ディー・エヌ・エー<2432>(DeNA)が主催する学生&若手ゲームプランナー(=ゲームデザイナー)向けの勉強会「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾~未来を担う人に伝えたいこと~」。1月26日に渋谷ヒカリエ DeNA本社で開催された第8回では、元ナムコで『ことばのパズル もじぴったん』シリーズでプロデューサー・ディレクターをつとめ、現在は神奈川工科大学でゲームデザイン教育研究を進める中村隆之氏が登壇した。
今回のテーマは「ゲームデザイン分析」で、前半では中村氏が考案したゲームデザイン分析のフレームワークが解説され、後半では参加者が商用スマホゲームを遊びながら、分析にチャレンジした。モデレーターの馬場保仁氏は、今回の内容を持ち帰り、職場や学校で開催するなどして、プランナー向け勉強会の輪を広げて欲しいと呼びかけた。
実際、本セミナーはゲーム業界の総合カンファレンス「CEDEC2013」の発表内容がベースで、資料はCEDiL(関連サイト)や、中村氏のブログ(関連サイト)で公開されている。本稿で興味を覚えた方がいたら、ぜひ上記サイトをチェックして、実際に挑戦してみてほしい。
■なぜゲームデザイン分析が必用なのか
ゲームデザインは天賦の才能が必用で、他人に教えられるものではなく、有名クリエイターも体系的な教育を受けたわけではない。いわんや学校の教員が授業で教えることなど不可能……。日本のゲーム業界では、いまだこうした考え方が一般的だ。ファミコン世代の中村氏も「誰にゲームデザインを教わったわけでもない」と前置きする。
しかし、その一方で80年代後半と現在とでは環境が大きく異なっており、学生や若手に向けた体系的なゲームデザイン教育が不可欠だと指摘した。
「当時はすべてのゲームが新しかったため、ファミコン世代の大人はさまざまなジャンルのゲームを遊んでおり、ゲームデザインの数多くのパターンを習得しています。さらに、良作だけでなくクソゲーもたくさん遊んでいるのです。一方で昨今のスマホアプリはF2Pが主流になっていることもあり、ランキング上位のタイトルは一定水準以上の品質になっています。そのためゲーム体験の多様性に欠ける点は否めません」
中村氏は「名コックになるためには美味しい物だけを食べていてはダメで、段階的にさまざまな料理を食べ比べて、比較・分析することが大切」だと語る。ゲームも同様で、ゲームデザイン教育のカリキュラムが未整備な状況でも、名作からクソゲーまで、さまざまなタイトルのゲームデザインを体系的に分析していくことで、本来の目的に近づけるのではないかと言う。
そのためにはゲームデザイン分析の共通言語となるフレームワーク(枠組み・規準)が必用だ。有名なものにMDAフレームワーク(関連サイト)があるが、解釈で問題が生じやすい。そこで中村氏は独自に研究・考案した「ゲームデザインの手段目的/快感ストレス分析」を紹介した。
■中村式フレームワークの特徴と活用
本フレームワークの特徴は、ゲームメカニクスを「手段(アクション)」と「目的(ゴール)」の循環構造と捉え、各々の階層でどのような快感が発生するかに着目して、ゲームデザインを分析するというものだ。ゲームの構造とプレイヤーの心理を分けて考察するための配慮もなされている。短時間(3分程度)でのプレイ評価に向くため、スマホアプリの分析や、教育現場での導入にも効果的だという。
多くのゲームは小目的(例:敵を倒す)とアクション(例:ジャンプして踏みつける)の繰り返しで構成されており、この循環構造を通して快感が発生する。その上で中目標(例:ステージをクリアする、コインを100枚集める、アイテムを収集する)や大目標(全ステージを制覇する、全アイテムを収集する)などが設定されている。こうしたゲームデザインの構造は、ユーザーがプレイを通して客観的に分析できる。
一方で各段階における「楽しさ」は主観的なもので、あるアクションが楽しいと感じる人もいれば、不快だと感じる人もいる。つまりゲーム構造は同じでも、楽しさのランクは千差万別ということになる。両者はしばしば混同して議論されがちだが、これを切り離すことで、開発チーム内でゲームデザインのブラッシュアップがより効果的に行えるようになる……中村氏はこのように解説した。
■似て非なる2本のアプリでゲームデザインの構造分析
その後、参加者は『Vector for iPhone』(関連リンク)と『Canabalt』(関連リンク)を題材に、グループにわかれてゲームデザイン分析に挑戦した。ともに主人公を操作して障害物を避けながら進める横スクロール型のランニングゲームだが、実際に分析してみると大きな違いがあるという。
▲『Vector for iPhone』
▲『Canabalt』
最大の違いは『Vector for iPhone』は『スーパーマリオブラザーズ』のような面クリア型だが、『Canabalt』は『テトリス』のようなエンドレス型のゲームという点だ。『Vector for iPhone』はタッチやスワイプなど多彩な操作が可能だが、『Canabalt』はタップ操作のみという違いもある。各グループのシートをチェックした中村氏は、「どのグループもおおむね、正しい分析ができている」と評価した。
一方で「どちらがおもしろかったか」という質問に対しては、参加者間で好みが分かれた。つまり構造分析では同じ結果が出ても、快感については千差万別ということだ。ここで中村氏は「電車の中で立ってプレイするとしたら、どちらが適しているか」など、ゲームのプレイシーンやユーザー属性をふまえた考察の重要性について補足した。作り手ではなく、プレイヤーの心理にたったゲームデザインが重要というわけだ。
実際に中村氏は2000年代前半、フィーチャーフォンで『テトリス』が爆発的に流行った時、その理由として「いつでも、どこでも止められる手軽さが、通勤・通学時のプレイに向いているからではないか」という考察結果にいたったという。つまり電車内で遊ばれるゲームを作るためには、『テトリス』や『Canabalt』のゲームデザイン構造を応用すればいいことになる。このようにして、本フレームワークを活用して欲しいと整理した。
最後に中村氏は「日本のストアランキングはガチャ系のゲームに集中しており、多様性に乏しいため、海外のストアランキング上位タイトルから分析するのがお勧め」だと解説した。「その気になれば1日で2-30タイトルは分析できます」(中村氏)。その上で、最終的に自分なりのフレームワークを作ってみてほしいと提案。分析と修正を繰り返しながら、フレームワークをブラッシュアップしていってほしいと呼びかけた。
▲馬場保仁氏(写真左)、中村隆之氏(写真右)
■第9回は2月23日(火)開催 エントリー受付中
次回(第9回)は本セミナーの旗振り役で、各回でモデレータをつとめるDeNA馬場保仁氏が登壇し、2月23日に実施される。テーマは「ゲームプランナーに求められるプロデュース」で、応募は公式サイトから可能だ。
◆参加資格:
・ゲーム企画職(ディレクター、リードプランナー、プランナー)を目指す学生 ※学生は学年不問
・若手のゲーム企画職の方 ※32歳以下
◆参加費:無料
◆参加エントリーはこちら 申込締切:2016年1月17日 結果連絡:2016年1月19日
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