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「風邪をひいても家で寝ていれば治る」。そうは言っても、なかなか寝ていられない事情がそれぞれおありのようです。

よくあるのが、出勤したものの、風邪症状があるので上司から「病院に行って早く治してもらってこい」と言われて受診するケース。「家に帰ってゆっくり休め」じゃないんです。

残念ですが、風邪を早く治す薬はありません。点滴しても風邪は治りません。ただの風邪なら、わざわざ病院に来て、インフルエンザの患者さんがいるかもしれない待合室で過ごし、お金を払って帰る意味はあまりありません。

病院を受診する意味があるとしたら、肺炎や咳喘息(せきぜんそく)のような、風邪のように見えるけれども風邪ではない病気を見つけることです。症状が重かったり、あまりにも治りが悪かったりしたときには、受診を検討することをお勧めします。

ただ、症状が軽ければそうした病気の可能性は小さいです。慢性疾患の持病でもない限り、出勤して働ける程度の症状ならば、受診の必要性は高くないと思います。

「症状が軽ければ受診させるなっていうことか。もしこじらせたらどうするんだ」とおっしゃる上司もいるかもしれません。だったら、まず休ませろ、ということになります。風邪をひいているのに働かせて、もしこじらせたらどうするんですか。

「インフルエンザならしょうがないから休ませるけど、ただの風邪だったら働かせてもいい」という考えも間違いです。「インフルエンザではない」と確実に診断する方法はありません。検査は一定の割合で「本当はインフルエンザだけど陰性」という結果(偽陰性)が出ます。

インフルエンザのシーズンの発熱患者は、検査結果に関わらず、インフルエンザかもしれないと考えるべきです。そもそも、インフルエンザではなくただの風邪だとしても、多くはウイルス性の感染性疾患です。

他の先進国と比較して、日本の外来患者数はかなり多いです。医療機関へのアクセスが良く、気軽に受診できるのは利点ではありますが、仕事を休みにくいことの裏返しかもしれません。

いろいろとご事情はあるとは思いますが、風邪をひいたら受診するよりも気軽に仕事を休める社会のほうが望ましいと思います。学校でも、皆勤賞を表彰するだけでなく、体調が悪いときは休んでもいいこと、そのほうが本人のためにも他の人のためにもなることを教えてもらいたいです。

 

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。