自家通販以上、同人ショップ未満のBOOTH
昨日Entyに関する記事を掲載したところ 「BOOTHは大丈夫なのか知りたい」というご意見をいただきましたので、BOOTHの問題も別の記事として書きたいと思います。
BOOTHとは、ピクシブ株式会社が運営する「ネットショップ作成サービス」です。
2013年に公開され、現在では自家通販の代替手段としてアマチュアクリエイターの間で広く利用されています。
パソコンやWEBに疎くても、たった数分で今どきのイケイケデザインのオンラインショップを開設することができます。
クリエイターが自家通販する際に面倒だと思う点をうまくBOOTHは吸収しており、公開当時から完成度の高いサービスでした。
イラストレーターとの距離が近い会社だからこそ、開発中から彼らに何度もレビューを行い、意見をフィードバックしたのだと思います。
個人的には本家pixivよりも使いやすく、WEBエンジニアの自分としてはお手本にしたいサービスのひとつです。
最近ではクレジットカードの決済代行だけでなく、在庫の管理、商品の発送までピクシブがやってくれるようになりました。
出品者は自家通販のように銀行口座を公開したり、購入者の振込を待ったり、梱包や発送を行う必要がありません。
もはや出品者と消費者のどちらにとっても、BOOTHは同人ショップの通販と同じに見えると思います。
しかしこの2つには非常に大きな違いがあり、似ていることがBOOTHの問題を分かりにくくしています。
※ あくまで個人の意見や法解釈のため、事実とは異なる可能性があります。
※ またpixivやBOOTHは大好きなサービスですし、これらのサービスやその利用者を批判する意図はありません。
BOOTHは創作系サークルの救世主
自分の作品を同人ショップで委託頒布してもらうには、まず同人ショップに作品情報を送り、委託審査を通過する必要があります。
一般向けの創作系(オリジナル)同人誌やグッズは数が伸びないことから審査に落ちやすく、もし通過したとしても少数しか取り扱ってもらえません。
同人ショップに委託できないとなると、作品頒布の機会は年に数回の即売会だけとなり、即売会に行けない地方民は購入する手段がありませんでした。
作家が自家通販を行う場合もありますが、事務作業が多い上に個人情報を公開する必要がありハードルが高いものでした。
そのような状況でBOOTHが登場すると、面倒くさい事務作業をピクシブが全部やってくれる上に、同人ショップの通販と同じサービスを提供してくれるというのですから、創作系サークルを中心にジワジワと広がっていきました。
BOOTHと同人ショップの違い
通販においては同人ショップとサービスレベルの変わらないBOOTHですが、同人ショップ大手2社であるとらのあな、メロンブックスの通販と比較してみたいと思います。
複数ショップでの併売あり、BOOTHは倉庫利用を条件とします。
通販の比較 | とらのあな | メロンブックス | BOOTH |
---|---|---|---|
作品の事前審査 | あり | あり | なし |
販売手数料 | 36% | 30% | 3.6%(クレカ利用時のみ) |
取扱期間 | 原則として3ヶ月 以後ショップが決定 |
原則として3ヶ月 以後ショップが決定 |
原則として3ヶ月 以後1,080円/3ヶ月で延長可 |
二次創作作品の出品 | 可 | 可 | 出品者の判断で |
成人向け作品の出品 | 可 | 可 | 2013年12月27日より可 |
販売責任者 | 株式会社虎の穴 吉田博高氏 |
株式会社メロンブックス 牧田和憲氏 |
出品者 |
最も目を引くのがBOOTHの破格の販売手数料です。決済方法によっては0%になります。
BOOTHは実費程度の手数料しか徴収しておらず、単一サービスでは収益性がありません。
半ばボランティアです。これはピクシブのサービス群にクリエイターを囲い込み、pixivのブランド価値を上げるための戦略だと個人的には思います。
そして今回、私が問題と考えているのが販売責任者についてです。
特定商取引法に基づく表記
販売責任者とは、消費者庁のホームページ等では「通信販売に関する業務の責任者」と呼ばれ、消費者が取引(通信販売)を行う業者の中で責任を負う者のことです。
同人ショップの通信販売は各社の偉い人が商品や取引の責任を負うのに対し、BOOTHで行われる通信販売はピクシブではなく各出品者が責任を負うことになります。
これが同人ショップとBOOTHで大きく異なる点です。
消費者庁によると特定商取引法に基づき、販売責任者は法人・個人を問わず、
の公開が必須です。
これをまとめたページが「特定商取引法に基づく表記」や「特定商取引法に関する表記」と呼ばれ、通販サイト等で一度は見たことがあると思います。
このページを公開する方法についても「冒頭部分から容易に記載箇所への到達が可能となるような方法」である必要があります。具体的には消費者庁のガイドによると、
たとえばインターネット・オークションにおいて、当該オークションシステム内にこれらの事項を記載可能であるにもかかわらず、当該システム外の自己のホームページへのリンクを貼り、その中で記載しているような場合には、通常は「冒頭部分から容易に記載箇所への到達が可能となるような方法」に該当しません。
とあります。
BOOTHのデフォルト設定では特定商取引法に違反する恐れがある
BOOTHでは特定商取引法に基づく表記の設定ページを用意していますが、上記の項目にデフォルトで設定されている文章が「省略した記載については、電子メール等の請求により遅滞なく開示いたします。」となっています。
上記のガイドのみを参考にするならば「電子メール等での開示」は「冒頭部分から容易に記載箇所への到達が可能となるような方法」に当たらず、消費者庁から特定商取引法を根拠に指導を受ける可能性があると思います。
そもそも他の法令やガイド等を根拠に「電子メール等での開示」が方法として認められているとしても、いかにも荒らしっぽい人から開示請求が来たとして、遅滞なく開示する人が何人いるのでしょうか。
この問題は絶対にピクシブも把握しているはずで、設定ページのトップにも消費者庁のガイドへのリンクが貼られています。
クリエイターにとって住所や実名、電話番号を公開するのは、ネットがなかった時代の同人誌の奥付ならともかく、現在は非常にリスキーな行為です。
しかしながら、正しく記載しなければ法令違反の可能性を黙殺して営業することになり、このままBOOTHが大きくなれば闇市の集合体になりかねません。
ピクシブが販売事業者にならない理由
もはやピクシブはBOOTH用の倉庫まで持ち、決済から発送まで代行しています。同人ショップの通販と何ら違いはありません。
倉庫利用のショップについては販売事業者は出品者ではなくピクシブがやって欲しいです。
ピクシブが販売事業者を避ける理由が二次創作作品、特にグッズにあると考えます。
現在pixivでは「おそ松さん」公式コラボを実施しています。
仮にピクシブ傘下のサービスであるBOOTH上で「おそ松さん」の同人ラバーストラップが販売されているとして、
それを見てしまった「おそ松さん」のコンテンツホルダは商品化権を侵害されたと思い、ピクシブとの関係値は悪化するでしょう。
かろうじて今の体裁であれば「ユーザーが販売責任者で関与していない」と逃げ切ることができると思いますが、販売責任者になれば難しいでしょう。
この問題はピクシブに限らず公式コンテンツとユーザーコンテンツの両方を扱う企業の悩みだと思います。ドワンゴもそう。
販売事業者の代行オプション
出品者がある程度の手数料を支払う代わりに、事前審査を通過した作品についてピクシブが販売責任者となる有料のオプションを作って欲しいです。
審査や手数料など同人ショップと変わらなくなってしまいますが、BOOTHが利益を追求していない分、他社よりもはるかに優しい審査や手数料で実現できると思います。
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