去年10月イギリス。
一人の女性アスリートがその才能を開花させました。
(拍手と歓声)世界選手権で日本人トップとなる活躍。
女子団体のオリンピック出場権獲得に大きく貢献しました。
小学生の時からゆかのスペシャリストとして注目されてきた村上選手。
持ち技のシリバス。
世界で数人しかできないH難度の大技です。
しかし去年春高い壁に直面していました。
オリンピックに向けて全ての種目に秀でたオールラウンダーへの変身を模索。
ところが…。
求められるのは繊細で完成度の高い演技。
思うような結果が出せません。
それから僅か半年。
村上選手は飛躍的な成長を遂げました。
苦手種目を克服。
決めてます。
彼女を変えたのは苦しみ抜いた末にたどりついた一つの境地。
己の殻を破り大きな変身を遂げた村上選手。
10か月の苦闘の記録です。
取材を始めたのは去年3月。
この日は村上選手が長年所属してきた体操クラブでの最後の日です。
ムードメーカーの彼女は最後の日も笑顔です。
カキ〜ン!顔顔顔!村上選手は元オリンピック選手が教えるこの教室で14年間練習してきました。
この時高校3年生。
幼い頃から天才少女と呼ばれオリンピックのメダルを夢みてきました。
もっと体締めてや。
リオまで1年半。
慣れ親しんだこの場所をあえて離れる決意をしたのです。
いくらでも甘えがきくというかやっぱり違う所で厳しい中でどんどんやっていかなきゃいけないっていうのがあるのでそれを経験してみたいなっていう。
4歳で体操を始めた村上選手。
その才能はゆかのスペシャリストバルセロナオリンピック銀メダリストの池谷幸雄さんに磨かれました。
小学6年生の時当時最も難しいH難度の大技シリバスを会得。
2回宙返りしながら2回ひねる。
類いまれな天性のバネがこれを可能にしました。
更に高校2年生でチュソビチナという技も成功。
1回の演技でH難度の技を2つ成功させたのは世界で初めての事でした。
オリンピック期待の新星。
メダル候補として大きな注目を集めてきました。
しかし夢の前に大きな壁が立ち塞がりました。
女子の個人総合は4種目。
オリンピックの代表選考では日本は4種目全てに秀でた選手を求めています。
村上選手は天性のバネを大きく生かせるゆかと跳馬を得意にしています。
一方緻密な正確さが求められる平均台や段違い平行棒は苦手です。
このままではオリンピックに行けない。
村上選手はオールラウンダーに生まれ変わる事を決意しました。
茉愛さん手紙です。
あっありがとうございます!村上選手は自らを厳しく鍛えられる環境を求めて体操でトップレベルの大学へ練習の場を移す事を決めたのです。
さよなら。
さよなら!日本体育大学に入学しました。
同じ新入生には元大関琴欧洲の鳴戸親方男子体操の白井健三選手の姿もありました。
在校生代表はスキー・ジャンプの梨沙羅選手。
「歓迎の言葉。
新入生の皆さんご入学おめでとうございます」。
世界レベルのアスリートが競い合う鍛錬の場です。
中でも体操競技部は日本屈指の強豪です。
(鶴見)気を付け。
練習入ります。
(一同)お願い致します。
頑張りましょう。
史上最多の学生日本一46回。
19人のオリンピック選手を輩出してきました。
チームを率いるのはバルセロナオリンピック日本代表の…オールラウンダーを目指す村上選手。
早速厳しい練習が始まりました。
トントン。
そう。
村上選手はオリンピックの試金石となる10月の世界選手権を目指していました。
世界選手権はリオデジャネイロ・オリンピックまでにトップレベルの選手と戦える唯一の大会です。
代表の座をつかむには4月末の全日本選手権で24位以内。
そして5月のNHK杯で5位以内に入る事が条件です。
苦手種目克服のための時間は多くはありません。
まず力を入れたのは平均台。
1分半の間に幅10センチの台の上で十数個の技を繰り広げます。
バランスを崩すと減点。
高い集中力を持続する事が求められます。
村上選手が得点を伸ばせないのは一つ一つの技の美しさ…つまり完成度が低いからです。
例えばこの側方宙返り。
膝が僅かに曲がっています。
これが減点の対象となるのです。
一方日本のエース…同じ側方宙返り。
膝はまっすぐに伸びています。
このように美しさにも細かく気を配らなければ高得点は望めません。
更により高い集中力が求められる連続技にも取り組んでいました。
バク転バク転スワン。
回転技が3つも連続します。
進行方向が少しでもずれると…。
最後に落下して大きく減点されてしまいます。
1時間近くに及ぶ練習。
