東大、論文不正で3人の博士号取り消し
http://www.sankei.com/affairs/…/150328/afr1503280014-n1.html
ついに…という感じです。早稲田が処分をしない間に、東大の方が先に博士号取り消しをしましたね。
名前が出ているのでここに書きますが、藤木亮次元助教と金美善氏の論文(いずれも Nature 誌、小保方氏の STAP 論文が掲載された雑誌です)は出版直後に目を通していて、特に藤木助教の論文は
「まあ、次はこういうタイトルの論文を出してくるだろうな」
と、結論が先にあって、それに後からデータを当てはめたように感じました。
まず、藤木元助教の論文ですが、ヒストンおよびヒストンメチル化酵素の糖鎖修飾で2本Natureにアクセプトされていました。
GlcNAcylation of histone H2B facilitates its monoubiquitination.
Fujiki R, Hashiba W, Sekine H, Yokoyama A, Chikanishi T, Ito S, Imai Y, Kim J, He HH, Igarashi K, Kanno J, Ohtake F, Kitagawa H, Roeder RG, Brown M, Kato S. Nature. 2011 Nov 27;480(7378):557-60. doi: 10.1038/nature10656.
PMID:22121020
GlcNAcylation of a histone methyltransferase in retinoic-acid-induced granulopoiesis.
Fujiki R, Chikanishi T, Hashiba W, Ito H, Takada I, Roeder RG, Kitagawa H, Kato S. Nature. 2009 May 21;459(7245):455-9. doi: 10.1038/nature07954. Epub 2009 Apr 19. Retraction in: Nature. 2014 Jan 23;505(7484):574.
PMID:19377461
タンパク質の翻訳後修飾はいっぱいありますし、しかも1つのタンパク質に複数の修飾がされるのも当たり前ですから、すでに知られていたメチル化、アセチル化、リン酸化、あとH2A/Bで複数のグループから報告があるユビキチン化、とくれば、多分、どんな修飾を報告しても、それがあまりにも重要だと言ってしまうと怪しまれますが、加藤研ですから、ねつ造発覚前はそんなに疑う人もいなければ、
「これは怪しい。追試するぞ」
なんて人もほとんどいなかったと思うんですね。自分の場合、糖鎖に関する研究経験と知識がありましたので、
「まあ、ヒストンが糖鎖修飾されていてもあり得なくはないだろうな。でも、そんなに重要ではない気がするなあ」
教科書的に言えば、細胞内タンパク質は糖鎖修飾されておらず、基本的には細胞外に分泌されるタンパク質が、安定性を保つ必要などから糖鎖修飾されている例がほとんどなんですけど、10年以上前から、細胞内タンパク質でも糖鎖修飾があることがわかっていたんですね。
ただ、今思えば、ヒストンは核内ですし、重要なのは、分子量が小さいということなんですね。なぜかと言えば、糖鎖って一口に言いますけど、あれを実際の体積比で表すと、糖鎖ってものすごく大きいのがわかるんです。おおよそ、普通のタンパク質 (100kDa 以下くらいで考えましょうか)よりも大きいか同じくらいあるんですね。しかも、切断と付加が繰り返されているので、余程短い糖鎖でなければ、同じ構造をしていることがほとんどないんです。それを考えると、
「あんな小さいヒストンに糖鎖がくっついて重要な働きをしてるなんて、最初から疑うべきだったかなあ」
と思いました。自分の今の研究には糖鎖は直接関係ないのですが、ある結論に対して、それが正しいのか間違っているのかを正確に判断出来るかどうかは重要だと思うんです。
ただ、あんまり広い範囲の知識がなくて、かつ自信家な人に多いのですが、根拠がそんなにないのに、自分の考えやデータとあわない(合いにくい)というだけで、
「こんなのありえないだろ。嘘っぱちだ!」
っていうのは非常に良くないと思いますね。単に感情的なだけの発言なので、他の人にとっては何の役にも立たないですし、品格に欠けた発言ですから、研究室の雰囲気もそういう風に悪い方向に行ってしまいます。あまりお勧めできない研究室の1つの姿ですね。
話を元に戻しますが、今回のように原著論文が撤回になると、以下のような日本語の概説も読んだ意味がなくなるでしょう。正しい部分はもちろんありますが、同時に、どこかに嘘がまぎれているわけで、この内容を信じて覚えてしまうと、間違った知識が頭にインプットされることになります。
日本語の概説なので、特に英語の苦手な方や学生などは手を出しやすいですから(日本人だったら当たり前ですよね。僕だって、日本語の方が書くのも読むのも話すのも楽ですから)、こういうのも学会の方から撤回してもらった方が良いのでは、とも思います。
[Chromatin regulation by transcriptional co-regulator complexes].
