(英エコノミスト誌 2016年1月30日号)

ジョン・ケリー米国務長官の訪中は、現実路線でよそよそしい米中関係を白日の下にさらしている。

中国は「新型大国関係」をうたっているが・・・ (c) Can Stock Photo

 4年ごとに、米国の大統領候補は中国に断固たる態度を取り、対決すると公約する。ポピュリストたちは雇用を国内に呼び戻し、必要とあらば貿易戦争に打って出ると約束する。安全保障畑のタカ派は、制裁から第7艦隊まで、米国が持つあらゆる形の力を行使し、中国の悪行を抑え込むと誓う。しかし、対中政策を模索するにあたり、カンボジアから略奪された骨董品を米国から本国に返還するべきだと主張した大統領候補を思い浮かべるのは難しい。

 だが、最近返還された彫像の視察は、ジョン・ケリー国務長官が北京へ向かう前日の1月26日にカンボジアを訪れた際に、真っ先にしたことだった。

 これらの彫像の中には、10世紀に作られた傑作で、クリーブランド美術館が2015年に返還した、猿の姿をした神の像も含まれていた。

 プノンペンにあるカンボジア国立博物館の視察は、印象的な場面だった。ケリー長官が見せられた数々の彫像は、1970年代の内戦中に盗難の被害に遭い、ジャングルに埋もれた寺院で発掘された台座にぴったりはまることから、出どころが判明したものだった。

 数時間後、地元の報道陣の取材を受けたケリー長官は、盗まれた文化財の返還を例に出し、これもカンボジアを含めた東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国に対する米国の積極的取り組みの1つだと述べた。また、カンボジア人の命と四肢を奪い続けている米国の不発弾をはじめとする、ベトナム戦争の「痛ましい傷跡」にも触れた。

中国を意識したロジック

 このアプローチには、実際のところ、中国を意識したロジックが働いている。もっとも、中国をバッシングする米国の政治家たちの多くが、ケリー長官は考えが甘いと非難し、過去の行いに対する謝罪が過ぎると批判するのは間違いない。

 批判的な勢力に言わせれば、バラク・オバマ大統領が唱える「アジアへのピボット(旋回)」――米国の外交的および軍事的な重心を見直し、中東からアジア太平洋地域へシフトすること――は、概ね失敗している。というのも、中国政府が米国企業を冷遇したり、領有権が争われている南シナ海の岩礁に滑走路を建設したり、サイバースパイを使って企業秘密や国家機密を盗んだりするのを止められていないからだ。

 そうした批判派は、中国が「行儀よく振る舞え、さもなくば・・・」と迫られる様子を見たいとの考えだ。