月刊 現代農業
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●巻頭特集 チッソ肥料を使いこなす

巻頭写真

肥料といえばチッソ。
よく効くだけに危険なもの。
収量アップはもちろん、病害虫の出方、
収穫物の味や日持ちだって、
チッソ肥料の使い方しだい。

「チッソ肥料を使いこなす」コーナーより

肥持ちの悪い転作田
チッソに泣き、チッソに笑う

熊本県八代市・入江健二さん

愛用している「オール14」を手に持つ入江健二さん
愛用している「オール14」を手に持つ入江健二さん

 熊本県八代市で長らくイネとイグサをつくってきた入江健二さん(58歳)が、本格的な野菜農家に転身して15年になる。今はイネ2haのほか、スイートコーン2haレタス6haを作付けている。水田転換畑でも野菜がしっかり育つように懸命に技術を磨いてきたおかげで、収量も品質も安定してきた。直売しているスイートコーンは、「今、熊本で一番ハズレがない」と言われるほどになっている。

 人が喜ぶ野菜をつくるにも、収量や品質を安定させるにもベースとなるのは施肥。中でも大事なのがチッソのさじ加減だ。農業を始めて40年、チッソ肥料との付き合いも長い入江さんは、かつては泣かされることが多かったチッソ肥料を味方につける術を会得してきたようだ。

ボクなんてホントに泣いてばかりで オレも40年くらいになるかな

勢いがついたら止まらない

 まずはチッソの大まかなとらえ方について。入江さんはこんなイメージを持っている。

「作物がチッソを吸い始めると、生育スピードがものすごく早くなりますよね。そのスピードというのは、私が思うに、雪山の上からソリで急降下していく感じ。どんどん勢いがついて止まらなくなる。要は、栄養生長に突っ走るってことです。しかも作物は肥料を吸いやすい順に吸っていて、その一番がチッソっていいますよね。必要不可欠な肥料ではありますが、効かせすぎると怖い面もあります」

 チッソを効かせすぎて失敗した経験はいろいろあるという。かつて栽培したインゲンでは、つるがどんどん伸びて花がビッシリ咲いたのに、実が一つもつかなかった。イネでは、葉がどす黒くなってイモチ病が激発。クスリをかけても止まらず、穂イモチまで出て大減収。レタスでは葉が薄くなって味が悪くなったこともある。

 この辺りは昔から「五等田」と呼ばれる肥持ちの悪い田んぼ。海岸近くの砂壌土で、CEC(塩基置換容量)は15程度と低い。チッソ切れがよくて作物の味はよいものの、少しでも控えすぎると、途端にチッソ不足に陥ってしまう。季節や天候によって効き方も変わるので、そのさじ加減が難しいのだ。だから入江さんはチッソと日々向かい合ってきた。

基本は安いオール14

 入江さんが今使っている肥料は、ほとんどが国産のオール14(チッソ14%、リン酸14%、カリ14%)。理由は、20kg1袋で1500円ほどという安さからだ。チッソとカリが同じ14%でリン酸が5%(14―5―14)なのに、1700円ほどする肥料もある。リン酸が少ないなら、もっと安くてもいいだろうと肥料屋さんに話したら、「オール14はメーカーが競って製造しているバーゲン品だから特別安くできるんだ」と言われた。肥料を年間1000袋以上は購入する入江さん。肥料代の節約を考えて、リン酸成分も高いお得なオール14を愛用しているわけだ。

 スイートコーンもレタスもイネも元肥はすべてこれ。補助的な肥料や追肥に硫安や緩効性肥料(肥効調節型肥料)のCDU(チッソ31%)、LPコート(チッソ40%)などを使っている。

愛用している「オール14」を手に持つ入江健二さん
愛用している「オール14」を手に持つ入江健二さん

レタスは緩効性肥料を組み合わせて大増収

 レタスは最初、オール14だけでつくっていた。元肥に10a8袋ほど入れるとちょうどよかったからだ。しかし時期によってはレタスが最後まで玉伸びしないことがあった。特に雨が多くて気温が下がる秋作(10月定植、12月収穫の頃)と春作(12月定植、3月収穫の頃)で顕著だった。おそらく雨でチッソが流れてしまうのだろう。そこで、最後までチッソを効かせるために、後からジワジワ効いてくる緩効性肥料を加えてみることにした。

「これをやったら全然違いました」

玉を太らせるには、やっぱり長効きチッソか

 入江さんは秋作にはCDU、春作にはLPコートを使っている。時期によって使い分けているのは、成分の溶け出し方が違うからだ。CDUは微生物の分解によって溶け出すが、LPコートは温度が上がることによって溶け出す。秋作は定植が10月でまだ暖かい。もしもLPコートを使うと最初から効いてしまうのではないかと考えてCDUにした。春作も最初はCDUのつもりだったが、農協の指導員に勧められてLPコートを選んだ。3月収穫といっても生育するのは真冬になる。寒くて微生物の働きが悪いのでLPコートのほうが効きやすいというのだ。

