特別企画

知っておこう、源泉徴収票の見方

〜源泉徴収票の見方を知ると税金の仕組みが見えてくる〜

 サラリーマンは12月か1月の給与明細と一緒に、源泉徴収票と書かれた小さな紙を受け取っているだろう。その源泉徴収票には2015年(平成27年)の年収や納税額が記載されている。サラリーマン時代の筆者は「よく分からない数字が書かれている」程度の認識でそのまま封筒に戻すだけだった。源泉徴収票の見方を知ると、さまざまな税金の仕組みを理解できる。おそらく一度理解すれば一生役に立つ知識だ。この記事では源泉徴収票の見方と所得税の算出方法を説明したい。確定申告が近づき、何となく税金の話題を見聞きする時期なので、少しでも税金に興味を持っていただければ幸いだ。

 先日、筆者はデジタルライターズ協会が主催した税金の勉強会に参加し、その会に参加されていたライター氏と、会が終わった後に軽く飲みに行った。長年の知り合いであるライター氏は著名媒体の編集長などを歴任し、現在はフリーランスで活動している。ライター氏も筆者もサラリーマンを20年ほど経験した後に独立していて「日本のサラリーマンは税金のことを知らなすぎる」と意見が一致した。ともにサラリーマン時代は税金の知識は皆無に等しく、独立して必要に迫られ税金について勉強をした口なので、身をもって感じることだ。

 日本のサラリーマンには年末調整があり、ほとんどの人は自ら確定申告を行う必要はない。この年末調整という仕組みは日本独自のものらしく、海外ではサラリーマン(オフィスワーカー)も税務申告をするのが普通らしい。言われてみると海外のドラマや映画でその様なシーンを見ることがある。映画「ショーシャンクの空に」では、元銀行員で服役中の主人公が刑務官たちの税務処理を手伝うシーンがある。時代設定は1950〜60年ごろだが、公務員が給与明細を持って列を作り申告書類を作成するシーンは、日本人にはやや違和感があるが、海外の人には普通なのだろう。

 年末調整にはメリットがあり、多くのサラリーマンは家族構成と生命保険の支払額などを記入すれば、面倒な納税額の計算をする必要はない。すべてのサラリーマンが確定申告会場に押し寄せたら、税務署側も処理しきれなくなるだろう。確定申告受付最終日には、現状でも会場に入りきれない人が長蛇の列を作るほどなので、サラリーマン全員が押し寄せようものなら、大雪で入場制限をする駅のように数時間待ちになりそうだ。

 年末調整があることのデメリットは、納税意識の欠如と言われている。サラリーマンをしていると税金の知識がなくても困ることは少ない。増税などのニュースは気になるが、具体的な税金の仕組みには感心がなく、読者の中にも自分の2015年の所得税額を知らない人は少なくないだろう。少し税金に詳しくなるとさまざまなメリットがある。源泉徴収票の理解はその入り口となるだろう。

給与所得控除はサラリーマンの特典

 では実際に平成27年分 給与所得の源泉徴収票をジックリと見ていこう。もしお手元にご自身の源泉徴収票があれば、表計算ソフトか電卓を使って検証しながら読み進めていただければ、より深く理解できるはずだ。

 源泉徴収票はA6サイズ(A4の1/4)の小さな用紙にさまざまな数字(金額)が書かれている。それぞれの数字は一定のルールで関連しているが、そのルールはこの用紙には書かれていないので、ルール=所得税の算出方法を知らないと理解できないようになっている。ここでは源泉徴収票の主なところを、薄いブルー、薄いパープル、薄いグリーンに色分けしてみた。

 所得税の算出式は以下のとおりだ。1行目の式は年収から所得を求める式。2行目の式は所得から課税所得(税金の対象となる所得)を求める式。3行目は課税所得に税率を掛け所得税の額を求める式となっている。

・給与の収入金額(年収)−給与所得控除=給与所得(ブルー)
・給与所得−各種所得控除=課税所得(パープル)
・課税所得×税率=所得税(グリーン)

