満席でも赤字の演劇事情。それでも公的資金で上演する意味とは?
『国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2016』- インタビュー・テキスト
- 徳永京子
- 撮影:田中一人
ここ数年、日本の作・演出家や、国内の状況を色濃く反映した演劇作品が、ヨーロッパやアジアの演劇祭に次々と招聘されている。そのきっかけとして、国内のアーティストと海外のプロデューサーらの出会いの場となっているのが、舞台芸術の国際見本市である『TPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)』だ。
かつて、日本のパフォーミングアーツを海外で成功させるには、マイムやマジックやスポーツの要素を導入するなど、言語に頼らないノンバーバルな表現にすることが必須だとされてきた。それが現在のような状況になったのはなぜなのか? 国内外の舞台芸術シーンを20年以上にわたって見てきた『TPAM』ディレクターの丸岡ひろみに、いま「日本の演劇」が世界から求められている理由を、国内外の状況や公共との関係から聞いた。
いま、「日本の演劇」がキテいる?
―近年、日本の作・演出家の舞台作品が海外で上演されることが非常に増えています。若手が注目されることも多く、『TPAM』をきっかけに、マームとジプシーがチリ、イタリア、中国に、範宙遊泳がタイやカンボジア、インドに招かれて、共同制作やワークショップを行なっています。いま、日本の演劇のブランド力は高いのでしょうか?
丸岡:私の知っている限り、高いです。たぶん洗練されたイメージがあるんでしょう。たとえば、チェルフィッチュの岡田利規さんの作品に代表されるような、同時代的でありながら見た目も動きも明らかに違う、クールかつ力強いイメージ。海外の演劇祭に集まるプロデューサーや観客の間では、日本人だったら名前を知らなくても観るという現象が起きていると聞きます。まあ、もしかしたらそれは「起きていた」かもしれません。流行みたいなものでもありますから。
『TPAM2016』 チェルフィッチュ『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』 ©おおいたトイレンナーレ実行委員会 Photo: Yasunori Takeuchi
―その時々で「いま、ドイツがキテるよね」とか。
丸岡:そうそう、「日本、キテるよね」はありました。ただ、岡田利規さんをはじめ、複数の舞台人は「日本っぽい作品」というレベルではなく、優れた個人のアーティストとして国境を越えてリスペクトされていると思います。先日、韓国・光州にあるアジア芸術センターの芸術監督が言っていましたが、日本は欧米の近代化をモデルとしていたけれど、他のアジアの国は違うかたちで近代化している。そんななか、若い人が人口の多くを占めていて、ものすごい勢いで経済成長を遂げているアジアの国から現れる作品は、世界的に見ても新鮮に映るものがある、と。「タイがキテる」「韓国がキテる」はいまのところないけれど、そういう萌芽があるのはたしかで、優れたアーティストが国際的に認知されるきっかけになることはあると思います。
―日本だけでなく、他のアジアの国にも注目が集まる流れがある。
丸岡:ざっくり言えば、欧米的なセンスでないものを求めている人が増えていると思います。もしかしたら中近東の作品に対する視点も同じかもしれません。いわゆる「エキゾチシズム=異国への憧れ」とは違っていて、欧米型のグローバリゼーションのなかで、行き詰まりを打開する方法を探している。そのヒントを感じさせる人がアジア圏から登場しはじめていて、ヨーロッパや北米のフェスティバルや劇場なども注目している感じがします。
―『TPAM』も数年前から上演作品をアジア全体に広げていますが、そういった理由からですか?