後半つい気が緩みました。
2回転で降りるところを1回転で終わらせてしまいました。
瀬尾監督見逃しませんでした。
技の完成度を高めるには最後まで気を抜かず繰り返し練習するしかない。
大技で勝負してきた村上選手の甘さを瀬尾監督は見抜いていました。
入学から3週間。
世界選手権への最初の関門全日本選手権。
村上選手は表彰台を目指します。
しかし思わぬ事態に見舞われました。
試合前の練習。
村上選手は盛んに腰を気にしていました。
慢性化した腰痛です。
大技のシリバスを持つ村上選手は何年も着地の衝撃を受け続け腰の神経を痛めていたのです。
体重の増加も腰痛悪化の原因でした。
女性は10代後半になると体重が増えやすくなるため腰により多くの負担がかかるのです。
最悪のコンディションで苦手の平均台に臨みました。
取り組んできた3つの連続技。
大きくバランスを崩して減点。
更に側方宙返り。
僅かに膝が曲がっています。
この種目18位。
大きく出遅れました。
次は得意のゆか。
挽回したいところですがなかなか痛みが引きません。
それでも演技冒頭大技シリバスで一発逆転を狙います。
失敗。
腰の痛みで速く回転する事ができません。
体が回りきらないうちに落ち手をついて大きく減点されました。
その後は集中力が切れ減点が増えていきます。
最後の2回宙返り。
1回転だけで終えました。
技を完璧にやり抜こうという意志は感じられませんでした。
ゆかは24位。
逆転するどころか足を引っ張ってしまいました。
この日段違い平行棒は10位。
跳馬は3位。
総合順位は21位。
辛うじて次の大会に進みましたが目標の表彰台には程遠い結果となりました。
試合後瀬尾監督から厳しい言葉をかけられました。
瀬尾監督は総合順位の低さではなくゆかで最後の宙返りを諦めた事を叱責しました。
体操選手としての覚悟が問われました。
それから1週間。
村上選手は練習場に姿を現しませんでした。
その間村上選手は東京都内の実家に帰っていた事が分かりました。
美容室を経営する母親の英子さんです。
ふらりと帰ってきた村上選手はひと言「髪を染めてほしい」とつぶやいたといいます。
やっぱりその…うまくいかなかったというのはどうしてもありますしね。
頑張ってはいると思うので…「ああそうなんだ」と思って。
何かここでちょっとこう…染めてあげて気持ち切り替えて頑張ってくれればいいなっていう思いで「じゃあ早くやろう」って言ってやりました。
やってあげました。
5月初め。
練習に戻ってきた村上選手。
これまでと表情が変わっていました。
昼休み。
先輩たちがごはんを食べていても村上選手は何も食べません。
減量です。
腰の負担を軽くして技の完成度を上げようと考えたのです。
このあと一人大学構内のジムへ。
40分間の走り込み。
冬物の上着を着込んで発汗を促します。
何だろうな「しっかりやんなさいよ」って全日本のあと怒られてもう一回考え直して切り替えなきゃっていうのがちょっとパッと頭に浮かんだんでそれで結構切り替えた部分はあります。
次のNHK杯まであと2週間。
苦手の平均台。
あの連続技を何度も繰り返します。
次は決して投げ出さない。
必死に練習しました。
5月世界選手権の代表を決めるNHK杯。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
(取材者)今日ですね。
はい。
代表の枠は5つだけ。
課題の平均台。
まず3つの連続技。
ぶれずに見事に決めました。
ただ最後の宙返りで惜しくも両脚がそろわず開いてしまいました。
続く側方宙返り。
脚はまっすぐきれいに伸びました。
そして最後の着地。
惜しくも手をついてしまいました。
この種目19位と振るいませんでしたが練習の成果は確実に現れていました。
ところが着地の衝撃で腰にまた強い痛みが現れました。
次はゆか。
このままでは大技シリバスはまた失敗するかもしれません。
ゆかの演技直前。
村上選手は瀬尾監督にある決断を申し出ました。
シリバスを捨て難易度が2つ低い伸身ダブルへの変更。
大技で一発逆転を狙うのではなく演技の完成度で最後まで戦う事を選んだのです。
今できる最高の演技を目指します。
伸身ダブル。
着地の衝撃に見事に耐えました。
腰の痛みをこらえながら4回あるジャンプを全て成功。
最後まで集中力が切れる事はありませんでした。
この種目7位と健闘しました。
段違い平行棒と跳馬は全日本選手権とほぼ同じ順位。
4種目の総合結果は…。
