経営危機にあるシャープが、電子機器受託製造の世界最大手、鴻海(ホンハイ)精密工業(台湾)から出資を仰ぎ、その傘下に入って再建を目指そうと交渉を急ぐことになった。

 液晶に強みを持つシャープを巡っては、日本政府が大株主の官民ファンド「産業革新機構」も出資を目指してきた。東芝と日立製作所、ソニーの液晶部門を集約し、機構が株主となったジャパンディスプレイ(JDI)社とシャープの液晶事業を統合し、「日の丸液晶会社」を作ろうとの構想である。

 米アップルとの太いパイプをはじめ、「グローバル」を強調する鴻海との争奪戦は、鴻海が大きくリードした格好だ。シャープは革新機構との接触も続けつつ「1カ月以内に決める」としているが、改めて考えておくべきテーマがある。

 民間企業の再生や業界の再編に政府はどこまでかかわるべきか、という問いだ。

 「独自の技術が海外に流出するのを防ぐ」「国内での雇用を守る」。革新機構や経済産業省はそんな考えに基づき、日本勢同士の過当競争が指摘されてきた電子産業分野で「集約化」を進めてきた。

 「技術や人材、資金を集めて海外勢に対抗する」との考えは一理あろう。公的資金を投入した近年の例を振り返っても、半導体分野では失敗や苦戦が続く一方、液晶のJDI社は2年前に株式の上場にこぎつけた。

 ただ、変化は速い。液晶業界が頼るスマートフォンで世界市場の減速が鮮明になってきた。液晶に替わって、サムスンなど韓国メーカーがいち早く量産している「有機EL」を採用する動きも広がりそうだ。

 公正取引委員会がまとめた「公的再生支援に関する競争政策上の考え方」は「民間だけでは再生が不可能な場合に限って」「必要最小限となる規模・手法で」といった原則を示している。今回のシャープの事例にそのままあてはまるわけではないが、足元で技術や雇用を守ろうとするあまり大きな潮流の変化を見逃せば、民間の健全な発展を損なったり国民負担を招いたりしかねないことを肝に銘じたい。

 シャープにも注文がある。「株主や社員など、すべての利害関係者をにらんで公平・透明に検討する」との姿勢を貫いてほしい。鴻海は、シャープのブランドや経営陣、従業員の雇用を維持する考えを示しているというが、再建を果たすには痛みを伴う改革が避けられまい。経営陣の責任は重い。