愛知県で2007年、認知症患者の男性(当時91)が徘徊(はいかい)中に電車にはねられ死亡した事故で、JR東海が家族に損害賠償を求めた訴訟の上告審弁論が2日、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)で開かれ、結審した。判決は3月1日。認知症患者を抱える家族の監督責任について初の判断を示す見通しで、介護現場などに大きな影響を与えそうだ。
訴訟では男性と同居していた妻(93)と横浜市在住の長男(65)の責任の有無が争点。弁論は結論を変更する際に開かれるため、妻のみに男性の監督義務者として賠償責任を認めた二審の判断は見直されることになる。
事故は07年12月7日に愛知県大府市で発生。自宅で介護していた妻らが目を離した間に男性が外出し、JR駅構内の線路に入って電車にはねられ死亡した。男性は認知症で常に介護が必要な状態だった。JR東海は家族が監督義務に違反したとして、振り替え輸送などの費用約720万円を支払うよう求めた。
家族側はこの日の弁論で「介護に関与した家族の誰かに監督責任があるとすると負担は過酷なものになり、認知症患者に関わりを持たない以外に方法がなくなる」と指摘。監督責任を否定し、妻は必要な注意を払っていたため賠償責任も免除されると訴えた。
JR側は「妻だけでなく、家族会議を主催して介護の方針を決める立場にあった長男にも監督責任はある」と主張、二審判決の見直しを求めた。
一審・名古屋地裁は遠方にいても長男には監督責任があったと判断。妻の過失責任も認め、2人に請求通り約720万円の支払いを命じた。二審・名古屋高裁は妻だけの監督責任を認め、JR東海側も安全配慮義務があったとして賠償額を約360万円に減額。長男の監督責任は認めなかった。判決を不服として双方が上告していた。
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