 最初の式が源泉徴収票のブルーの部分。2行目の式に出てくる各種所得控除が源泉徴収票のパープルの部分。最後の所得税が源泉徴収票のグリーンの部分となっている。

所得税算出の概念図

 色分けしたところを順番に説明していきたい。まずはブルーから見ていこう。この例では支払金額と書かれたところに660万円、給与所得控除後の金額と書かれたところに474万円と記載されている。660万円は会社から支払われた給与と賞与の合計額で、勤めている会社以外に収入がなければ、この660万円が1年間の収入=年収となる。もう1つの474万円は、収入から給与所得控除というものを引いた金額で、所得と呼ばれている。

 日常生活では、収入という言葉と所得という言葉を使い分けることはめったにないと思うが、税金の話の中では収入と所得という言葉が頻繁に出てくる。収入と所得の関係は以下の式で表される。

給与の収入金額(年収)−給与所得控除=給与所得

 いきなり出てきた給与所得控除という意味不明な言葉を説明しよう。給与所得控除はサラリーマンの必要経費と言われ、「スーツ代など会社には請求できないけど仕事に必要な経費がサラリーマンもあるでしょ」ということで、収入に応じて一定額を課税の対象から差し引いて(控除して)くれるものだ。給与所得控除額の計算式は以下のとおりだ。

給与所得控除の計算式
給与等の収入金額(年収) 給与所得控除額
162万5000円以下 65万円
162万5000円超 180万円以下 収入金額×40%
180万円超 360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超 660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超 1000万円以下 収入金額×10%+120万円
1000万円超 1500万円以下 収入金額×5%+170万円
1500万円超 245万円(上限)

 年収が660万円の場合、給与所得控除の額は660万円×20%+54万円=186万円となる。先ほどの式に当てはめると

660万円−186万円=474万円

となり、源泉徴収票の支払金額(年収)660万円と給与所得控除後の金額(所得)474万円の関係が理解できたと思う。

給与所得控除を知ると収入と所得の関係が理解できる

 ご自身の源泉徴収票でこの部分を計算をすると微妙に誤差が発生した人がいるはずだ。基本的な計算式は表のとおりだが、実務では年収660万円未満の人は「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表(PDF)」という速算表を使用する。表の一部を抜粋すると

給与等の金額 給与所得
6,396,000円以上 6,400,000円未満 4,576,800円
6,400,000円以上 6,404,000円未満 4,580,000円
6,404,000円以上 6,408,000円未満 4,583,200円

などとなっていて、640万円の人も640万3999円の人も給与所得控除後の金額(所得)は458万円と同額になる。ご自身の源泉徴収票を正確に計算したい方は、国税庁のホームページにある速算表を使用していただきたい。

 ザッと計算していただくと分かるが、サラリーマンが受けられるこの給与所得控除はかなりの額だ。例えば年収500万円の場合、給与所得控除は154万円となる。月収30万円くらいで、毎月12万円が1円も使わなくても経費として課税対象から控除されるのだ。後述する配偶者控除の38万円、特定扶養親族の63万円などと比べれば、給与所得控除の154万円はものすごい控除額と言えるだろう。

 サラリーマン時代の筆者は、「自営業はサラリーマンより税金面で優遇されている」と何となく思っていた。独立してからこの給与所得控除の存在を知って、実はサラリーマンは税的にものすごく優遇されていることに気付いた。税金だけでなく、年金や健康保険もサラリーマンは自営業(個人事業主)より優遇されている。特に、国民健康保険の保険料の高さには目がくらむほどだ。

 余談となるが、少し税金に詳しい人は「トーゴーサンピンでサラリーマンより自営業とかは得してる」と思っているかもしれない。筆者は独立後に知ったのだが、トーゴーサンピンとは税務署の捕捉率がサラリーマンは10割、自営業は5割、農業、水産業などは3割、政治家は1割というやゆで、サラリーマンの所得は100%ガラス張りだが、自営業なら半分はごまかせるという意味だ。

