珍しく、挑発的なタイトルです。でも、自分の中ではイメージにぴったり則しているというか、
「あー、このサッカーの感じはブラック感あるよね」
と思っていたので、波風立つことを知りながらこのタイトルで話を進めます。
U-23日本代表、五輪への切符を掴みました。予選大会で優勝もしました。すごく、世論からはポジティブな雰囲気が出てます。ですが、全然その雰囲気に乗れていない僕です。なんでかって?日本代表のサッカーがカオスすぎたからです。なんだ、あの無茶苦茶なサッカーは。一つ一つ試合を見ても、「なんで勝てたんだろう?」と思うばかりです。まるっきり勝算が無かったわけではありませんが、超ギャンブルな戦い。コイントスで表が出続けることをお祈りするような戦い。
「勝ったからいいじゃん」
で済ませるにはあまりにも、な内容だったので、「勝って兜の緒を締めよ」と日本代表のヤバいところをまとめてみたいと思いました。たとえば、この場面とか。
決勝の韓国戦です。「オギャアーーーッ!?」って変な声が出ました。こういう場面がたまに、とかじゃなくてポンポン映るもんだから、手倉森ジャパンの試合を見るたびに心臓を痛くしておりました。どこから突っ込めばいいんでしょうね。全部ですか。とりあえず、言いたいことを言っていきます。
サッカーにはマンツーマンディフェンス(以下マンツー)とゾーンディフェンス(以下ゾーンDF)という2種類の守り方があります。大雑把に言うと、「相手を基準にして守る」か「ボールと味方を基準にして守る」か、になります。
マンツーはその名の通り、対面の相手についていく守りになります。相手が右行ったら自分も右、相手が左行ったら自分も左。言葉で説明しなくても、「とにかく付いていけばいいのね?」と、なんとなく分かるはずです。でも、この守り方にはすごく分かりやすい弱点があります。「相手に主導権を握られること」です。
相手の動きに自分が合わせなくてはいけないのですから、自分の意志とは関係なく相手に振り回されることになります。また、相手が自分よりも力量が上だった場合、どうしようもなくなります。自分が「こいつをマークしとけよ」と言われた相手が、50m5秒台の俊足だったら?2m近くあるフィジカルお化けだったら?どんな相手でも止めることができますか?
そんなの一人じゃ無理だから、チームで守っていこうよ、というのがゾーンDFです。
ゾーンDFはめんどくさいけど分かりやすいです。いや、本当分かりやすいんだけど、ちゃんと説明しようとすると長くなって「これ何の記事だっけ?」ってなっちゃうんで、今回は説明をチョイチョイ省かせてくださいってことです。その概念はどんなもんじゃいというと、僕は「追い込み漁」と捉えています。みんなで相手をポイントに誘導して、相手がそこに来たらグワッとボールを取るイメージです。それだけだと謎なので、軽く説明します。
例えば、相手が最終ラインでボールを持っている場合。青がボールを持った相手、赤が守っているチームで4-4-2の守備ブロックを敷いています。
赤チームのFWがCBにプレッシャーをかけました。この時、FWは青のボランチのコースを切りつつ中から外へ走っているため、青のCBは自然とサイドへの展開を余儀なくされます。
CBからSBにパスが出ます。この時、一番まずいのは”縦にパスを出されてゴール前に迫られること”です。なので、こうやってみんなでボールがあるサイドに”スライド”します。これでパスコースを切って、スペースも潰してしまうわけです。SBはパスの出しどころが無く、まさに追い込み漁。逆サイドは空いてしまいますが、ここにボールを出されたとしても到着するまで時間がかかるので、その間にもう一度スライドしなおしてしまえばいいわけです(本当は出されないのが一番良いんだけど)。さて、もう一つ例を。
こういうシーンです。今回はSBではなく、相手のサイドハーフがボールを持っていますね。まぁ似たようなシーンなんですが、この先の実例にも関わってくるので、ポジショニングについてちょっと説明します(4-4のブロックだけね)。
まず中盤の4枚ですが、先ほどと同じようにサイドハーフはボールサイドに詰め、それに引っ張られるようにボランチと逆サイドのサイドハーフが中に絞っています。中央を使わせないためですね。こうして中央のコースを消しながら、ボール近くのサイドハーフは味方のSBと一緒に相手をサンドしてボールを奪いに行きます。
