宮地ゆう
2016年2月2日17時00分
日本でシリコンバレーと聞いてイメージするのはどんなものだろうか。グーグル、アップル、フェイスブックといった世界的なIT企業、先端的な製品やサービス、若者の活発な起業やそれを支える投資家たちなどのコミュニティーだろうか。確かに、米国経済を牽引(けんいん)するIT企業がひしめくシリコンバレーは、技術革新で米国を活性化させる大きな力になっていて、この地域から生まれる製品やサービスが世界を席巻している。一方で、急増するIT関係の富裕層と、低所得者層の間には埋めがたいほどの所得格差が生まれている。シリコンバレーは全米でもホームレス人口の多さで抜きんでた地域でもある。
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サンノゼ市内を歩いていると、あちこちにホームレスらしき人たちの姿がある。声をかけると話してくれたのが、デービッド・デューイットさんと妻のシンディー・フォーレスさん(44)だった。夫婦でキャンピングカーで車上生活をして5年近くになるという。
5年前まで配管工事の店を持っていたデービッドさんは「1990年代には6万3千ドル(約740万円)くらいの年収があった」と話す。アパートには二つの寝室があり、二人で暮らすのには十分だった。ところが、仕事がだんだんと減り始め、2007年にひざをけがしてからは仕事がほとんど出来なくなったという。小さなアパートに引っ越したが、心臓病もわずらい、とうとう家賃が払えなくなった。「2011年には、店も自分の家も失ってしまった」
その後一時期、テキサス州の油田で働いたこともあったが、ほとんどがサンノゼでの路上生活だ。
妻のシンディーさんも同じ頃に獣医師助手の仕事を失った。以後、2人は路上に止めたキャンピングカーで暮らし、時折シャワーを浴びにホームレスの保護施設や教会を訪ねている。デービッドさんは心臓病を患っているために、数十メートル歩くのがやっと。2人の命綱はサンタクララ郡が支給する2人で月180ドル(約2万1千円)の食費援助だ。
シンディーさんは黒くひび割れた指先で食パンをちぎりながら、「温かい食べ物は高くつくので、豆の缶詰などを2人で分け合って食べることが多いんです」と話す。そして、「昔は夕食を囲む家があり、温かいベッドもあった。でも、いまはもう何もない。普通に働いていたのに家すら持てないなんてね」と、寂しそうに笑った。
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朝日新聞国際報道部
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