 実際に個人事業主(自営業)になってみると、そんなことはない。もしかすると商店街の八百屋さんとか屋台のたこ焼き屋さん、移動販売のお弁当屋さんのような現金商売なら、100個売れたのを50個として、売り上げを低く見せることができるかもしれない。しかし、法人相手の仕事は100%銀行振り込みされるので、出版社から受け取る原稿料(売り上げ)を半分に見せることは不可能だ。

 個人事業主の経費は実際に出費した金額だ。グレーな部分があるので事業用か私用が微妙なものを経費にできることはあるが、1円の出費もなく154万円の経費を工面しようとしたら、年に何十回も城崎温泉などにカラ出張しなければならない。常識のある人には不可能な行為だ。出費0円で100万〜200万円が課税対象から控除される給与所得控除は、サラリーマンの大きな特典だと言えよう。

 給与所得控除は、以前は上限がなかったが、現在は年収1500万円を超えると上限の245万円で一律となっている。平成28年(2016年)は上限が引き下げられ、年収1200万円を超えると一律230万円、平成29年(2017年)からは年収1000万円を超えると一律220万円に変更され、高額所得者は控除が減り増税となる。

平成28年給与所得控除の計算式
給与等の収入金額(年収) 給与所得控除額
1000万円超 1200万円以下 収入金額×5%+170万円
1200万円超 230万円(上限)
平成29年以降の給与所得控除の計算式
給与等の収入金額(年収) 給与所得控除額
1000万円超 220万円(上限)

所得控除は納税額を左右する

 次はパープルの部分を説明していこう。ここでは308万円と記載されている「所得控除の額の合計額」を算出する。すぐ下に99万円、12万円などの金額が記載されているが、それらを合計しても308万円にはならない。ここでも源泉徴収票に書かれていないルールを説明したい。

 所得控除とは「大学生の子どもがいる」「親と同居している」「生命保険に加入している」といった個人個人の事情に合わせて、所得から一定額を差し引き(控除し)、税金を計算するときの金額(課税所得)を引き下げるものだ。所得、所得控除、課税所得は以下の式で表すことができる。

所得−各種所得控除=課税所得

 納税額は課税所得に税率を掛けて算出するので、課税所得が減ると納税額が減る。同じ所得であれば各種所得控除が多くなると課税所得が減り、納税額も減るという仕組みだ。

 各種所得控除の中で多くの人が関係するのは配偶者控除、扶養控除といった人的控除、年金、健康保険、雇用保険といった社会保険料控除、生命保険に加入していると受けられる生命保険料控除だろう。これらの所得控除を源泉徴収票から読み取っていこう。

 最初は人的控除から。パープルの部分の左側を見てみよう。「控除対象配偶者の有無」の有に○がついている。これは控除対象となる配偶者がいるということだ。配偶者は旦那さんから見た奥さん、奥さんから見た旦那さんだ。控除対象となるのは所得が38万円以下であること。収入に換算すると103万円以下となる。

 「103万円以下」「103万円の壁」といった言葉を聞いたことのある人は多いと思われる。奥さんの年収が103万円以下であれば、給与所得控除の65万円を引くと38万円以下となり、旦那さんの控除対象となる。ようするに旦那さんの税金が減るということだ。配偶者控除の金額は38万円。控除対象の配偶者がいると課税所得が38万円減ることになる。

 少し右側の「控除対象扶養親族の数(配偶者を除く。)」の下を見ると特定の欄に1人、老人の欄の真ん中に1人、点線をはさんで左側の内に1人となっている。まずは控除対象扶養親族から説明していこう。扶養控除という言葉を聞いたことのある人は多いと思う。子どもや親の面倒をみていると受けられる控除が扶養控除だ。扶養控除は対象となる親族の年齢により控除額が異なっている。図を見ていただこう。

 その年の年末時点の年齢が16〜18歳(ほぼ高校生)であれば38万円。19〜22歳(ほぼ大学生)であれば63万円。23〜69歳であれば38万円。70歳以上で同居していれば58万円、別居であれば48万円となっている。年齢以外の条件があり、控除対象となるのは配偶者控除と同じく所得が38万円以下となっている。