最終ラインの4枚は、ボールサイドのSBが対面する相手に向かい、残りの3枚は中央に絞ります。もし、逆サイドに相手が居たとしても、中央を守ることの方が先決なので、マークとかは気にせず絞ります。理屈は、さっきと同じです。逆サイドへのボールは時間がかかるから。それより中央をやられる方が怖いから。サッカーの広いフィールドを効率よく守るには、「どこかを捨ててどこかを守る」のが必要なんです。ゾーンDFの場合は、逆サイドを捨ててボールサイド(と中央)を守る、ですね。
こうして、「相手の位置ではなく、ボールの場所と味方の位置を優先して守る」のがゾーンDFです。
話したいことはもっと色々ありますが、とりあえずここで主張しておきたいゾーンDFの利点は、「走る距離が少なくて済む」のと「味方の位置を大まかに把握しておける」ことです。前者は、相手選手の動きに振り回されることなく自分たちでポジショニングを決められるので、マンツーで守るときよりも選手一人一人の運動量が減ります。後者も同じような理由で、ゾーンDFがチームでちゃんと浸透していれば
「俺がこう動いたから隣のやつはここに居るはず」
と、感覚的に選手同士の位置関係を掴んでおくことができます。マンツーの場合は相手に動かされているため、そうもいきません。
というわけで、現在のサッカー界では効率良く守れるゾーンDFが主流でして、じゃあ手倉森ジャパンはどうだったかというと、よく分かんないです。えーと、ゾーンDFで守りたいのか、マンツーで守りたいのか、イマイチ意思統一されてないような、カオスな状態でした。まぁ、どんなチームだって100%ゾーンDFか100%マンツーか、とかじゃなくて、大体ゾーンでこのエリアだけマンツーみたいなこともあるんですが、その場合はちゃんとそれで成立するようにチームは整備されています。でも、日本は全然整備されてない。
ゾーンDFっぽいけど、勝手にマンツーもやってます、みたいな?選手個々の判断に任されてます、みたいな?なので、何を守りたいのか意味不明な守備でした。そりゃ韓国戦で2失点するわ。っていうか、今まで失点しなかったの相手が外してくれてただけだわ。韓国戦だって、2失点で済んでよかったネくらいの守備でした。その問題が分かりやすいシーンがあるので、先ほどのゾーンDFの例と併せてお読みください。
前半5分のシーンです。韓国の右CBヨン・ジェミン選手がボールを受けました。ここから同サイドのSBへ展開していきます。
右SBのイ・スルチャン選手にボールが渡ろうというところで、日本の左サイドハーフである中島選手が一気に追いかけてきました。そのプレッシャーに気圧されたのか、イ・スルチャン選手はトラップを失敗します。
おっ、というシーンですが、日本のプレスがハマってません。オナイウ選手が右CBのコースを、久保選手が右インサイドハーフのコースを気にしているんですが、大島選手が右インサイドハーフに向かっていったのに気付いて、アンカーの方へ走り出しましたが時すでに遅し。危ないところだったものの、イ・スルチャン選手はアンカーのパク・ヨンウ選手に預けて難を逃れます。
パク・ヨンウ選手が追ってくる久保選手のことを気にしながらドリブル。イ・スルチャン選手が空いたアンカーの位置に入り、中島選手はそこまで付いて行っても仕方がないとイ・スルチャン選手を放します。
クイッとパク・ヨンウ選手が切り返し、空いていたイ・スルチャン選手へパス。
ダイレクトで左CBのソン・ジュンフン選手へ。上手く日本の1列目の守備を剥がしました。ここは日本のプレスの連携がイマイチだったのと、韓国が上手くやったのと両方でしょうか。ともかく、大きな問題はこの先です。
ソン・ジュンフン選手がドリブルでちょっと進んだところ。この時点でちょっとヤバいことになってます。中島選手が戻ってきてません。全然中に絞っていません。日本の左サイド~中央がガラ空きです。
ソン・ジュンフン選手が中にパスを出すとフェイントを一発入れてから縦へパス、左SBのシム・サンミン選手にパスが通りました。
やっぱり中島選手が絞ってきません。中央のスペースが凄いことになっています。更に、右CBの岩波選手が韓国のCFジン・ソンウク選手に付いて行って、中央のエリアを空けてしまっています。岩波選手はマンツーで守っているのでしょうか。既にヤバい空気がプンプンしてます。
スルスルっとこの位置にまで来ていたイ・スルチャン選手に、シム・サンミン選手がパスを出しました。右SBがどうしてこんなところに!状態ですが、それ以前に中央のエリアがとんでもないことになってます。大島選手が慌てて、イ・スルチャン選手にプレッシャーをかけようとしますが……
ダイレクトでパスを出した。あっ。
オギャアーーーッ!?
