアの続編であるかのような説明がなされた。本来はストーリー上まるで関係ないのだが、たとえばSEGA SATURN版の取扱説明書ですら、敵はガンフロンティアの「宇宙侵略軍ワイルドリザード」という事になっている。
※SATURN版の取説。本来のストーリーは1997年のイメージアルバム及び仙波氏本人へのインタビューまで明かされなかった。
実際には、敵はオールトの雲から現れた謎の敵対生命体「ネメシス」である。 彼らの圧倒的な戦力の前に人類はもはや絶滅寸前だった。
人類はネメシスのエネルギー源である「ニューロン(正式にはニューアローン)」を利用した新兵器を開発する「プロジェクト メタルブラック The Military Enforce Totalwar for Absolute Liberty(完全なる自由のための軍事的総力戦): Beam, Lesson, Aircraft, Carrier(作戦遂行のために必要なビーム兵器、パイロットの育成、戦闘機、母艦の開発): Kill off(今作戦の最終目的、敵の殲滅)」により、最後の反撃に出ようとしていた。
だが、地球政府はネメシスとの不可解な和平協定を結び、プロジェクトは大統領特殊命令#033944により永久に凍結される。主人公であるジョン・フォードはプロジェクトの成果である最終兵器「CF-345ブラックフライ」を強奪。人類とネメシスすべてを敵に回し、ただ一人で飛び立っていった。
1面でネメシス以外に普通の戦闘機が飛んで来るのは、主人公を止めようとする人類側の兵器だ。2面では大気圏外に脱出した主人公を、あろうことか地球政府が核ミサイルを使って葬り去ろうとしてくる。
ステージの最後に待ち構えるボスの名前は、すべて人類の負の遺産から取られている。たとえば1面のボスはアパルトヘッド、2面のボスはフェドロ、3面のボスはダイオ&ギシーンだ。
そして、最終面ではボスとの戦闘中の背景に、人類の進化と争いの歴史が映しだされる。ラスボスを倒した時の演出は、高校生の自分に大きな衝撃をもたらした。自分は、とんでもないゲームに出会ってしまったのではないか。
※ちなみに、このゲームバットエンドがあり、そっちもなかなか燃える。最終面で死ぬと見られる。熱い。
受け継がれたもの。
「メタルブラック」は、STG単体として考えると、実は評価の難しいゲームだ。
自機のショットは「ニューロン」という、ステージ中に漂っている分子模型の様なものを取得することで段階的にパワーアップする。だが、前述のストーリーでもあったように、これは敵のエネルギー源でもある。つまり、中ボスやステージボスなどもニューロンを使ってパワーアップするのだ。
そして、ビーム解放ボタンを押すことにより、取得したニューロンのエネルギーを放出することが出来る。ボタンを押しっぱなしにすれば「MAXレーザー」という極太のレーザーを放つことができる。ステージボスなども同じ攻撃をする事ができ、互いのレーザーがぶつかるとエネルギー干渉が起きて巨大なエネルギーの球体が発生し、ニューロンエネルギーの少ない方に向かって行く。つまり、ビームの押し合いをするのだ。
このエネルギー干渉によるビームの押し合いは非常に気持ちいい。これでボスを倒すと本当にカッコイイ。これと似たようなシステムが、後に「Gダライアス」や「ダライアスバースト」に取り入れられることになる。
ちなみに、ビーム解放ボタンを押してすぐ離せば、画面全体に放射状にエネルギーを放出して攻撃する事が出来る。だが、一般的な「ボム」とは違って自機は無敵にはならない。はっきりいうとそんなに使えない。
敵の出現位置は固定だが、攻撃のアルゴリズムにどうもランダム性があって、完全なパターン化は難しい。特に、2面ボス前の乱戦は事故が起こりやすい。おまけに、当時のゲームでは普通だったが、当たり判定が大きい上にライフ制でもないので、なんかゴチャゴチャしているうちに死んでいたということがザラに起こる。
一番問題なのは、四方八方から敵が出てくる割に、自機は正面にしか攻撃手段を持たない点だ。これは、ショットをパワーアップさせることで当たり判定を増大させ、それを使って上や下の敵を攻撃する「腹撃ち」でカバーできるのだが、これは敵に相当接近しなければならないため、初心者には難しい。
1面と3面の終了後には、突然一人称視点でのボーナスステージが挿入される。いきなり画面に照準が現れて、なんか敵が出てくるので目標をセンターに入れてスイッチを押すと、板野サーカスバリの演出でミサイルが飛んでいき敵を撃破する。そのミサイルを普段も使わせてくれと思ってしまわなくもない。
と、色々な問題も多く、正直STGに不慣れな人には見向きもされないかもしれない本作だが、後のSTGに与えた影響は大きい。タイトーの「レイフォース」「レイストーム」「ダライアス外伝」「Gダライアス」「ダライアスバースト」など、演出やシステムの一部が受け継がれたゲームは枚挙にいとまがないし、「旋光の輪舞」などで有名なグレフ(元タイトーのスタッフが設立した会社)の「ボーダーダウン」は、本作へのオマージュだと言われている。
「メタルブラック」のリリース後、仙波氏のチームは解散となり、仙波氏自身もやがてタイトーを去る。だが、彼が業界に残したものは大きい。「ガンフロンティア」と「メタルブラック」がなければ、後の演出系STGの多くが生まれなかったか、あるいは世に出るのが随分と遅れただろう。1回だけその目で見たことのある「ダイノレックス」はアレだったが、制作秘話を読むとなんとも言えない気持ちになる。
仙波氏は、「メタルブラック」のスタッフロールの最後に出てくるセリフを「THE END」から「GOOD BYE」に変えている。だが、彼の意思は確実に後の世に受け継がれている。
Born to be Free.
自由になった仙波氏は、現在はイラストレーターとして活動している。