私は人事をしているが、制度・組織を担当しているため、採用活動にはあまりタッチしていない…。だが、制度や組織と採用・教育は密接に連関しているため、中途採用の面接に同席することも多い。
応募者は30代前半男性。独身。
- 最初の就職先を5ヶ月で辞め、ある分野の専門学校へ…
- 学んだことを活かせぬまま、派遣社員として金融機関の事務センターへ…
- 数年後、そこで覚えた仕事を活かして正社員になるべく就職活動…
- 労働人口の多い職種のため、正社員登用の道は険しく、またも派遣社員としてデータ入力の仕事へ…
- そして2009年、リーマンショックで派遣切りに遭う…
と、ここまでが彼の略歴…
志望動機を尋ねると「正社員採用だから」とのこと…
面接者は硬直し、しばし沈黙する…
私:「あなたにとって正社員の意味とは?」
応:「カネと安定です。仕事は後です。」
このやりとりで結果はすでに見えているのですが、働く意義を見いだせずにここまで来ている本人の姿に愕然とします…
彼は正社員になるために就職活動を続けているのです。
その動機だけだと、よほどのデマカセを言わないと、就職は困難でしょう。
しかも後で大変な目に遭うでしょう。
「未経験で正社員採用してくれる会社を探している」と正面切って話してくれました。
雇う側の理屈はこうです。
「うちの会社の業種に魅力を感じてくれて、
やる気があるなら未経験でも正社員採用しましょう。」
ですが、彼は順序が違っていました。
未経験であるということを謙虚に受け止めてくれていません。
未経験者が経験者に勝つには「やる気」「元気」「動機」くらいしかないのですから…
「動機が弱いのはなぜですか?」とお聞きしました。
「入ってみないとやる気が出るかどうか分かりませんから。」との回答。
うん、やはり違う。
「はやく正社員になりたい」
これのみなのです…
あるアニメ作品の最終回を思い出しました。
3人の妖怪は人の魂を食べると、人間になれると知ります。
しかし、そのうちの一人がこう言います。
「俺たちは人間になるために悪と闘い、人間になれると信じてきた。ここで魂を食べてしまうと人間の形にはなれても人間にはなれない。」
「人間としてやるべきことをやって人間にならないと意味がない」ということを理解します。
正社員採用は中小企業にとって投資の意味が大きく、「正社員の姿だけを求める人材」はリスクに化けます。
正社員の意味をここまで掘り下げるのに意味があるのかと大きな会社の方には問われてしまうかも知れませんが、人を雇うと言うことは重いことなのです。
「権利」と「義務」は間違わないようにいきたいものです…
このご時世、正社員登用はありがたいですが、正社員になるための応募にすんなりと「どうぞ」と言ってあげられないのが本音なのです…
<推薦図書>
金融危機を境に「派遣切り」「内定取り消し」など、日本の雇用情勢の厳しさを示すニュースがあとを絶たない。「正社員のリストラ」さえ報じられている。その一方で、正社員になることを望む非正社員は依然多い。ところが、「正社員化」についての情報は極端に少ないのが現実だ。本書は人事・労務分野で長年、取材・執筆活動を続けてきた著者によって、悩める非正社員のために、悩み・疑問に答えるべく、極力、具体的かつ実践的に書かれた一冊。