もう10年以上前のことだが、私は大手予備校で個別指導講師のバイトをしていた。そのときは「事前準備の時間が必要なことを踏まえて」と釘を差されたが、時給は2000円を超えていたので、実に“おいしい”バイトであった。しかし、それから時代は変わり、どうやら状況は変わりつつあるらしい。
【詳細画像または表】
● 大手予備校閉鎖の裏で 急増する塾講師の新規求人数
2014年夏、予備校業界最大手の代々木ゼミナールが、全国27ヵ所の校舎のうち、20ヵ所を閉校すると発表した。大量閉鎖の理由に挙げられていたのは少子化と浪人生の減少。現役合格を目指す人が増え、浪人生が減れば、それだけ予備校の出番は少なくなる。
代々木ゼミナールのニュースが大々的に報じられたので、塾業界では求人も低迷しているものとばかり思っていたのだが、実はそうではないようだ。経済産業省の『特定サービス産業動態統計調査』によれば、ここ数年、専任講師の数はほぼ横ばいだが、非常勤講師数は10年ほど前に急増し、その後、勢いはゆるやかになったがじわじわと増加を続けている。
◆図1:学習塾生徒数
◆図2:非常勤講師数
しかし、実は塾講師はこれでもまだ足りていない。厚生労働省が集計している塾講師の新規求人は7年前と比べてなんと60%も増加しているのだ。株式会社トモノカイが運営する業界最大級の塾講師求人サイト「塾講師ステーション」も昨年、過去最高の採用実績を記録した。
トモノカイ講師求人部門長の富田直宏氏によれば、講師の需要増加の一因として、2000年代初頭から個別指導方式の塾が増えてきたことが挙げられる。個別指導塾は参入障壁が低い。教室ひとつを取ってみても、集団指導の場合、複数の大教室が必要だが、個別指導なら一つの部屋を複数に区切ってブースを作ればいい。さらには、集団指導方式の大手塾や、家庭教師業からの参入も相次いだ。
● ブラックバイト認定で 加速する大学生の塾講師離れ
そんなわけで募集数は上昇の一途。ところが、ここにきて大きな問題が出てきた。塾業界全体で求人への応募数が激減したのだ。
「昨年、首都圏の塾大手は前年比で応募数が30~50%も落ちました。必要な講師を確保できず、開校を断念する塾もありました」(富田氏)
要因のひとつは、塾講師がブラックバイト認定されてしまったことだ。昨年は特に、個別指導塾の問題が相次いで報道された。
「個別指導塾は過当競争の状態にあります。少子化にあっても個別指導のニーズは確かにあるので、教室数は増加しました。生徒や保護者からすれば選択肢が増えたわけですが、塾を選ぶにあたって、わかりやすい判断基準の一つが授業料です。結果、塾は競って値下げし、授業料の低価格化が進行しています。環境の変化により、講師の報酬も上がらず、10年前と比べて塾講師バイトの魅力が低下しているというのが実情です」(富田氏)
そして、法令についてよく知らないまま運営し、結果として無賃労働をさせてしまう中小の塾も一部に存在する。そうした塾が全体の中で少数であっても、報道により「塾業界は低賃金でブラックだ」というイメージが定着してしまう。シフトに関しても、柔軟に対応してくれる塾が大半であるにもかかわらず、「試験期間にもシフトは変えられないんだろうな」と勘違いした学生は敬遠してしまう。それだけではない。応募数減少は、大学生のライフスタイル変化にも原因がありそうだ。
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