沿線住民「生活の足残して」三セクか廃線か
「もっと車両を増やせばいいのに」。余市方面から小樽へ向かう2両編成の普通列車は満員で、乗客から「立ち続けるのは疲れる」と不満も漏れた。余市町には観光名所のニッカウヰスキー工場もあり小樽−余市間は利用者が多い。しかし北海道新幹線が札幌まで延伸する15年後、2030年度末にはこの区間が姿を消す可能性もある。
JR北海道は延伸後、並行在来線の函館線(函館−小樽、287.8キロ)の経営分離を決めており、沿線15市町も同意済み。JRによる運行継続を求める声もあるが、実質的には第三セクターとしての存続か廃線か、二者択一しかない。
12年9月には道や沿線市町が並行在来線対策協議会を設立し、25年度までに函館線の経営問題の結論を出す予定だ。道交通政策局は「今後、議論が加速する」と話す。
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並行在来線のうち、特に小樽−長万部(140.2キロ)は廃線への懸念が高まっている。貨物列車がなく、存続してもJR貨物からの線路使用料収入が見込めないからだ。
こうした中、特に危機感を強めるのが、町内に3駅ある蘭越町の住民だ。JR北は3月のダイヤ改正で小樽−長万部の運行本数を5本減らす方針で、「鉄路衰退」の影響が延伸開業に先んじて表れはじめた。
昨年12月に結成された「在来線の存続を願う蘭越住民の会」の橋場操事務局長(65)は「路線がなくれば通学や通院ができなくなる」と話す。同町はニセコ地域のリゾート人気の高まりでも恩恵が少なく、倶知安や長万部に新幹線駅ができても経済効果が小さいのでは、と危惧する。「この区間の鉄路は100年以上続いた。なんとか存続させるために住民にも利用促進の努力が必要だ」と話す。
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北海商科大の佐藤馨一教授(地域交通論)は「乗客が少ない路線の整理はやむを得ない側面がある」と話す。14年度の輸送密度(1キロあたりの1日平均利用者数)をみると、小樽−長万部は675人、函館−長万部は3765人。JR北は札幌圏を含む全30線区で営業赤字で、赤字額の合計は400億円(14年度)に達することを公表した。その中で小樽−長万部の営業係数(100円の収益を得るために必要な費用)は570円で、営業効率の悪さは30線区中で11位と極端に悪いわけではないが、新幹線延伸で収支が悪化する恐れもある。
一方、佐藤教授は小樽−余市などでは、メンテナンス費用が比較的かからない蓄電池による新型車両導入など経営努力の余地もあると指摘。さらに、新幹線による収益を地方路線に回すことも必要だとし、「JR北には地域交通を維持するため最大限努力する義務がある。路線切り捨てありきで話を進めるべきではない」と強調する。
北海道にとって何が望ましい交通体系なのか。その結論を出す時が迫っている。