サウジアラビアがイランとの外交関係を絶つと発表した。共にイスラム教の異なる宗派の中心地で、強い軍事力を持つ。対立が激化すれば中東情勢はさらに混迷を深める。両国に自制を求めたい。
イスラム教スンニ派の盟主を自任するサウジで、シーア派の指導者が反政府、テロ活動をしたとして処刑された。シーア派の中心イランは反発。群衆がテヘランのサウジ大使館を襲撃した。
対抗してサウジは断交に踏み切った。さらにイラン政府によると、在イエメンのイラン大使館がサウジ軍機などに爆撃されたといい、深刻な火種が生まれた。
アラブ人とペルシャ人、宗派、統治理念が異なるサウジとイランは以前から中東の覇権争いをしていた。イランは周辺国のシーア派勢力を支援する一方、宿敵だった米国との接近を図るなど、次第に影響力を拡大。情勢の変化にいらだったサウジが強硬な対抗策に出たとみられる。
両国は内戦が泥沼化するシリアとイエメンで、政権側あるいは反体制組織を軍事、資金面で支援して、事実上の「代理戦争」になっている。
宗派対立が激しくなると、当局による少数派住民の弾圧や他宗派に対するテロの危険が高まる。過激派組織「イスラム国」(IS)が宗派対立で生じる権力の空白を狙って、勢力拡大を図れば、新たな難民の発生も心配される。無差別テロと残虐行為を続けるISを利してはならない。
宗教だけでなく、エネルギー問題と中東をめぐる複雑な国際情勢も背景にある。
世界的に原油がだぶつき価格は低迷しているが、最大産油国サウジは減産に動こうとしない。近い将来、イランとの間で原油市場の主導権争いが予想されるためだ。
また、イランは昨年、米欧など六カ国との間で、核開発を大幅に制限すると合意した。核不拡散の大きな成果であり、イランの国際社会復帰につながると評価されている。しかし、サウジはイランが将来、核武装を目指すはずだと疑い、米欧との関係回復にも神経をとがらせている。
米国とロシアがそれぞれ、イランとサウジの仲介に動きだした。この四カ国とトルコが、緒に就いたばかりのシリア和平協議の中心になるからだ。
日本は原油輸入の八割を中東に依存する。対立する二つの産油国に対し、緊張緩和に向かうよう働き掛けを強める必要がある。
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