米フォード・モーターは1月25日、日本とインドネシアの自動車市場から撤退することを決めた。実はこの撤退はひっそりと行われた。フォードの撤退が明らかになったのは、フォードのアジア太平洋地域担当社長のデイブ・ショック氏がこの地域の従業員全員に送った電子メールを、ロイター通信が入手してからのことだった。このメールにより、フォードは2016年末までに両市場からの撤退の事実を認めざるをえなくなった。それでもフォードは「閉ざされた日本市場」という決まり文句を最後まで唱え続けた。
発表されなかったこの撤退の直後、フォード広報担当のニール・マッカーシー氏はAP通信に対し、「日本は、世界のなかで最も閉ざされた自動車先進市場であり、同国の年間新車市場に占める輸入車の比率は6%にも満たない」と述べている。
マッカーシー氏のこの発言の前半は、デトロイトの自動車メーカーのロビー団体、米自動車政策会議の主張の引き写しであり、何の証拠もない。後半は、多くの人々に強い影響力を及ぼした著作『統計でウソをつく法』からの盗用のようだ。
たしかに、日本における輸入車の市場シェアは10%(輸入車が競合しない、日本独特の軽自動車市場を含めると約6.5%)程度だ。フォードが認めたがらないのは、この数字が、強力な自動車産業が根付いた地域の輸入車市場が活発だという証拠になっていることだ。日本市場で輸入車が占めるシェアは、約4%の欧州より高く、中国よりも高い。中国汽車工業協会が公表しているデータによれば、中国市場に占める輸入車のシェアは約5%である。フォードが欧州や中国の市場の閉鎖性について不満を訴えていないのは、おそらくこの両地域において、同社がすでに確固とした基盤を築いているからだ。
■「閉鎖的市場」の物語
フォードは、ワシントンDCをはじめ、米国内の消費者に「閉鎖的市場」の物語をうまく信じ込ませている。この物語で、フォードが小型トラック(ピックアップ車)の販売利益に大幅に頼っている事実や、小型トラックに対する25%という関税障壁および世界では受け入れがたい法規制に守られて同社があぐらをかいているという状態から人々の注意をそらせる。
さらにフォードが認めたくないのは、日本の輸入車市場で欧州の競合メーカーに敗北を喫したことだ。去年、日本に輸入された30万台以上の車のうち80%以上を欧州車が占めており、米国車のシェアは4%にすぎない。10社以上の国産自動車メーカーがひしめく日本はきわめて競争の激しい市場だが、フォードをはじめとするデトロイトの自動車メーカーからは、日本市場での競争に挑む気すらないのではないかという印象もときに受ける。日本に輸入されるフォードの車は、日本市場では逆の右ハンドルになっていることもある。
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