丸岡:『TPAM』に来てくれた世界中の舞台関係者から話を聞くと、せっかくアジアに来たんだから、日本だけじゃなく周辺地域の作品も観たいという声が多くあったんです。『TPAM』は国際的なプラットフォームなので、そういう役割も当然期待されます。いまは状況が変わりつつありますけれど、少し前まではアジアの演劇をまとめて紹介するプラットフォームが少なかったので、自分たちでやりたいと考えるようになりました。
―いまの『TPAM』は、日本だけでなくアジア最先端の舞台芸術が上演され、世界中の舞台関係者が、自分の国で上演したいものを見つけたら、その場で交渉する場になっています。
丸岡:もともと『TPAM』の「M」はマーケットという意味だったんです。見本市至上主義的に聞こえるかもしれませんが、アジアにおける2000年代の舞台芸術関係者のネットワークは、各地の見本市が牽引していました。当初はそれぞれが「うちは世界のハブなんです」みたいに競争していたけれど、どこも自分だけでは全部できないとわかってきて(笑)、他と協力し合ったほうがいいと考えるようになり、やっと最近かたちになってきました。10年前は、協力し合う必要性は論じられても机上の空論で終わっていたのが、いまはアジアのネットワークが具体的に見えてきていると思います。
イベント情報
- 『国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2016』
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2016年2月6日(土)~2月14日(日)
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場、横浜赤レンガ倉庫1号館、BankART Studio NYK、YCC ヨコハマ創造都市センター、神奈川県民ホール 小ホール、AMAZON CLUBほか
参加作品:
『TPAMコプロダクション』
ピチェ・クランチェン ダンス・カンパニー『Dancing with Death』
マーク・テ『Baling』
映像展示『アジアン・アーティスト・インタビュー』『TPAMコンテンポラリー・クラシックス』
宮城聰、SPAC - 静岡県舞台芸術センター『メフィストと呼ばれた男』
キム・ミンギ × キム・ミンジョン × ムーブメント・ダンダン『2016 工場のともしびー劇場デモ』『TPAMディレクション』
[タン・フクエンディレクション]
The Observatory『Continuum』(恩田晃 音楽プログラム)
タラ・トランジトリー aka One Man Nation『//gender|o|noise\\』
ダニエル・コック、ディスコダニー&ルーク・ジョージ『Bunny』
ホー・ルイ・アン『Solar: A Meltdown』
チョイ・カファイ『SoftMachine: Expedition』
[加藤弓奈ディレクション]
ドキュントメント(北尾亘、山本卓卓)『となり街の知らない踊り子』
チェルフィッチュ『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』
[中島那奈子ディレクション]
『ダンスアーカイブボックス@TPAM2016』
[コ・ジュヨンディレクション]
ユン・ハンソル × グリーンピグ『語りの方式、歌いの方式―デモバージョン』
[恩田晃ディレクション]
鈴木昭男、堀尾寛太、ビン・イドリス『Music Opening Night』『TPAMショーケース』
岡崎藝術座『イスラ!イスラ!イスラ!』
大駱駝艦『大駱駝艦・天賦典式「クレイジーキャメル」』
冨士山アネット『DANCE HOLE』
オペラシアターこんにゃく座『Opera club Macbeth』
世田谷パブリックシアター『同じ夢』
アジアン・ミュージック・ネットワーク『アジアン・ミーティング・フェスティバル 2016』
バチ・ホリック『Taiko Rock “BATI-HOLIC(撥中毒)”』
shelf『shelf volume 21 “Hedda Gabler”』
H-TOA『ワンさんの一生とその一部』
鴎座『dance performance HER VOICE 彼女の声』
インテグレイテッド・ダンス・カンパニー 響-Kyo 『Integrated Dance Company 響-Kyo workshop』
blanClass『Live Art & Archive Anthology #2 on TPAM Showcase 2016』
関かおりPUNCTUMUN『を こ』
うさぎストライプ『セブンスター』
濵中企画『かげろう ―通訳演劇のための試論―』
リクウズルーム『三人正常ちょっとだけ』
ふたりっこプロデュース『Washi+Performing Arts? Project Vol.1』
AMD『トムヤムクンと夜へ』
三野新『Prepared for FILM』
鷹島姫乃『鷹島姫乃の路上演劇』
ダンスアーカイヴ構想『ダンスアーカイヴプロジェクト2016』
小池博史ブリッジプロジェクト『注文の多い料理店』
白井剛ダンスリサーチワークショップ
村川拓也『終わり』
岩渕貞太、身体地図『岩渕貞太パフォーマンス公演「斑(ふ)」』
横浜シアターグループ『By the Hour』
笠井叡、天使館『冬の旅』
時間堂『時間堂レパートリーシアター in 横浜』
EYECANDY『PEEP SHOW Vol.4 ~MYSTIC JUNGLE~』
すこやかクラブ『ゆけゆけ!おむちゅび大冒険!!』
有代麻里絵『オルフェウスの鏡』
プロフィール
- 丸岡ひろみ(まるおか ひろみ)
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国際舞台芸術交流センター(PARC)理事長。海外からのダンス・演劇の招聘公演に関わる。2005年より『TPAM』(11年より『国際舞台芸術ミーティング in 横浜』)ディレクター。2003年『ポストメインストリーム・パフォーミング・アーツ・フェスティバル(『PPAF』)』を創設。ダンス・演劇を中心に国内外のアーティストを紹介。2008年・2011年『TPAM』にて「IETMサテライト・ミーティング」開催。2012年、サウンドに焦点を当てたフェスティバル『Sound Live Tokyo』を立ち上げる。