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【主張】
北の指示役逮捕 「スパイ天国」でいいのか
警視庁公安部が朝鮮大学校の元幹部、朴在勲容疑者を、詐欺容疑で逮捕した。朴容疑者は北朝鮮の対外情報機関の指示を受け、韓国での政治工作の指示役を担っていたとみられる。
工作活動の拠点が日本国内に置かれたのは「スパイ天国」と揶揄(やゆ)される脆弱(ぜいじゃく)性が狙われたものといえるだろう。
だが、いつまでも「スパイ天国」のままでいいのか。
詐欺事件を担当するのは本来、刑事部の捜査2課である。ここに公安部の苦労がしのばれる。
朴容疑者の容疑は、架空の人物に成りすまして不正に入手したクレジットカードを利用し、パソコン周辺機器などを購入したとされるものだ。日本にはスパイ行為や工作活動そのものを摘発する法律がなく、別の犯罪要件を探さなくてはならないのが実情だ。
韓国には工作活動を取り締まる国家保安法などがあり、実際に朴容疑者の指示を受けていた韓国の工作員は、同法違反罪で実刑判決が確定している。
朴容疑者は昨年6月、別の詐欺容疑で公安部の捜索を受けるまで朝鮮大学校経営学部の副学部長を務めていた。
スパイや工作員を取り締まる法律に不備がある日本国内で、朝鮮総連や朝鮮大学校を拠点に本国からの指示を韓国内の工作員に伝えていたとみられる。
朴容疑者は暗号化されたメールで工作員らとやりとりするとともに、自身、数十回にわたり北朝鮮に渡航し、活動の成果などを報告していたとされる。
国内では昭和60年、自民党議員らが「スパイ防止法」を議員立法で提出したが、野党の強い反対もあり、廃案となった。平成25年には「特定秘密保護法」が成立したが、これもスパイ活動そのものを取り締まるものではない。「共謀罪」の創設を含む法整備を、早急に進めるべきだ。
また日本独自の制裁措置として北朝鮮籍者の入国禁止や在日北朝鮮当局者の再入国を禁止してきたが、ストックホルム合意に基づき拉致被害者らの調査委員会が設置されたことを受け、26年7月にこれらの制裁を解除した。
北朝鮮の核実験を受けて新たな制裁が検討されているが、まず、拉致問題に進展がないのに、解除したままの制裁を復活することから始めるのが筋だろう。