確かに、この周辺の土地は比較的軟弱である。長く地元に住む人によると「5年に1度は曲がった電柱を真っすぐにする工事が見られ、震災では隣のららぽーとの塀もがたがたになった」という。
とはいえ、人が住むマンションは、電柱や塀とは建て方や構造、設計がまったく異なるものだ。「震度5弱程度の揺れで、これほど大きなマンションがゆがむものなのか」と、太田さんは思った。
「専門家の意見を聞いてみよう」──。管理組合の役員らは、管理組合向けコンサルティング会社、ソーシャルジャジメントシステム(SJS)の1級建築士らに相談した。当時、偶然にも管理組合は、マンション管理委託費の見直しでSJSと契約しており、意見を聞く機会があった。
SJSの担当者は「確かに、不自然な傾きにも見えます。震災の影響であるならば、直接確認してもらった後に、何らかの根拠を提出してもらいましょう」とアドバイスした。
そこで11月26日、管理組合は管理会社を通じ、三井不動産レジデンシャルに対して西棟と中央棟の接合部分の手すりの段差について、調査を依頼した。
三井不動産レジデンシャルからは、同月28日に現地を確認。そして、12月12日には、三井不動産レジデンシャルは「中央棟と西棟の揺れ方の違いによって、(渡り廊下との継ぎ目である)エキスパンションジョイント部に生じたひずみである」と回答した。
施工記録の提出を
拒む売り主
だが、管理組合側は納得できなかった。というのも、全ての階で、ズレが見られ、上階に行くにつれて継ぎ目の金物部分の壁面との隙間が大きくなっているのが、素人である管理組合の役員らが見ても明らかであったからだ。
「窓枠がゆがんでいるようだ」「玄関のドアが開けにくい」「天井にひびが入っている」「(マンション周囲の)地面がくぼんでいるようだ……」
実は近年、このような声が住民の間からも寄せられていた。そのことを過去、三井不動産レジデンシャルに伝えれば、全て「震災の影響です」という回答だった。
マンションのアフター補償の期間は過ぎている。地震の影響ならば、補償は受けられない。
「不都合なことは、すべて震災のせいにしているのではないか」という疑念の声が住民の間からも聞こえてきた。
そこで、管理組合は、翌年の15年2月8日、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設に対し、施工記録の提出と閲覧を求めた。
しかし、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設の「地震の影響」という主張は変わらず、施工記録についても一向に見せてもらえそうにない。「相当にしつこく言ったが、まったくらちが明かない」(太田さん)。
その間、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設は、地盤調査を進めている。2月9~10日、壁の傾斜を測定する簡易調査(レベル調査)の後、6月15日~7月3日にボーリング調査を実施した。
その調査方法については、建築研究振興協会(建振協)への評価依頼の許可を管理組合に求めてきた。建振協は建物診断を行う評価機関。つまり、売り主と施工業者が勝手に調査方法を決めて実施してしまっては、信頼性が乏しくなる。地盤調査の方法が正しいのかどうか、“第三者の評価機関”とされる建振協の“お墨付き”を得たいとして、管理組合に了承を求めたわけだ。
管理組合はこれを了承。三井不動産レジデンシャルと三井住友建設は建振協とほぼ月1回のペースで会合を開催していた。