上位5人の中に名前はありませんでした。
総合8位。
今の力を出し切りましたが世界選手権には手が届きませんでした。
それでも村上選手は諦めていませんでした。
最後のチャンス。
翌年春のオリンピック代表選考会に懸ける事にしたのです。
夏場も厚い上着を着込んでの減量を続けました。
苦手な種目の練習も手を抜きません。
課題の連続技。
最後の宙返り。
脚が開かないように意識を徹底します。
更に練習内容も自分で積極的に考えるようになりました。
この日の段違い平行棒。
新しい技の習得にじっくり取り組む事にしました。
低いバーから高いバーへ後ろ向きで移動。
難易度が高く高得点が見込めます。
自分で考えるようになってから技の習得が早くなったといいます。
とにかく数をかけないと新しい技っていうのは成功していかないので。
村上選手を変えたのは惨敗した全日本選手権。
勝負を投げ出したふがいない自分の姿でした。
体操人生やり続けるまで。
9月思わぬ朗報が舞い込みました。
世界選手権代表にけが人が出たため急きょ控えメンバーに選ばれたのです。
(一同)お願いします!日本代表の合宿に招集された村上選手。
目標の3キロの減量に成功し腰の痛みは和らいでいました。
戦う準備は既にできていました。
そして10月世界選手権の舞台イギリスに渡った時運命の歯車が動きました。
調子を落としていた選手に代わり出場メンバーに昇格したのです。
こういう時こそやっぱりいい演技をしたらこれからも通用していくのかなっていうふうに思うので。
やる事は全然練習でもやってきてるし不安も全くなかったので。
追い続けてきた世界選手権の舞台。
思わぬ形で立つ事になりました。
課題の平均台。
まずあの連続技。
決めてます!迷いなく回転。
最後の宙返りでも両脚に隙間はありません。
そして側方宙返り。
美しく決めました。
最後の着地。
得点はNHK杯を大きく上回る14.033。
この種目7位につけました。
段違い平行棒。
取り組んできた新しい技。
見事に決めました。
次はゆか。
前回腰痛でできなかったシリバスで上位進出を狙います。
完成度の高い美しいジャンプでした。
最後はE難度。
(実況)止めました。
(解説)これはいい印象与えましたね。
劇的な変身を遂げました。
村上選手は世界の強豪を相手に4種目全てで健闘しました。
日本人6年ぶりの快挙となる総合6位。
オールラウンダーとしての一歩を世界の舞台に刻み込みました。
やり続ければいつか…頑張ってればいつかいい事はあるっていうのが今年多分証明されたと思うので。
ここまで来れたのはすごいいい収穫だなというのはあります。
いろんな経験がこの一年でできたんじゃないんですかね。
それに伴って技もちょっとっていうところからすごくいいところまでいけたので努力していけばもうちょっと上がれるかなって思います。
帰国して練習を再開した村上選手。
完璧なオールラウンダーを目指して新たな課題に取り組み始めました。
オリンピックの代表選考会まで3か月。
一つ一つの技に更に磨きをかけ完成度を追求していく覚悟です。
めっちゃいい試合したらメダル取れる位置まで来てるとは思うので。
オリンピックの最後の決まるまで追い込んでいきたいかなと思ってます。
挫折を乗り越えて大きく成長した村上茉愛選手19歳。
リオの舞台で更なる変身を誓います。
2016/02/04(木) 01:30〜02:17
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「夢へ 殻を破れ 体操 村上茉愛」[字]
去年6月この番組で“ゆかのスペシャリスト”から“オールラウンダー”に変わろうとする姿を描いた体操・村上茉愛選手。10月の世界選手権で大活躍。急成長の秘密に迫る。
詳細情報
番組内容
体操・村上茉愛選手。ゆかや跳馬など4種目全てで活躍する“オールラウンダー”に生まれ変わりつつある。去年6月の「アスリートの魂」では、全種目で完璧な演技を求めて苦闘する姿を描いた。その後、10月に出場した世界選手権では、すばらしい演技を見せた。団体は5位に入り、リオ五輪出場権を獲得。個人総合でも日本人トップの6位に。急成長の裏に何があったのか。追加取材も交え、村上選手の挑戦の日々と成長の秘密に迫る。
出演者
【語り】萩原聖人
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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