北朝鮮は四回目の核実験で、孤立を深めるばかりだ。核で威嚇して交渉を迫る「瀬戸際戦術」は通用しない。包囲網はますます強まるだろう。
北朝鮮は「小型化された、初の水爆実験に成功した」と発表した。米国など敵対勢力の核の脅威に対する自衛措置であり、敵視政策がなくならない限り、核開発の中断、放棄はしないと主張した。
過去三回は原爆実験だったが、今回がより高度な技術が必要で、破壊力が大きい水爆だったのか、専門家の多くは疑問視している。韓国メディアは当局者の話として、小規模な核融合を起こして爆発力を高める「ブースト型核分裂爆弾」の可能性があると報じた。水爆の前段階に当たるという。
◆強い指導者像を演出
前回、二〇一三年二月の実験とは異なり、今回は事前予告がまったくなかった。金正恩第一書記は一日、「新年の辞」を発表したが、核開発には一切触れず、人民生活の向上を繰り返し強調したため、経済重視に転換したのではないかとの観測さえ出ていた。
だが、北朝鮮の基本的な考えは一貫している。核弾頭を小型化し、米本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発して、強い姿勢で交渉に臨み、米国との間で平和協定を締結して自国の体制を保証させる−。発表文で「核を放棄しない」と述べたのも、原則を踏まえた。
核弾頭の保有数は六〜八発と推定され(ストックホルム国際平和研究所調べ)、実用化までには「三〜五年」とか「五年以内」とさまざまな見方がある。各国は国連安全保障理事会を開き、新たな制裁を話し合うことになろう。北朝鮮の核物質や技術が中東などの紛争国やテロ組織に流出しないよう、国際的な監視体制の強化も必要だ。
北朝鮮は五月に、三十六年ぶりに朝鮮労働党大会を開く。これを契機に金第一書記が総書記に就任し、指導部の世代交代を一挙に進めて、権力基盤を固めるとの予測がある。
正恩氏は米国や中国とも渡り合える、強い指導者像を国内外に植え付けたいと、核実験を強行したのではないか。今後、人工衛星だと主張する長距離弾道ミサイルを発射する可能性もある。
◆外交能力に疑問が
まだ三十二歳という正恩氏は、外交ではこれといった成果を挙げていない。周辺国との複雑な外交を展開する能力があるのか、疑問符を付ける専門家も多い。側近を相次いで粛清しているのも大きな不安材料だ。
中国とのパイプがあった張成沢・元国防副委員長は一三年にクーデターを企てたという罪で処刑された。昨年四月に代表団を率いてロシアを訪問した玄永哲人民武力相(国防相)の姿が直後に消えた。処刑説が出ている。年末には韓国との交渉を長年担当した金養建・党書記が交通事故死した。国際情勢を冷静に分析し、政策を立案できる側近が、いまどれだけいるだろうか。
最大の支援国である中国とは、まだ一度も首脳会談が実現していない。中国は核実験に「断固として反対する。北朝鮮には非核化の約束を守るよう促す」(外務省会見)と述べた。関係のさらなる冷却化は避けられない。
オバマ政権が北朝鮮の交渉呼び掛けに応じることはまずない。非核化の保証を引き出すことを優先するからだ。韓国とは昨年十月、南北離散家族の再会など関係改善の流れが生まれたが、当面は足踏みとみられる。
日朝関係では日本人拉致問題をめぐる協議が中断する恐れがある。国際社会が制裁に動いた場合、拉致を話し合う環境ではなくなるだろう。
金正恩体制になり、首都・平壌の街並みが整備された。農業や工業部門の改革が行われ、食糧も増産され、一九九〇年代のような飢餓状態から脱したといわれる。
だが、本格的な経済再建には海外からの支援、協力が欠かせない。金正恩政権は経済と核開発の「並進路線」を掲げているが、明らかに軍拡路線に偏っている。核実験により、国際援助が減り貿易も増えなければ、住民がまた苦しむことになる。
◆積極的に国連外交を
日本は今年、国連安保理の非常任理事国だ。国連外交で積極的な役割を果たしてほしい。
昨年成立した安全保障関連法は朝鮮半島有事など、「重要影響事態」での自衛隊の後方支援などを定めている。
国際情勢の変化に応じて防衛力を適切に整備するのは当然だが、北朝鮮の脅威を名目に「軍事力」強化を加速させてはなるまい。独裁国家の真意は測りにくいが、外交と国際的な包囲で核放棄を迫っていくことが適切だ。
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