冒頭のシーンですね。はい、シュート打たれました。櫛引選手が弾いたところを詰められてもう一度シュート打たれました。ポストに当たって入りましたけど、オフサイドなので助かりました。本当に「助かった」というのが正直な感想です。こういう助かったシーンが何度あったか分かりません。決められるチームだったら5点くらいは入ったんじゃないかってくらい、謎の守備でした。
問題点をまとめると、「サイドハーフの絞りが甘いため4-2-4で人の足りない守備をしている」「ゾーンDFで守りたいのかマンツーで守りたいのかすらはっきりしていない」です。この試合に限らず、サイドハーフの守備意識が低いのかそもそもそういう戦術だったのか微妙ですが、後ろに人が足りなくてアップアップなシーンが多かった。特に左の中島選手の守備の不味さは際立っていて、今回のように下がらなきゃいけない場面で下がっていなかったり、追わなくてもいいシーンで相手を追い回して、後ろのスペースを空けてはそこを相手に使われてピンチを招いていたり、「誰でも分かる穴」として利用されるばかり。
また、日韓戦のスタメンでいうと、右SBの室谷選手はゾーンDF、右CBの岩波選手はマンツー、左CBの植田選手はゾーンDF、左SBの山中選手はマンツーって感じでした。何を言っているのか自分でも分からなくなってきた。とにかく相手に食らいついてしまう岩波選手と山中選手が空ける穴を、室谷選手と植田選手が必死で埋めていました。後者の二人が守備で目立つのはそのためです。ついでに、櫛引選手も最後のところで目立っていましたね。簡単にシュートまで持っていかれる守備をしているので当然です。
こんな守備状態でしたが、実は日韓戦の守備はこれまでの試合と比べると「まだマシ」な守備でした。なぜかというと、韓国戦の時は劣勢な流れが続いていたため、ボランチが攻め上がりを自重していたからです。自重していない他の試合では、ボランチがふらふらとポジションを放棄して前に上がり、「中盤に誰もいなーい!」というシーンが散見されました。なので、もっと目も当てられないシーンが多発していました。そういうレベルの戦いでした。
さて、なぜ今回の記事にこんなタイトルを付けたのかというと、「組織の粗を個人の努力で誤魔化すサッカー」がもうアレじゃん、ブラックじゃんと。稚拙な守備組織と、それを覆い隠すように選手一人一人が無茶苦茶な労力を割くサッカーは、手倉森ジャパンだけでなく、Jリーグのチームだと割とよく見られる手のものなんですが、これが何と呼ばれているか知っているでしょうか。「気持ち守備」です。気持ちです、気持ちの問題です。
「ひたすら走れ、ひたすら相手を追いかけろ!」
こういう守備です。戦術もへったくれもありません。しかし、残念ながら日本は育成年代からこういう守備が殆どで、「組織的に守る」ということができていないようです。教えないのか、教えられないのか。両方かとは思いますが、「戦術ばかり教えると頭でっかちになる」みたいな意見もあるそうです。でも、こう言っちゃあれですけど、イタリアでゾーンDFって言ったら「小学生~中学生でマスターしておくもの」です。これは、イタリア人が頭が良いからでしょうか?イタリア人の方が要領が良いからでしょうか?現場を知らない僕が言ってもどうしようもないですが、もうちょっとどうにかならないんでしょうか。
