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世界ではおかしくなってきたら取り替える、日本では「1年経ったから」取り替える 〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(2)〉

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週刊新潮 2016年2月11日号 
2016/2/4発売

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 1995年12月8日のナトリウム漏洩事故以後、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」はほとんど動いていない。ついには、運営を日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる主体に委ねるよう、原子力規制委員会からの勧告もなされた。日本はもんじゅから手を引くべきなのか――時に“御用学者”と誤解をされる、4名の専門家たちによる座談会である。

 ***

【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 では、もんじゅは安全なのでしょうか。関係者に聞くと、安全かどうか以前に悪いイメージがついている。20年前のナトリウム漏洩事故は、現場のビデオ映像隠しもあり、事件のように扱われました。10年5月に再度臨界を達成しましたが、炉内の中継装置が落下。チョンボ続きです。しかし、私自身、高速炉の研究からこの世界に入ったのですが、ナトリウム高速炉は軽水炉にくらべて固有の安全性が格段に高い。

【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 ナトリウム漏れは原子炉本体とは関係ない温度計や管の設計ミスで、不正会計問題を起こしたT社の子会社のチョンボです。その後の炉内中継装置の落下もメンテナンスのからみで、運転せずに機器が古くなったので取り替えた際、溶接に不具合があった。工学的に基本的なところでチョンボが続いたのは残念です。

【澤田】 設計を含めた保全保守に手が回っていなかったのは問題ですが、そのトラブルが原子炉の安全性にどう関わるかです。原子力規制委員会、原子力規制庁は、関連性があるような勧告の出し方でしたが。

【岡本】 安全とはほとんど関係のないところです。

【澤田】 専門家の目から見るとそうなんですが、勧告が出れば、世間は安全性に問題があると誤解します。

【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 フランスなど高速増殖炉で、20回も30回もナトリウムを漏洩させている。形状や溶接が原因でトラブルが発生しているんですが、それも運転を継続する中でわかることです。

■世界一遅れた日本の規制

【澤田】 それに、不具合が炉心の安全性を脅かすかどうかを考える必要がある。

【奈良林】 もんじゅの関係者に、なぜこんなに非難囂々になったのかと聞きました。彼らは最初、保全プログラムを軽水炉のそれをまねて作ったそうですが、点検を繰り返すと、高速炉用のプログラムを作らないといけないとわかった。それを規制委員会に出そうとしたら、「じゃあ、今までのは全部ダメなんですね」と、すべて保安規定違反にさせられた。軽水炉に準じたプログラムに違反していることがやり玉に挙げられ、肝心の点検が全然できていないというんです。180台のテレビカメラが点検できていないというのも、安全とは関係ない。全世界の保全プログラムと比較し、日本の規制の問題点を挙げていかないと、世界一遅れた日本の規制は直りません。

【岡本】 アメリカでは、事業者の創意工夫で発電所をどんどん安全にしていくメンテナンス・ルールを決めています。そこでは守るべきは厳しく守り、それ以外は壊れたら直す。自転車に乗っていてベルが鳴らなくなっても、交換すればいいだけの話です。だけど日本のプログラムでは、ベルが壊れたら全部をチェックする。世界ではおかしくなってきたら取り替えるのに、日本では「1年経ったから」「3年経ったから」と言って取り替える。創意工夫の「創」の字もなく言われた通りにやるだけでは、発電所はどんどん危険な状態になりますが、規制庁に怒られるので、安全よりも保安規定を守ることが重要になってしまっている。

【澤田】 保安規定と安全確保とは、ちょっと違う。

【岡本】 全然違います。規制委員会から文句を言われているのは、安全と関係ない周辺のこと。保安規定にも重要な部分とそうでない部分があり、後者は品質保証の問題であったりする。たとえるとハンコの有無などどうでもいいのに、書類に1万個のハンコが押してないと言って規制委員は怒っている。こうして書類上の不備ばかり突いても発電所は安全になりません。保全の本質は、トラブルがあったときにどう対処するかですが、規制委員会はトラブルゼロを求める。保全の本質に忠実であれば、フランスのようにナトリウムが20回漏洩しても、経験を積むことができますが、もんじゅの場合、一つのトラブルですべて止まってしまう。

【澤田】 失敗はつきもので、それを次にどう生かすかが重要なはずです。

【岡本】 大きな失敗は絶対にしてはいけないけど、小さな失敗を重ねると大きな失敗をしなくなる。子供もそうやって成長しますよね。

■規制庁の役人は原子力の素人

【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 私が一番言いたいのもそこで、原型炉もんじゅは、失敗から学んでいいものを作るという役割を担っている。車のプロトタイプと同じなのに、1回の失敗も許さない雰囲気では、新しい技術の芽が摘まれてしまう。福島第一原発が絶対安全だと言わざるをえないムードになっていたのと似ていて、もんじゅも「何も問題を起こしません」と言わざるをえないムードです。でも、これから再稼働すれば必ずトラブルはある。そこから学んでいく、という原子炉プラントの位置づけを理解したうえでの規制でないといけません。

【奈良林】 保全について補足すると、よりよく点検するためのルールを規制庁に提案すると、その行為自体が保安規定となり、達成できないと法令違反とされる。アメリカNEI(原子力エネルギー協会)は「あれだけの事故を起こしながら、日本の規制は福島以前より悪くなっている」と言っています。書類の誤字脱字やハンコの有無ばかり確認するような検査をしていると、福島のような、津波が入ったらECCS(非常時冷却装置)が全滅するといった根本的な問題は見つけられません。私が会長の日本保全学会で、それが福島の反省事項ですよ、という報告書を作って、規制庁に持って行ったんですが、今になってみれば、彼らは全然反省していない。

【岡本】 それから、規制庁の役人は原子力の素人で、一方、規制委員は専門家です。規制委員は事業者とじかにコミュニケーションを取れず、規制庁の役人の言っていることだけで判断しているから、まさに裸の王様になっている。事業者は、原子力発電所を危険なものにするつもりなんて毛頭ないのに、規制委員は彼らと議論をしない。たとえば台湾では、規制する側と事業者が激しく議論したうえで、すごく改善しています。

「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より

  • 週刊新潮
  • 2016年1月28日号 掲載
  • ※この記事の内容は掲載当時のものです

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