 増額になっている19〜22歳はほぼ大学生で、対象となる親族を特定扶養親族と呼ぶ。「大学に通う子どもがいるとお金が掛かるから控除を増やして税金を減らしましょう」ということだ。ただし、大学に通っていることは条件となっていないので、浪人中でもフリーターでも年齢と所得の条件を満たし、生計を一としていれば(親が養っていれば)控除の対象となる。もう1つ増額されているのは70歳以上で、老人扶養親族と呼ばれている。老人扶養親族は同居(同居老親等)と別居で控除額が異なっている。

 では源泉徴収票をもう一度見てみよう。特定(特定扶養親族)が1人となっているので、ほぼ大学生の子どもが1人いることが分かる。老人の欄は真ん中の1人は70歳以上の老人扶養親族が1人いることを表し、点線をはさんで左側の内1人は老人扶養親族の内、同居老親が1人いることを表している。もし別居で老人扶養親族がいる場合は真ん中が1人、点線の左側の内は0人となる。

 社会保険料等の金額(99万円)は厚生年金、健康保険、雇用保険の合計額。毎月天引きされた社会保険料の合計額がそのまま記載されている。その右側が生命保険料の控除額(12万円)だ。支払った生命保険の額はその下に分類されて12万円、8万円、12万円と記載されているが、生命保険料控除と支払った金額の関係が分かりにくい。

 生命保険料は図のように旧制度、新制度に分かれ、その中で一般、介護医療など計5つに分類されている。保険料ごとに控除額を算出し合計した額が生命保険料控除の額となる。ただし上限額があり、この例では上限額の12万円となっている。

生命保険は5つに分類されている

 次の図が旧制度と新制度の計算式だ。事例の控除額を計算すると

旧制度の生命保険料   12万円  控除額5万円(10万円超は一律5万円)
介護医療保険料      8万円  控除額4万円(8万円×1/4+2万円)
旧制度の個人年金保険料 12万円  控除額5万円(10万円超は一律5万円)

 3つの保険の控除額の合計は14万円となるが上限が12万円なので、生命保険料の控除額は12万円となっている。

旧制度と新制度で控除額の計算式、上限額が異なっている
3つの保険の控除額を合計し生命保険料の控除額が決定する

 これでそれぞれの所得控除の控除額を算出することができた。これらを合計してみよう。

配偶者控除 38万円+特定扶養親族 63万円+同居老親 58万円+社会保険料控除 99万円+生命保険料控除 12万円=270万円

38万円+63万円+58万円+99万円+12万円=270万円……あれ?

 「所得控除の額の合計額」の308万円に38万円足りない。源泉徴収票のどこにも記載されていないが、所得がある人は全員に38万円の基礎控除があるので、自分自身の基礎控除を足すと、所得控除の額の合計額は308万円となる。

 見ていただいたとおり、養う家族が多い人は控除額が増え、独身で生命保険に加入していない人は控除は少なくなる。同じ年収でも所得控除が多い人は納税額が減る仕組みとなっている。主な控除は以下の表も参考にしていただきたい。

主な所得控除
控除名 金額 概要
基礎控除 38万円 全員が一律に受けられる控除
配偶者控除 38万円 所得が38万円(年収103万円)以下の奥さんがいると受けられる控除
配偶者特別控除 3〜38万円 所得が38万円を越え76万円未満の奥さんがいると受けられる控除
扶養控除(一般) 38万円 16歳以上の子どもや親を養っていると受けられる控除
扶養控除(特定扶養親族) 63万円 所得が38万円以下の19歳から22歳の子どもがいると受けられる控除
扶養控除(同居老親) 58万円 公的年金が158万円以下で70歳以上の親と同居し養っていると受けられる控除
扶養控除(同居老親以外) 48万円 公的年金が158万円以下で70歳以上の親を別居し養っていると受けられる控除
寡婦控除 27万円+α 夫と死別または離婚した女性のための控除。条件により増額
寡夫控除 27万円 妻と死別または離婚し子を扶養、所得500万円以下の男性のための控除
社会保険料控除 年間の支払額 年金や健康保険などを納めた分の控除
生命保険料控除(一般生命保険) 旧:〜5万円
新:〜4万円
一般の生命保険に加入すると受けられる控除
生命保険料控除(介護医療保険) 〜4万円 新制度の介護・医療保険に加入すると受けられる控除
生命保険料控除(個人年金保険) 旧:〜5万円
新:〜4万円
個人年金保険に加入すると受けられる控除
地震保険料控除 〜5万円 地震保険の支払いがあると受けられる控除
医療費控除 1年の支払額−10万円 年間の医療費の10万円又は所得金額の5%を超えた分に対する控除