日本人でアタッカー気質の選手は、その大半が「守備はキライ」「守備は疲れる」と言います。しかし、それは気持ち守備を押し付けられているからではないでしょうか。組織だった守備を教えられず、ひたすら相手に振り回される守備しか知らないから、そういった感想になるのではないでしょうか。日本人以外の選手だって、守備を嫌う選手は当然います。それでも、最低限のプレスやブロックの動きはやってくれます。それは、ちゃんと守備をすれば相手を嵌め込んでボールを取れる、攻撃が出来ることを知っているからです。結果に繋がるから走れるし、そもそも走る距離だって組織が作られていれば少なくて済む。でも、日本の選手の多くはそれを知らない、出来ない。
そして、選手たちは無駄な距離を無駄に走らされ、それを見た指導者に「よくやった!」と褒められます。これ、まんまブラックじゃん。やんなくていいことを必死こいてやって、それを褒められるって。学校や会社でも、こういった光景を目にしないですか?「効率的に動いて飄々と仕事をこなす人」と「非効率な動きだけど無茶苦茶な運動量でなんとか仕事をこなす人」という構図。欧州のサッカーが前者だとしたら、日本のサッカーは完全に後者です。しかも、そっちの方が評価されてます。サッカーの話だけじゃないですね。「サッカーは国民性を表す」という言葉がありますが、その言葉に照らし合わせるなら、今回の日本代表のサッカーは「ブラック企業という国そのもの」に見えてしまったわけです。そんな戦い方を良しとする日本代表も、その戦いぶりを評価する人々も含めて。
というわけで、今回の日本の戦いは「このままじゃ不味いよ」と思わされるものでした。「耐えて耐えて、最後に一発くらわせる」という戦い方自体は否定しません。実際に、決勝含めて相手の足が止まってきたタイミングで勝負をかけて、勝てたのですから。問題は、耐えて勝つプランのはずなのに守りがザルなことです。鋼の鎧と青銅の盾みたいな守備ならまだしも、布の服とお鍋の蓋で「さぁ守って勝つぜ!」って戦いをしているんだから、ツッコミたくもなります。
この戦い方でアジアを制することはできましたが、本大会が不安で仕方ありません。だって、もし今回挙げたようなシーンが本大会で出てきたとしたら、そこからシュートを打ってくるのはポグバとかルカクといった選手たちです。もしくはオーバーエイジで呼ばれたストライカー達かもしれません。果たして彼らのシュートを止められるのか?そもそもキーパーがノーチャンスなほど崩されたら?みたいなことを考えてしまうわけです。っていうか攻撃面だって、守備の問題をかき消すほど良かったわけじゃないしね……
勿論、「サッカーのこと全然知らないよ!」って層が、今回の日本をポジティブに見ているのならそれは良いと思います。実際に決勝でも「2点決められたけど3点決めて逆転した」っていう熱い試合展開だったわけだから。でも、ある程度サッカーを知っている人が今回の代表の戦いぶりを「素晴らしかったね~」で終わらせていたら、それはとんでもないことだと思います(NHKの某解説者さんとかね……)。ツッコミどころだらけだもの。大した戦術眼を持っていない僕だって、指摘できてしまうレベルだもの。
更に不味いのは、なまじこのスタイルで「アジア最強」のタイトルを手にしちゃったもんだから、問題点が見直されることなく、このまんまの状態で本大会に臨みそうなところです。それが一番ヤバいです。「まぁイケるっしょ!」っていうこの雰囲気がものすごく怖いです。だから、お願いだから、本大会はもっともっと良いチームになっていることを願う。
そのために残された時間は少ない。A代表が無残に散ったブラジルの地で、U-23が笑顔で帰れるように、大量の問題点が少しでも改善されていることを祈ります。ただのファンである僕に出来るのは「気持ち」で応援することだけです……
追記
動画にしただーよ。