MUSIC TALK

6人の化学反応から生まれる予想外の音楽 KIRINJI(後編)

  • 2016年2月2日

KIRINJI メンバー6人のうち4人。(左から)千ヶ崎 学、コトリンゴ、堀込高樹、田村玄一
(撮影/山田秀隆)

  • KIRINJI メンバー6人のうち4人。(左から)千ヶ崎 学、コトリンゴ、堀込高樹、田村玄一
    (撮影/山田秀隆)

  • 2015年11月にリリースしたアルバム「EXTRA 11」

 2013年、6人編成のバンドとして新たなスタートを切った「新生KIRINJI」。多彩な才能と個性の集合体となった彼らが見据える風景とは? メンバーのうち4人が、それぞれの思いを語る。(文 中津海麻子)

    ◇

前編から続く

「バンドやりませんか?」とメールして

――2013年の「KIRINJI TOUR 2013」を最後に泰行さんが脱退し、新たなバンドとしてスタートを切りました。キリンジを「KIRINJI」と改めましたが、キリンジの屋号はそのまま。6人編成のバンドにしたのは?

堀込高樹(以下、堀込) 自分が始めたグループだったので愛着があったし、名前を変えたところでやることはあまり変わらないんじゃないか、と。だったら10年以上やってきた名前をそのまま使いたかった。KIRINJIを今のようなバンドにした大きな理由は、僕のアイデアに対していろんな人が反応したことを曲の中にどんどん取り込んでいく、そんな作り方をしたかったから。それまでのように僕が書いた設計図を見せて「こんなふうに」とオーダーして演奏してもらうと、僕が考えたとおりにはなるかもしれないけれど、そこから逸脱することもなければ、予想外に化けることもない。そうしたやり方には限界を感じていたのです。

――メンバーの皆さんは、どんなふうに声をかけられ、どのように受け止めたのでしょうか?

千ヶ崎 学(以下、千ヶ崎) サポートメンバーとして参加した最後のツアーから2、3カ月ぐらい経ったある日、マネージャーからメールが届きました。「バンドにするのでやりませんか?」と。

堀込 しかも俺からじゃなく、事務所から(笑)。

千ヶ崎 そうそう。だからこっちも事務的に「了解です」と返信して(笑)。

田村玄一(以下、田村) 心構えは少し変わるだろうけど、僕と千ヶ崎くんと楠くんはそれまでも一緒にやってきたので、比較的気楽に考えていました。

千ヶ崎 自覚みたいなものはそのうち追いついてくるだろう、とりあえず音楽的に頑張ろう、と。そんな感じでした。

コトリンゴ 私は、何かのイベントでごあいさつした程度で、一緒にお仕事をしたことはありませんでした。でも誘ってもらえたのがうれしくて、あまり深く考えず(笑)。音楽の面でもいろいろ勉強しながらお手伝いできたらいいな、と思って参加を決めました。

堀込 グループを組むときに未知数みたいなものがないと、予定調和になってしまうような気がして。1回も一緒にやったことのない人、音楽的背景の違う存在が集まったほうがおもしろいバンドになる。そう考え、コトリンゴさんと弓木(英梨乃)さんに声をかけました。

コトリンゴ 私はメンバーが固定したバンドは初めてなんです。それまではソロでの活動がほとんどだったので、正直、最初は戸惑いました。ライブをしていても自分の時間軸みたいなものがあって、1曲の中でもテンポがすごく揺れたりする。一人ならそれでいいけど、バンドだとほかのメンバーのリズムやテンポと合わせきれていないと感じることがあって。みんなの音を聴かないで、一人でワーッと行っちゃうことも。すごく難しい。

堀込 そのままでいいんじゃない? 曲にもよるけど、みんなが引きずられて速くなったり遅くなったり、それがあるからおもしろい。

コトリンゴ 確かにおもしろい部分もあるけれど、録音したものを聴くと音楽的にもう少しひとつになったほうがいいな、と感じることも。でも、最初のころよりもコーラスのハーモニーもリズムの取り方も信頼できるものが生まれてきて、よりいいものに近づいてきたんじゃないかと思っています。

田村 ライブなんて、自分がおもしろがってやるのが一番いい結果につながる。そして、それがドキュメントになっていくんだよね。

干支が3周りも違うバンドって、ほかにいない

――男女混合バンドにしたのは?

堀込 ステージ上が中年男だけなのと、女性がいるのとじゃ全然違いますからね(笑)。

千ヶ崎 男たちの節度が保たれます(笑)。

堀込 以前はバンドって男だけとか女性だけとか、すごくホモソーシャルなものでしたが、ここ数年のバンドはほとんどが男女混合です。今組むとしたらそうあるべきだと考えました。性別が混在していて、なおかつKIRINJIの場合、年齢幅もすごく大きい。

田村 僕と弓木ちゃんなんて干支が3周り違うからね。こんなバンド、日本にほかにない(笑)。

堀込 ということはつまり、メンバーそれぞれの音楽的な背景も当然違ってくるわけです。たとえば僕が「こんなふうに弾いてほしい」という譜面を書いても、メンバーの解釈やちょっとしたミスで思っていたものとは違う感じになる。それが「違うけどいいじゃん!」という瞬間がひとつの演奏の中に必ず訪れる。これは一人では到達できないことなんです。

