圧倒的だった存在感に陰りが見えるのは確かである。だとしても、米国ほどグローバルな力を行使できる国はいまもない。

 あらゆる地域に関与することで繁栄を享受してきた米国は、その引きかえに国際秩序を支える責務も負っている。

 その国の次期政権を担う人物に世界が注目するのも当然だ。

 しかし、1日に本格始動した大統領選の論戦が、その期待に応えているとは言いがたい。

 ポピュリズム的な人物に話題をさらわれ、具体的な政策論議に乏しく、中傷合戦がめだつ。中西部アイオワ州であった全米最初の党員集会でも、そんな人物が一定の支持を集めた。

 世界にとっても米国にとっても憂慮すべき事態だ。米国の動向は米国だけのものではない。米国の有権者は、国際社会に重責をもつ国としての意識を忘れず、選挙に臨んでほしい。

 大統領選では、2大政党である民主党と共和党が州ごとに党員集会や予備選を重ね、7月にそれぞれの候補者を指名する。11月の投票でオバマ大統領の後継者が決まる。

 最初の州アイオワでは、共和党で保守強硬派のテッド・クルーズ上院議員がドナルド・トランプ氏を抑えて勝利した。民主党では、ヒラリー・クリントン前国務長官とバーニー・サンダース上院議員が接戦を演じた。

 9日に予定されている次のニューハンプシャー州予備選ではトランプ氏とサンダース氏が優位に立つ。いずれも、外交や国際問題について経験は浅い。

 もちろん、立場が異なる人物が広く論戦を交わすのはいいことだ。だが、とりわけ共和党の論議には、政策論というより、扇動というべきものさえある。

 移民問題に絡み、「イスラム教徒の入国禁止」を唱えたり、イランとの核合意について「米国が世界最大のテロ支援国になる」と反対したりする極論だ。

 背景には、格差や治安悪化などへの国民の不安や怒りがあろう。それに乗じて留飲を下げる過激な言動に走るようでは、この大国を率いる資格はない。

 過激派組織「イスラム国」にどう対するか。中東の安定や難民危機の解決には何が必要か。中国とどう向き合うか。世界が米国と共有する難題こそ、論戦の主軸にしてほしい。

 だれが次の大統領になっても米政治は引き続き、保守とリベラルとの深い分断に悩まされ続けることは確実だ。だが、米国抜きには21世紀の世界秩序は語れない。国内の対立を超えて、いかに世界とかかわるか。米国の自覚が問われている。