2015年と2016年の話

第1話
minneから始まる大規模な挑戦
第2話
次世代ホスティングとmruby
第3話
2016年のトレンド予測

2015年と2016年の話

第1話  minneから始まる大規模な挑戦
第2話  次世代ホスティングとmruby
第3話  2016年のトレンド予測

今回の登場人物

栗林 健太郎

栗林 健太郎(あんちぽ)
ネット上では「あんちぽちゃん」として知られる執行役員CTO。2016年も圧倒的コンテンツ力は健在。

柴田 博志

柴田 博志
Rubyコミッターとして世界に名を轟かせる愛されチーフエンジニア。2016年も引き続き愛妻家。

松本 亮介

松本 亮介
福岡勤務のシニア・プリンシパルエンジニア。知略と技術でチームの士気を上げる諸葛亮孔明的存在。

小田 知央

小田 知央
福岡勤務のプリンシパルエンジニア。複数サービスの裏側をモダンな仕様にする傭兵として暗躍。

伊藤 洋也

伊藤 洋也(ひろやん)
プリンシパルエンジニア。近年は新卒エンジニア研修など、教育体制の整備に尽力。

近藤 宇智朗

近藤 宇智朗(うづら)
福岡勤務のプリンシパルエンジニア。福岡Rubyコミュニティとの繋がりも深い。

高橋 健一

高橋 健一(けんちゃんくん)
シニアエンジニア。複数サービスの技術支援の他、プロダクトオーナーシップの勉強会も主催。

柳生 祐介

柳生 祐介(ぎゅうぎゅう)
シニアエンジニア。あんちぽちゃんとともにGMOペパボオーシーの技術フェローを務める。

※写真撮影は欠席のためコメントのみ掲載しています

あんちぽ
2016年に話題になるであろうトピックについてみなさんはどうお考えですか?
柴田
GoogleやMicrosoft、Amazon、IBM、あとはEMCを買収したDELLあたりのいわゆる超巨大企業がクラウド市場に乗り込んできて、市場に影響を与えるようなビッグプロダクトをどっかんどっかん出してきている。例を出すと、AWSがAmazon Auroraという高機能なRDBMSをリリースしていて、それを使えばディスクの上限について一切考える必要も、データベースで悩む必要もなくなる。一方で、何らかの事情でその仕組みを利用できない人が同じ機能をMySQLで実現するためには、すごくがんばっていろんな準備をしなければならない。大資本の提供するプラットフォームが使えない場合に自前で用意しないといけない環境のレベルが、どんどんシビアになっていて、他社と競争しなければならないというときにスタート時点でついてしまう差は、どんどん広がってきていると感じています。この状況は2016年も続くと思っているので大変つらいんですが、つらいなりに考えておかないといけないなと。モバイル化の波も引き続き寄せてくるでしょうね。iOSに関して言うと、Objective-Cがいつ切られるんだろうというのにびくびくしながら過ごすというのが、2016年じゃないかなあと(笑)。
あんちぽ
Appleがある日突然「もう今日からObjective-Cで作られたアプリはストア申請受け付けません!」って言うかもしれない、ってことですよね。
柴田
そうです。Swiftがオープンソース化されたということもあって、Swift化の波も当然強力になっていくと思うんですけど、swift-evolutionのような場所で情報が事前にエンジニアに告知されているということは、つまり「おまえら、しっかりキャッチアップせえよ」っていう話だと思うんで。Objective-Cで書かれているアプリケーションをいつSwiftに移行するのかという問題と向き合っていかないといけない時期かなあって思います。
あんちぽ
ちゃんと誰からも見えるようにオープンソースにしたんだよ?見てたよね?と言われてしまったらどうしようもないですからね。
柴田
もうひとつ、モバイル開発の主戦場が、いかにモバイルプログラミングの効率化をやるべきかという方に向かっていく時期だと思っています。サイバーエージェントさんが作ったSmartphone Test Farm(STF)という、リモートで100台以上のAndroid端末で挙動を検証できるシステムが話題になっているのもその流れのひとつだなと。われわれはそれをキャッチアップしていかなくてはいけないし、その上で、いいプロダクトを作るとか、いいプログラムを書くとか、メンテナンスしやすくするとか、人間にしかできないことにより多くの時間を使っていかなくてはならないんだと思います。
あんちぽ
なぜそれが必要かというと、モバイルはWebと比べると、プラットフォームや端末による技術的な制限も多いし、複雑性も高い。技術力で勝負してもそれほど差はつきにくいけれど、生産効率が上がれば、よりよいUXを考える時間も増えて、よりよいアプリを作れるだろうということは自明なので、そこが主戦場になるだろうと言う見通しですね。
ぎゅうぎゅう
確かに数年前と比べると、モバイルの領域でも、個人開発よりチーム開発、完成したアプリのバグフィックスよりミニマムスタートからの追加開発というパターンが多くなり、その観点から保守性を求められるシチュエーションが多くなっているように感じます。
柴田