所得税を算出しよう

 いよいよ最後のグリーンの部分だ。ここで所得税の納税額を計算する。これまでに算出した所得、各種所得控除から課税所得が算出できる。これに税率を掛けると最終的な納税額をはじき出すことができる。まずは税率を確認しておこう。所得税の税率は以下の表となっている。

所得税の税率
課税所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超 330万円以下 10% 9万7500円
330万円超 695万円以下 20% 42万7500円
695万円超 900万円以下 23% 63万6000円
900万円超 1800万円以下 33% 153万6000円
1800万円超 4000万円以下 40% 279万6000円
4000万円超 45% 479万6000円

 課税所得が増えると税率が上がる累進課税となっている。表の見方を簡単に説明しよう。課税所得の195万円以下の部分の税率は5%。195万円を超え330万円以下の部分の税率は10%ということだ。195万円が200万円に増えたらいきなり納税額が倍になるわけではない。

 試算してみよう。課税所得が198万円の場合、

195万円×5%=9万7500円
(198万円−195万円)×10%=3000円
9万7500円+3000円=10万500円

所得税の税率の表には控除額という欄がある。この控除額を使用するともっと簡単に計算できる。

課税所得×税率−控除額=所得税額
198万円×10%−9万7500円=10万500円

 では事例の所得税を算出してみよう。ブルーの部分で年収から給与所得控除を引き所得を算出。パープルの部分で求めた各種所得控除を所得から引くと、課税所得が算出できる。その課税所得に税率を掛けると所得税となる。

年収(660万円)−給与所得控除(186万円)=所得(474万円)
所得(474万円)−各種所得控除(308万円)=課税所得(166万円)
課税所得(166万円)×5%=(所得税)8万3000円
※課税所得は1000円未満の端数は切り捨て

 グリーンの部分に記載されている8万4700円にかなり近づいたが、まだ差異がある。所得税の額は8万3000円で間違いないが、実際に納税する額は、これに東日本大震災の復興特別税を上乗せした金額だ。復興特別税は所得税の納税額の2.1%分だ。

8万3000円+(8万3000円×2.1%)=8万4743円
100円未満を切り捨て      =8万4700円

 これで源泉徴収票に書かれた呪文(じゅもん)をすべて解くことができた。ご自身の源泉徴収票で一度計算してみると、所得税の算出の仕組みが理解できるだろう。来年は受け取った源泉徴収票をチラッと見れば、年収、所得、控除の合計、納税額と一瞬で読み取れるはずだ。

 実は長年続いたA6サイズ(A4の1/4)が平成28年分からA5サイズ(A4の1/2)に変更される。マイナンバーの記入欄が追加される関係でフォーマットが見直しされ、倍の大きさになるようだ。気になる方は「平成28年分給与所得の源泉徴収票の記載のしかた」(PDF)を参照いただきたい。

サラリーマンの節税1(親の年金を確認しよう)

