ソロス氏は1992年に英国の通貨ポンドを大量に売り浴びせて巨額の利益を上げ、「イングランド銀行(中央銀行)を打ち負かした男」と呼ばれた。97年にはタイのバーツなど東南アジアの通貨を空売りし、アジア通貨危機の引き金を引いたことが市場関係者の記憶に新しい。
今回危機を迎えた中国当局が、資本流出と、表裏一体である人民元暴落を止めることは容易ではない。人民元の買い支えるためにドルなど外貨を売ると外貨準備はますます減り、これを警戒する投資家は資本流出を一段と加速させるためだ。
中国危機が世界市場の足を引っ張るなか、個人的見解としたうえで、「資本規制が為替相場の管理に役立つ可能性がある」と提言したのが日銀の黒田総裁だ。英紙フィナンシャル・タイムズも社説で「唯一の選択肢は、(資本流出の)圧力が和らぐまで資本規制を強化することだ」と黒田総裁に同調した。曲がりなりにも自由化を進めようとしてきた中国だが、資本流出も人民元安を止めるには、海外への投資や送金を制限するしかないというわけだ。
ブルームバーグによると、すでに中国人民銀行(中央銀行)は、香港で業務をしている中国の一部の銀行に対し、オフショア(本土外)人民元の貸し出しを停止するよう指導したという。
ただ、これで大恥をかくことになるのが人民元が国際通貨であると事実上認定した国際通貨基金(IMF)だ。
特別引き出し権(SDR)の構成通貨に人民元の採用を決めたのは、「自由に交換可能である通貨」であることが大前提のはずだが、資本規制されている通貨を使おうとする国が果たしてあるのかは疑わしい。
さらには、AIIBを通じて人民元を幅広く流通させようという目論みも水泡に帰す恐れがある。
元内閣参事官で嘉悦大教授の高橋洋一氏は、「資本の自由化や国有企業改革は中国の一党独裁体制を揺るがすものだ」と指摘しており、社会主義と資本主義を無理やり両立させようという習政権の矛盾が一気に噴き出した形だ。