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原発の免震棟 九電の姿勢は信義違反

 九州電力は、原発の安全性確保に真剣に取り組もうとしているのだろうか。そんな疑念を抱かざるを得ない事態が起きている。

     九電は、再稼働した川内原発1、2号機(鹿児島県)で事故時の前線基地となる「緊急時対策所」について、安全審査の際に約束していた免震構造での新設計画を撤回した。既存の耐震施設などで対応することを決め、原子力規制委員会に昨年末、変更を申請した。

     九電は、免震構造の原子力施設を国の許認可を経て建設した経験がない。規制委には「実績が豊富な耐震構造の施設なら、早期の運用開始が可能で、安全性向上につながる」と説明している。しかし、いつ運用開始できるかなどは示していない。

     規制委は変更に不快感を示した上で、「主張は根拠に欠ける」として九電に申請の再提出を求めている。

     川内原発1号機は昨年8月、新規制基準に合格した原発として初めて再稼働した。2号機も同10月に再稼働している。九電は規制委の安全審査で、今年度中をめどに免震構造の免震重要棟を建て、その中に緊急時対策所(面積約620平方メートル)を設置すると約束した。完成までは耐震の代替対策所(同約170平方メートル)を暫定的に使うこととしていた。

     耐震は揺れに対する建物の強度を高めるが、免震は緩衝装置で揺れ自体を吸収する。建物内の設備も壊れにくく、余震が起きても作業員が行動しやすい利点があるとされる。免震棟は東京電力福島第1原発事故で現場の対策拠点となり、その重要性が広く認識された。

     九電の新たな計画では、代替対策所を対策所に格上げし、隣接地に休憩所や医務室などの支援機能を持った耐震施設を併設するという。

     九電は免震棟と同等以上の安全性を確保できると主張するが、再稼働後の方針変更は規制委に対する信義違反であり、まるで後出しじゃんけんのようだ。九電は玄海原発(佐賀県)についても、免震棟の建設計画を白紙に戻すと表明し、地元自治体が反発している。

     確かに新規制基準では、緊急時対策所を免震構造にすることを義務づけてはいない。耐震構造でも地震発生時に機能を維持できればいい。

     だが、基準に合格すればよしとせず、常に安全性の向上に取り組むことは原発を持つ電力会社の責務である。「実績がないからできない」というのでは通らない。

     安全よりもコストや工事のしやすさを優先しているのではないか。九電はそうした疑問に丁寧に答え、計画変更で安全性が向上することを具体的に示す必要がある。それができなければ計画変更を撤回すべきだ。

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