そうですね。膨大なユーザーを抱えるアプリのメンテナンスを組織としてどうやっていくか、また新規開発と運用のバランスをどうするかという問題にもつながるところなので、取り組んでいかないとなあと思ってますね。
ぎゅうぎゅう
アプリ公開後のレグレッションを防止するためにテストコードを書いたり、さきほど柴田さんが挙げられたSTFを使って検証したりして、運用がチームの負荷になりにくくする仕組みが今後ますます必要になってくるんでしょうね。
あんちぽ
ペパボも2015年はモバイル化がキーワードで、特にminneの流通額について、Webをモバイルが上回ったのが大きなトピックでした。いまや大抵の人にとっては、minne=アプリのサービスという印象が強くなってきたと感じています。去年は人員も増えて技術的なノウハウも蓄積されてきた段階なので、次のステップを考えたときに、柴田さんが今おっしゃったポイントが、minneだけでなく他のサービスにおいても競争力の源になっていくんだろうと思います。ひろやんはどうですか?
ひろやん
これからペパボや業界を支えていくであろう若い人たちに、次々に起こるパラダイムシフトをキャッチアップしてもらための学習や研修をもっと模索して突き詰めていかないといけないと思っています。われわれ基盤チームのメンバーをはじめ、最前線のエンジニアたちが日々頑張って走って追いついていってる姿勢や学習方法を伝えていきつつ、若い人たちを支援して押し上げていく方法を考えていきたいですね。
あんちぽ
ペパボだけじゃなく、Web業界はまだまだ若い業界なので、老若男女みんなひたすら必死に頑張っているっていうのがこれまでで、この先もある程度そうなるとは思うんですが、一方で、ある程度経験値がたまってきた状況で、ここらで一旦落ち着いて先のことを考えてもいいよねっていうのもあるのは事実ですね。人を育てる、成長を支援するという取り組みはペパボでここ数年力を入れているところで、新卒エンジニアの研修はひろやんが指導してやっていますし、「いるだけで成長できる環境」を会社として整備していくというのは、Web業界全体が成熟していく過程の中で、ペパボは比較的先駆けてやっていこうとしているところです。
柴田
あと、キャッチアップしないといけないぞっていう部分で言うと、やっぱりフロントエンドですかね。
あんちぽ
フロントエンドは、この先どうなんですか?
柴田
この先は、僕の観測範囲だと、終止符がつきつつあったJavaScriptツール大戦争で、Node.jsとio.jsに分かれてたのがNode.jsに統合され、これからはNode.jsとnpmで頑張っていこう、めでたしめでたしというのが2015年。我々としては、まずはそのあたりをキャッチアップしつつ、Webサーバーの陸続きではないフロントエンドの考え方を、改めてWeb開発エンジニアやインフラエンジニアたちが理解して、仕事の進め方や設計を考えるということがひとつと、それをふまえたインフラサーバーアーキテクチャを考えなくちゃいけないという動きが一層広まりそうな気がしています。
ぎゅうぎゅう
2015年にはES2015の言語仕様が正式に策定されましたし、2014年ごろまでのいわゆる諸国乱立期とは違い、ツールセットの組み合わせも、現実味があるものは有限な数になってきています。Web開発エンジニアやインフラエンジニアも、それらの有限な組み合わせの中からどれを採用していくか、デザイナーと協調しつつ考えなければならない時期が来ているように感じます。
あんちぽ
そうですね。さきほどもMicroservicesの事例で取り上げた新しいショッピングカート開発のプロジェクトではいわゆるSPAな構成を採用していたり、導入が進んできている中で、ここ最近方針が固まってきたツールやライブラリのキャッチアップにも本腰を入れてやっていきましょうというところですね。では最後に僕が来年くると思ってるトピックはあれです、人工知能とブロックチェーン。
一同
(笑)
あんちぽ
2012年頃からビックデータっていうバズワードが出てきた流れで、具体的な使いみちとしてIoTと人工知能、そしてブロックチェーンが出てきたっていうのが僕の見立てなんですけれども、特に人工知能は我々にとっても応用して活用していくイメージが湧きやすいジャンルである気がするんですが、どうでしょう。
松本
いろいろと情報をリアルタイムで取れるようになってきている今の状況で、データ活用方法をインフラエンジニアの視点で考えると、日々の運用の中で、単純に自動化できない部分、状況に合わせて人間の判断が必要になる部分を、機械学習や統計的な手法によって人工知能のアプローチにより判断させるという取り組みはすでに現在進行中であり、3月のIPSJ-ONEでその研究の最新情報をお伝えできるかと思います。
あんちぽ
この座談会で随所に話がでてきているように、システム全体のレイヤーが上がって人の手による運用では追いつかなくなってきている部分を、人工知能というか、機械学習的なアプローチをはじめとした、もうちょっとインテリジェントな今までとは違う仕組みを取り入れていかないといけない時代が迫ってきているということですね。2016年も新たな挑戦に取り組む1年になる予感がします。ということで、みなさんありがとうございました。今年も引き続き頑張っていきましょう!


〜おわり〜