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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

マイナス金利が抱えるアキレス腱
なぜ制御が難しくなるのか?

熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
【第198回】 2016年2月3日
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日本でも予期せぬ金利上昇が?
2015年ドイツの金利上昇に学ぶ

 今後、経済情勢が改善すると、何年間もマイナス金利を継続する必要がなくなるという観測が、急に浮上する局面があるかもしれない。円安による輸入物価の上昇や、原油価格の上昇が、マイナス金利継続が何年も先まで続くと織り込んだ時間軸を、ある日突然修正させる。そうなると、予期せぬ金利上昇が長期ゾーンを中心に起こる可能性がある。

 欧州における長期金利の変動を振り返ってみよう。ECBのマイナス金利は2014年6月に開始された。ドイツの長期金利は、その後、2015年4月に0.0735%という歴史的な低水準をつけたが、5・6月と急上昇して0.98%までリバウンドしている(図表3参照)。

◆図表3:ドイツの債券利回りの推移

出所:日経QUICK

 当時は、マイナスだった消費者物価の前年比がプラスに反転し、一旦デフレの定着が回避できたという認識が強まった時期である。ドイツの長期金利は、目先の情勢変化を受けて、先行きの金利予想が塗り替えられるようになったため、急上昇をしたのである。ドイツの長期金利が急上昇した教訓は、情勢変化によって過度に織り込まれ過ぎたデフレ予想が修正されたときに、大きな金利変動が起こり得ることを伝えるものだ。

 現在のわが国の長期金利低下を見て思うのは、欧州の長期金利が当初はそうであったように、現在は反動を溜め込んでいるのではないかという懸念である。

一見合理的に見えるが……
金利のマイナス幅にある不安定さ

 金利水準がマイナスになることによって、イールドカーブ全体が沈み込むことが、物価見通しによるのではなく、もっぱら日銀やECBのマイナス金利政策の要因で起こっている。このマイナス幅は、マーケットの予想に応じて変化するので、一見それが合理的に決定されているように錯覚する。

 たとえば、現在のECBの預金ファシリティの金利は▲0.3%である。一方、2年物の金利は▲0.47%(2月1日)とより大きくなっている。これは、債券市場の取引が、追加的に預金ファシリティのマイナス幅を拡大させるという見通しに基づいて行われ、先々、▲0.3%よりもマイナス幅が広がることを市場参加者が予想しながら、▲0.47%という金利形成が成り立っている。

 しかし、よく考えてみると、ECBはどのようなルールに準拠して、預金ファシリティのマイナス幅を決めているのかはよくわからない。実はその決定は、「ドラギ総裁は次に何を仕掛けてくるか」という極めて裁量的な行動を予想するという、曖昧な基準に基づいている。

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熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]

くまの・ひでお/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。 山口県出身。1990年横浜国立大学経済学部卒。90年日本銀行入行。2000年より第一生命経済研究所に勤務。主な著書に『バブルは別の顔をしてやってくる』(日本経済新聞出版社)など。


経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

リーマンショック後の大不況から立ち直りつつあった日本経済の行く手には、再び暗雲が立ち込めている。留まることを知らない円高やデフレによる「景気腰折れ不安」など、市場に溢れるトピックには、悲観的なものが多い。しかし、そんなときだからこそ、政府や企業は、巷に溢れる情報の裏側にある「真実」を知り、戦略を立てていくことが必要だ。経済分析の第一人者である熊野英生、高田創、森田京平(50音順)の4人が、独自の視点から市場トピックの深層を斬る。

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