Fujiki R, Kato S.
Seikagaku. 2010 Mar;82(3):180-90. Review. Japanese. No abstract available.
PMID:20408450
[Role of nuclear O-glycosylation in epigenetic regulation].
Fujiki R, Chikanishi T, Hashiba W, Kato S.
Tanpakushitsu Kakusan Koso. 2010 Jan;55(1):61-8. Review. Japanese. No abstract available.
PMID:20058708
一応、Kim氏の論文にも触れておきますと、
「Kimさんはこの論文を書くのに9年かかった」
っていう噂を聞いたんですね。でも、こういう事態にになってしまうと、一体どこにそれだけの時間がかかったのか、もしくはタイトルと内容がどんどん変わって行って、最終的にこのタイトルと内容になるまで単に「結果として」9年かかったのか。どちらにせよもうこの世には存在しない論文なわけですが、この論文に限らず、
「あの論文には6年かかりました」
「これは結構難産で、4年以上かかりましたね」
なんていう、「どれだけ時間がかかったか」を競争しているような話を聞く・・・までもないんですが、もし、少しでも人に役立つ、人を助けるための研究をしているという意識があるなら、時間はもっと短くすべきだと思います。
僕はいつも書くことですが、患者さん、特に重い病気の患者さんには時間の余裕がないのですから、
「頑張って早く結果を出して、世の中に役立ってほしいと思いました」
という方が立派だと思いますし、個人的には、自分より若い世代の研究者や大学教員にはこういう風に感じてほしいと思っています。
DNA demethylation in hormone-induced transcriptional derepression.
Kim MS, Kondo T, Takada I, Youn MY, Yamamoto Y, Takahashi S, Matsumoto T, Fujiyama S, Shirode Y, Yamaoka I, Kitagawa H, Takeyama K, Shibuya H, Ohtake F, Kato S. Nature. 2009 Oct 15;461(7266):1007-12. doi: 10.1038/nature08456. Erratum in: Nature. 2011 Dec 1;480(7375):132. Retraction in: Kim MS, Kondo T, Takada I, Youn MY, Yamamoto Y, Takahashi S, Matsumoto T, Fujiyama S, Shirode Y, Yamaoka I, Kitagawa H, Takeyama K, Shibuya H, Ohtake F, Kato S. Nature. 2012 Jun 14;486(7402):280.
PMID:19829383
STAP細胞論文の問題が起きて1年以上が経ちましたが、きちんと決着がついていない問題がまだまだあります。自分は大学教員ですし、その中でも「教育者としての自負が強い」と自覚していますので、小保方氏の出身の早稲田大学がどうきちんと対処するのかが、今でも一番の関心事です。
そこで、早稲田卒の方には申し訳ないですが、藤木元助教も早稲田卒です。大学院から東大に入ってきたので、博士号は東大が出しましたから東大が取り消しているのですが、肝心の早稲田大学は、小保方氏に対してどうするのか?この前のような滅茶苦茶な論理を押し通すのか?注目しています。
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(以下はリンク先の全文面です)
東京大分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授らが発表した33本の論文に研究不正が認定された問題で、東大は27日、捏造(ねつぞう)や改竄(かいざん)をした図を学位論文に使ったとして元助教ら3人の博士号を取り消したと発表した。3人は加藤研究室の学生だった藤木亮次元助教と金美善氏、製薬会社社員で研究に参加していた古谷崇氏で、平成17~19年に農学の博士号を得ていた。東大は、不正部分が重要な意味を持ち、削除すると論文の結論が成り立たなくなるとした