楽園に殺人は存在しない - 『チャイルド44 森に消えた子供たち』
チャイルド44 森に消えた子供たち
CHILD 44
2015(2014)/アメリカ/PG12 監督/ダニエル・エスピノーサ 製作/リドリー・スコット/他 出演/トム・ハーディ/ゲイリー・オールドマン/ノオミ・ラパス/ジョエル・キナマン/パディ・コンシダイン/ジェイソン・クラーク/ヴァンサン・カッセル/他 原作/トム・ロブ・スミス/『チャイルド44』
大ロシア史を知れとばかりに50年代のソ連の様子(スターリン政権がどうのとかいういつものアレ)が冒頭、テロップでちょこちょこと流されるのだが、ピロシキ頬張って身構える間でもなく、大ロシア史あまり関係ないというかテロップで流された程度の前提知識さえあれば大・丈・夫と、子供殺しの捜査に政治的左遷などが繰り広げられる。のだが、全体的に寒色気味な印象を受けた。映像が寒いのはロシアを舞台にしているだけあって仕方がないのだけれども、今ひとつ胃の腑が燃焼するようなシーンに欠けるのは残念。これは何も爆発だのパルクールだのを見せろ見せやがれと言っているのではなく、全体主義下ならではの怖気や強権をもっと見せて欲しかったなぁという話で、「楽園では殺人は存在しない」という発言と概念だけにその殆どが塗り込められていたのは勿体無い。とは言い条、暗灰色を基調とした退廃的な画作りはお話に陰惨さを添える事に成功はしているのだし、視界が褪色すると精神も褪色していくとばかりに夫婦間の愛情を云々しているのも面白く、静かに潜伏している狂気に絶対悪としての権限を許しているのも流石アメリカ資本の映画といったところか。本作の“犯人”はあのアンドレイ・チカチーロをモデルにしているとの話であり、そのえげつなさや顔面力はとても本家には及んでいないと思うのだが、「楽園では殺人は存在しない」という世迷い言から被害が拡大してしまったという観点からおそらく事件のモチーフに採択されたのだろうし、何よりも都井のむっちゃんを抱えそれが何度も映画化されている本邦に住まう民草としてはそこに物申すのも気が引ける。気が引けた結果やっぱりトム・ハーディってスティーヴ・ブシェミ系統の顔でござんすねと毒にも薬にもならない事を申し上げて本エントリを了としても構わないのだが、トムハがロシア訛りの英語で全編に渡って喋り続けるのなんかも腐った諸賢に於かれましては萌えポイントなのかも知れず、そしてミステリとしての伏線や表象にやや事欠いてある事実や、PG12に収めたいという配慮からのソフトな描写なども制服萌えという観点/視点から見れば些細な問題に過ぎぬのやも知れぬので、スターリン萌えな腐った方々は話の種に観てみるのも良いかも知れません。ナチスも相変わらず都合の良い使われ方をしており、だからどうしたと言われればそれまでなのだけれども、腐女子、腐男子、天下国家萌え、のみならず国家の強権萌えに至るまで様々な趣味嗜好に対して間口の広い映画だとは言えましょう。
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20160205 │ 映画 │ コメント : 0 │ トラックバック : 0 │ Edit