 ここまでで源泉徴収票の見方や所得税の算出方法は何となく理解できたと思う。この先は「おまけ」「応用編」「拡張編」としてお時間のあるときに読んでいただければと思う。

 税金の話となれば節税が気になる人は少なくない。ここからはサラリーマンの節税について考えてみよう。所得税を算出する式は理解してみると単純なものに見えるはずだ。

・給与の収入金額(年収)−給与所得控除=給与所得
・給与所得−各種所得控除=課税所得
・課税所得×税率=所得税

 1行目の給与所得控除は一定の式で決まっているし、3行目の税率も勝手に変更することはできない。サラリーマンの節税方法は単純で、各種所得控除を増やす、この1点だ。

 節税を考える前に大切なことがある。まずは稼ぐことだ。所得税の納税額が5万円の人は所得税で5万円以上の節税はできない。サラリーマンも個人事業主も節税より先に稼ぐことを考えよう。また、控除を増やすと節税になるが、ほとんどの控除は出費を必要とするので、出費した以上に税金を減らすことは難しい。

 例えば専業主婦の女性と結婚すれば配偶者控除が受けられるが、それによって減る納税額よりも、結婚生活で増えた生活費の方が上回るのが一般的だ。生命保険も加入すれば納税額は減るが、それ以上の掛け金を支払うことになる。あくまで「生命保険に加入するなら少しでも税金が減った方が得だ」くらいの考え方をしよう。

 まずは配偶者控除、扶養控除などの人的控除だ。結婚の予定がある人は年内に籍を入れるとその年の配偶者控除の対象となる。日割りはないので3月に結婚しても12月に結婚しても1年分となる。もちろん奥さんとなる人のその年の所得が38万円以下という条件があるので、奥さんがしっかり働いていると対象外だ。

 38万円を超えても旦那さんの所得が1000万円以下であれば、配偶者特別控除が受けられる可能性がある。奥さんの所得が38万円を超え76万円未満(年収で103万円を超え141万円未満で)であれば配偶者特別控除の対象となり、以下の表のように控除を受けることができる。

配偶者特別控除
年収 控除額
103万円超  105万円未満 38万円
105万円以上 110万円未満 36万円
110万円以上 115万円未満 31万円
115万円以上 120万円未満 26万円
120万円以上 125万円未満 21万円
125万円以上 130万円未満 16万円
130万円以上 135万円未満 11万円
135万円以上 140万円未満 6万円
140万円以上 141万円未満 3万円
141万円以上 0円

 結婚後に、離れた旦那さんのところに転居するなど、奥さんが仕事を辞める場合は注意しよう。LINEで「楽しい夏になるよ、遠恋だと思って過ごす」とのんきにしていないで、給与明細を細かくチェックしよう。正社員で毎月の給与が25万円だったとしよう。4月で年収は100万円、5月で125万円、6月で150万円。いつ退職するかで配偶者控除、配偶者特別控除、控除なしと分かれることになる。

 実際には旦那さんの所得税の税率が20%でも、所得税で7万6000円、住民税(33万円の10%)を加えても節税は11万円程度なので、長く働いた方が手元に残るお金は増えることが多い。たまたま5月の結婚を前に4月末まで働くか、数週間前に退職するかが控除対象の分かれ目になる可能性はあるので注意しよう。退職金には退職所得控除があり所得0円となることが多いが、長年働いた人は念のために退職所得も含めて確認すると、思わぬところで節税できるかもしれない。

 人的控除で最も節税ができそうなのは親だ。控除額は同居老親で58万円、別居でも48万円。別居であっても所得税率10%で4万8000円、住民税で3万8000円を70歳から20年間節税できればかなりの節税額となる。念のため親のもらっている年金の金額と種類を確認しよう。

 公的年金の控除額は120万円なので、公的年金が158万円以下であれば所得は38万円以下となり控除の対象となる。父が亡くなり母だけの場合は、年金の種類もチェックしよう。現在のご年配の女性は専業主婦だった可能性が高い。自分が働いていた期間の公的年金は少なく、亡くなった父の遺族年金を受給しているケースが多い。遺族年金は公的年金ではないので、158万円を超えても控除の対象となる。

 なお、離れて住んでいても生計を一としていれば控除の対象となるので、毎月仕送りをするなどすれば、田舎に住む母親を控除の対象にできるだろう。節税額よりも仕送り額の方が上回ることにはなるが、そこは親孝行だ。

サラリーマンの節税2(旧制度の医療保険を見直そう)