田村 サポートメンバーだったころよりも、明らかに任されるようになりましたね。合わせてみた上で僕らから提案することもあるし。

堀込 以前のように厳密ではなく、ザックリ決めておいてとにかく6人でやってみる。そこで生まれることに関しては僕自身受け入れやすいし、何より出来上がったものもすごく自然なんです。

曲によってメンバーの役割が変わる

――曲によってボーカルが変わったり、一人で複数の楽器を演奏したりと、各メンバーが様々な役割を担っているのも、今のKIRINJIの特徴です。

堀込 そのほうが見る人が楽しいかなぁ、と。ライブって2時間以上、ボーカルが真ん中にいてずっと歌ってる。ボーカルだから当たり前なのですが(笑)、実は見る側にすごく集中力が要求されるんじゃないかと思っていて。僕自身、ほかのバンドのライブに行くと、1時間もすると飽きてきちゃう。曲が移り変わるにつれて、次は何をやるんだろう? この次は? と変化が起きたほうが、きっと見る人を飽きさせないはず。それは演奏している側も同じで、いろいろな役割をしたほうが変化があって楽しいですね。

――2014年にアルバム「11」を発表し、その楽曲を昨年リリースした「EXTRA 11」で再編集しています。その狙いは?

堀込 昨年6月に、ビルボードライブ東京で「11」の収録曲をアコースティックっぽいアレンジでやりました。そのあと本当はオリジナルアルバムを出したかったのですが、スケジュール的に難しいので、このライブの音源を少しきれいにして出そう、という話になっていたのですが、作業を進めるうちに、「ここのアレンジはもっとこうしたかった」とか「ライブではおもしろかったけど改めて音源だけを聴くとそうでもないな」とか、不満ややりたいことがいろいろと出てきて、単なるライブ盤として出すんじゃつまらないということに。結局、歌とコーラスはすべて、演奏も多くを録り直しました。ライブを見た人がこれを聴くと「あれ? 自分が見たライブと違う」と感じるはず。ライブ盤ではなく、ライブ音源を基にした別の何か。自分たちによるリミックス盤みたいな感じですね。

千ヶ崎 聴きどころは「歌」です。かなりライブの本数をこなしたことで、同じ歌、同じ歌詞を、同じ人が歌っていても、ずいぶんニュアンスが変化したように僕は感じていて。もちろんいい方向にだけど。アレンジの違いもおもしろいけど、歌を聴き比べてもすごく楽しめる1枚だと思います。

――これからの「KIRINJI」にかける思いを聞かせてください。

千ヶ崎 今まで以上に楽しい音楽、いい音楽を届けたいですね。

コトリンゴ KIRINJIでしかできないことって、たくさんある。自分の活動で私自身のスキルを高めつつ、それをKIRINJIに持ってきて相乗効果を生み出せたらいいなと思っています。

堀込 これまでは僕が中心となって曲を書いてきましたが、多彩なメンバーがそろっているので、今後は一人ひとりの才能をより発揮できるような音楽づくりをしていけたら、と。もしかしたら、KIRINJIってすごくマニアックな音楽と思われているかもしれません。音楽的に難しいことをやっているとか、音楽をたくさん聞いていないと楽しめないとか、そういうことはないので、おっかながらずに手にとってほしい。ライブもどんどん良くなってきています。一緒にフリをしたり無理やり歌わせたりといった決まりごともなく、好きなように楽しめるのがキリンジのライブなので、ぜひとも足を運んでもらいたいですね。

田村 若い人がやりたいようにやりなさいと思いつつ、年寄りを対等に扱ってくれることに感謝しながら頑張ります。

千ヶ崎 逆ですよ!

コトリンゴ こんなに親しみやすい……。

田村 おじいちゃんはいない?(笑) まぁこんな感じで仲良くやっていますので、次のアルバムに向かい一丸となってやっていきましょう。個人的には、夢で終わるかもしれないけど1曲歌ってみたいなぁ。

堀込 言っちゃいましたね!(笑)

  ◇

KIRINJI
堀込高樹 (vo / gt)、田村玄一(pedal steel /steel pan/ gt /vo)、楠均(dr /per / vo)、千ヶ崎学(bass /syn/ vo)、コトリンゴ(vo / pf / key)、弓木英梨乃 (vo / gt / vl)

1996年、実兄弟である堀込泰行、堀込高樹の二人で「キリンジ」を結成。97年CDデビュー。2013年に堀込泰行が脱退し、アルバム10枚を発表した“兄弟時代”17年間の活動に終止符を打つ。13年、田村玄一、楠 均、千ヶ崎 学、コトリンゴ、弓木英梨乃を迎えて「KIRINJI」に。14年、新メンバーによる初のアルバム「11」をリリース。15年、シングル「真夏のサーガ」と、アルバム「11」のナンバーを新たなアレンジで再レコーディングした「EXTRA 11」をリリース。

KIRINJIオフィシャルサイト:http://natural-llc.com/kirinji/

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