 10aにオール14を8袋、さらにこれらの緩効性肥料を2袋(40kg)ほど加えるようにしてからは、玉がよく太る。以前は10kg箱に16個入れていたのが、今は12個でいっぱいになる。だから出荷数も大幅に増えた。10a450箱ほどだったのが600箱に。もちろん売り上げもアップした。

「うちはカット専用の業務レタスだから、大玉だと業者の人にも喜ばれるんですよ、カットする手間が省けるって。お互いにいいんですよ」

家族と従業員で早出しスイートコーンの収穫。水田転換畑に建てたハウスも1.5haほどある(田中康弘撮影)
家族と従業員で早出しスイートコーンの収穫。水田転換畑に建てたハウスも1.5haほどある(田中康弘撮影)

スイートコーンは硫安追肥でサイズアップ

 スイートコーンは去年から追肥を始めた。『現代農業』のトウモロコシ特集(2013年7月号)を読み、追肥の重要性を感じたからだ。雄穂が上がる頃、硫安を10a当たり2袋(40kg)ほどやってみると、「MだったものがL、Lだったものが2L、2Lだったものが3Lに」なった。

「追肥をすると、確実にサイズがワンランク上がりますね。やったことに対して、ちゃんと効果が出る。おもしろいですねぇ!」

 入江さんによると、追肥をすることでスイートコーンの茎が太くなったり、葉が大きくなるわけではないという。株自体の見た目は変わらずに、実だけが大きくなるのだ。

 これまでも毎日何百本と収穫するなかで不思議に思っていたことだが、スイートコーンは株が小さくてもびっくりするほど大きな実がとれたり、逆に立派な株なのに小さな実しかとれないことがよくあった。

「要は、実が肥大し始める時期に肥料をちゃんと効かせられるかどうかで、大きさが決まるんでしょうね。大きいほうが単価も高いからいいですよ」

 直売の値段はMが110円、Lが135円、2Lが155円。これまでは、ほとんどLだったところが2Lになったので、1本当たりの売り上げが20円ほど高くなった。スイートコーンは10aに4000本植えるので、単純計算で8万円の売り上げアップである。

「追肥で純粋に手取りが8万円増えるわけだから大きいですよ。硫安代はありますが、そんなの微々たるもの」

水害の危機を硝酸カルシウムに救われた

 入江さん、今年は新しい肥料との出合いがあった。硝酸カルシウムだ。

 今年、南九州は全域で梅雨時期に激しい雨が降り続いた。入江さんのところでも、8月に収穫予定の遅出しスイートコーン畑が2回も冠水した。人間のひざ下くらいまで水に浸かる状況だった。幸い、水は1日で引いたが、肥料が完全に流されたと思い、すぐに追肥することにした。

 このときに初めて使ったのが硝酸カルシウムだ。硝酸は化学式にするとNO3。チッソ(N)と酸素(O)の両方を補えるのではないかと入江さんは考えたそうだ。チッソ供給だけでなく、水に浸かって弱った根に酸素も供給できれば早く元気を取り戻せるかもしれない。だから硫安ではダメだと思ったのだ。

 硝酸のチッソは硫安(アンモニア)のチッソ以上に速効的に効く。硝酸カルシウムをまくとすぐに、枯れそうになっていた下葉の葉色がみるみるよみがえって復活。このとき、硝酸カルシウムが足りなくてまけなかった5ウネほどの株は下葉が赤く枯れたままだった。

 しばらくすると、さらに驚くことが起きた。どの株からも雄穂は一斉に出てきたが、硝酸カルシウムをまいたところはどの株にもちゃんと実がついたのに、まかなかったところは実がつかなかったのだ。

「すごいと思いましたね。多少でも収穫できればタネ代くらいは出るけど、全滅だったら何も出てこないでしょう。これってぜんぜん違いますからね」

 近年は激しい雨が多い。今後も畑が水に浸かるようなことがあったら、入江さんはすぐに硝酸カルシウムをまこうと思っている。

今年の春、大雨で水に浸かったスイートコーン畑(5月上旬) 硝酸カルシウム。商品名は「カルパック」
今年の春、大雨で水に浸かったスイートコーン畑(5月上旬) 硝酸カルシウム。商品名は「カルパック」
春に水に浸かったスイートコーン畑(7月上旬)
春に水に浸かったスイートコーン畑(7月上旬)
下葉も青々として、実がしっかりついている 下葉が赤く枯れ、実(雌穂)がついていない。雄穂は出てしまっているので、雌穂が後から出てきても受粉できない
下葉も青々として、実がしっかりついている 下葉が赤く枯れ、実(雌穂)がついていない。雄穂は出てしまっているので、雌穂が後から出てきても受粉できない

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2015年10月号
この記事の掲載号
現代農業 2015年10月号

特集:チッソ肥料を使いこなす
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