 生命保険は節税のために加入するものではない。「生命保険に加入する(している)なら節税も意識しよう」と考えていただきたい。昔から生命保険に加入している人は医療保険を再確認しよう。平成23年以前に契約した生命保険は、死亡保険金などを対象とする一般生命保険と、入院給付金などを対象とする医療保険が同じ区分となっている。

 例えば一般生命保険の年間の支払いが10万円、医療保険の支払いが8万円だったとしよう。この2つは同じ区分なので、支払った保険料は18万円となり控除額は上限の5万円となる。もし同じ保険料で平成24年以降に加入すると一般生命保険料控除は4万円、新設された介護医療保険料控除は4万円となり合計計8万円。控除額を3万円増やすことができる。ただし、生命保険は年齢が高くなると掛け金も上がるので、若いころに入った保険の方が割安になることが多い。

 筆者のお勧めは医療保険だけの見直しだ。若いころに加入した一般生命保険はそのまま継続し、旧制度の一般生命保険料控除の5万円はキープする。医療保険の部分は保険屋さんと相談して、新制度の介護医療保険料控除の対象となるようにしよう。

 古い医療保険を解約して新しく加入するのは簡単だが、まずは旧制度の医療保険に特約を付加すると新制度の介護医療保険に変更できるか、を確認したい。可能であれば介護医療保険料控除で4万円を上乗せできるので、生命保険料控除は9万円となる。自分の課税所得(税率)、特約変更の手数料、特約付加分の保険料の増額などを計算してメリットの有無を確認する価値はあるはずだ。節税額は7000円ほどかもしれないが、20年、30年先まで累積すればそれなりの節税効果が期待できる。

 続いて付加した特約を半年〜1年後に解約した場合、そのまま新制度の介護医療保険として継続できるかも確認したい。もし可能であれば、一番安い特約を短期間付加して解約すれば、旧制度の医療保険を掛け金そのまま新制度の介護医療保険に変更できる。

 おそらく、所得税の算出方法を知らない、源泉徴収票の見方が分からないとこのあたりの判断はできないと思われる。ほんの少し税金の知識があると、人生の中でさまざまな判断の役に立つだろう。

サラリーマンの節税3(ガッツリ稼いでるなら確定拠出年金)

 ガッツリ稼いでいて、多くの税金を納めている人は積極的に節税を考えてもよいだろう。条件付きとはなるが個人型確定拠出年金に加入すると、そこそこの節税が可能だ。条件は、20歳以上60歳未満で、企業型確定拠出年金、厚生年金基金、確定給付企業年金のいずれにも加入していないこと。ザックリ言うと厚生年金だけに加入していればOKということだ。共済組合に加入している公務員も加入できない。

 掛け金は60歳以降に老齢給付金などの方式で受け取ることとなるため、自由に引き出せないというデメリットもある。金融機関により手数料が異なる、運用方法によっては元本割れにリスクがあるなど、自分で選択する部分が多いこともあり、少々勉強も必要で現状は加入者は少なめ。そのためか現在条件緩和の動きがあり、1〜2年後には確定拠出年金法の改正が行われる可能性が高い。

 サラリーマンで個人型確定拠出年金に加入すると、毎月5000円〜2万3000円(1000円刻み)の掛け金を納めることができる。掛け金を2万3000円に設定すると年額27万6000円の全額が控除対象となる。所得税率が20%の人なら、住民税(10%)と合わせて8万2800円の節税ができる。手元の資金を長期間預けることになるが、生命保険のような支出をともなわずに節税できる点も大きい。

 運用益は自分の判断・実力によるが、ローリスク・ローリターンの運用をしても節税によるメリットは大きい。預金金利には期待できない時代なので、資金にゆとりのある人は検討する価値があるだろう。

 103万円の壁は有名だが、2016年の10月から106万円の壁ができる。将来的には配偶者控除を廃止する動きもある。税の仕組みは一生の中で何度も変更されるので、少し興味を持っていただくとさまざまな判断の役に立つことは多いだろう。

(奥川浩彦@ アイピーアール)