「僕だけがいない街」第4話、「達成」の感想です。
ラスト3分の演出に惹かれました。
特に惹かれたのは、カメラワークによって表現された悟の心理面。悟に生まれた大きな感情の波を、カメラワークの動きで表現する演出が面白かったです。
では大量に画像を貼りつつ、誕生日会以降のストーリーを含めて3つのシーンにわけて振り返ってみます。
ラスト3分と6つのカメラワークについて
シーン1. 誕生日会
「ごめん藤沼。あたしプレゼント間に合わなかった」
加代は誕生会に渡す予定のプレゼントが間に合わず、申し訳なさそうな涙目。
うん…… いいよいいよ。可愛いから俺が許しちゃう。
文句は言わせん!(← バカなの?)
悟と一緒にいた夕方に早く帰りたがった加代でしたが、これはプレゼントをつくるための時間を確保したいというのが理由でした。
↑ 悟からのプレゼント(手袋)の時にも加代は涙目に。
加代ひとりが映しだされているカットの大半は、おそらく悟による主観視点の表現でしょう。それだけ悟は、加代の事をいつも視線で追っている、という事の表現だと思います。
シーン2. 雛月を送った帰り道
「藤沼と、みんなも。友達になれて良かった。今日はありがとう。プレゼント明日渡すね。約束」
「うん、約束」
①. Fix
↑ 上に貼った2枚のうち、下の画像はしばらく画面を止めたように感じました。画面「FIX」(固定)で2・3秒ストップ、とでもいうのか。
FIXの意味はラストカットで使うためでした。手袋をはめ左手を上げて微笑む加代の構図。このカットは、彼の心に焼けつけられた加代の姿ってニュアンスなのでしょう。
②. Follow
↓ 雛月家に電気が灯り、見届けた悟は走り出します。
画面は悟の足元をアップで映し、そのあと走る悟を「Follow」(フォロー)
よく見かける演出法ですが、Followとは日本語では「追い写し」と呼ばれ、移動する被写体をカメラが一定距離で追いかけながら(フォローして)撮影する手法の事です。走り出した悟がどんどん加速していくような描き方ですね。
フォローの撮影法です ↓
(画像と文章は ↓ こちらの本より)
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③. Fr.out(フレームアウト)
カットが変わり、Followの次に使われたのは「Fr.out」(フレームアウト)でした。
横向きバストショットの悟が最後には画面から出て(アウトして)いきます。
↓ Fr.outとは反対方向の例になりますが、さきほどの同書からFr.in(フレームイン)の具体例画像です。
キャラクターがフレームにインしたりアウトしたりする演出法ですね。
悟をFollowしてからFr.outへとつなげる演出のイメージは、加代を守り歴史を改変できた喜びに、悟はいてもたってもいられず走り出し、その勢いはカメラでも追いきれないほどのスピードになった、ぐらいの意図でしょうか。喜びが爆発することの表現じゃないかと。
④. PAN-UP
Fr.out(フレームアウト)の次は「斜めPAN-UP」(パンアップ)
カメラは、ジャンプした悟を足元から頭部方向へ斜めに振りながらとらえました。それも2回。
↑ 一回目。一瞬でしたが。
↑ 二回目
PAN(パン)とはカメラを縦、横、斜めに振ることです。
同書からPAN-UPの例↓です。
悟に使われたPAN-UPの演出意図としては、なんだろう……
ジャンプしたら勢い余って画面からはみ出しちゃったとか? 実写映像などでも、よく被写体がジャンプしたシーンをカシャッと写真を撮るようにアオりながら画面に収める演出がありますけど、それと似たようなイメージの演出意図かなと思いました。
(やった、やったぞっ!)
FollowからFr.out、PAN-UPへの流れはそんな悟の感情を表現したカメラワークだったと思います。
シーン3. 就寝から翌朝
帰宅した悟は徹夜の疲れと安堵感から爆睡。
悟の布団に当てられた母(藤沼 佐知子)の手が温かいです。
しかし翌朝登校してみると予想外の事態が彼を待ち構えていました。
「遅刻は加代一人だけか」
(雛月がまだ来てない…… だと?!)
⑤. 手ブレ
これまで演出はFix、Follow、Fr.out、斜めPAN-UPときて、以下に貼るのは「手ブレ」……かなぁ。下の画像ではわかりにくいですが、この場面では悟の主観視点が上下左右に揺れていました。
もしかしたら画面の揺れは、悟が加代の席とその周囲を軽く見渡して確認したという表現かもしれません。しかし私はそれよりも、画面のブレは彼の心の動揺を表わした演出だと思いました。悟が抱いた(加代が登校してないってどういうこと?!)という揺れ動く心理の表現じゃないかと。
ちなみに「手ブレ」とは、「ハンドカメラ(手持ちカメラ)効果」とも言い、手持ちカメラで被写体を追うときの手ブレした画面を狙うカメラワークのことです。上記のシーンは、悟の主観視点で表現した手ブレかな、ぐらいに思いました。
⑥. T.U
続いての演出は、悟の目に向けての「T.U」(トラックアップ)
T.Uとは、被写体が大きくなるようにカメラを近付けていくカメラワークの事です(反対に遠ざけるカメラワークは「T.B」;トラックバック)。
悟の目をアップにする演出は第1話のラストでも使われており、それが今でも強く印象に残っています。第1話のときは目に向けてのT.Uじゃなくて、目のドアップからのQT.B(クイックティービー;速いトラックバック)でした。
目に対するT.U&T.B
これらは悟が激しく動揺したときに使われる演出のように思えます。よくあると言えばよくある演出法ですが、もしかすると……
悟動揺時には目のT.U&T.Bでキメ -
そんな演出法上の約束事がスタッフ間にあるのかもしれないですね。
感情表現サポート役のカメラワーク
以上、誕生日会以降の場面に使われた演出として、Fix、Follow(フォロー)、Fr.out(フレームアウト)、斜めPAN-UP、手ブレ、T.U(トラックアップ)の6つをあげてみました。間違い箇所があったらごめんなさい。自信が無いのも多い。
で、制作者がこれらのカメラワークを駆使した意図は何でしょう。それは、
悟に生まれた大きな感情の波を、カメラワークの動きで表現するため
だと私は思います。
いつも加代をとらえる悟の目線をFIXで、無事にXデーを乗り切り歴史を変えた達成の歓喜をFollow、Fr.out、斜めPAN-UPで、翌朝加代の未登校による動揺を手ブレ、T.Uで、と。
それぞれがカメラワークで悟の感情の動きを表現していたのでしょう。主人公の心が動くそのとき、カメラも動いてサポートしているものなんですね。いわば、
感情表現サポート役としてのカメラワーク
カメラワークってこんな風に使っているのねへぇぇ…… そんな事を感じたのが今回最も印象的だったところです。
その他のこと
上記以外のことも少し書いてみます。箇条書きで6つほど。
- 土曜は要注意な暴力の日。雛月母が加代にDVする曜日でした。
- 殴ろうとした雛月母を、タイミングよく藤沼母が阻止。母は元テレビ局の報道部。
- 劇判がとってもナイス。
3月1日火曜日夜の公園前。18年前がフラッシュバックし、加代の手をぎゅっと握るシーンで音量アップする劇判にウルッときました。 - その後の雪が落ちてくる場面。
画面には土手のユウキ、歩道橋上の雛月母、店内にいる男、八代先生の様子が映りました。 - 3月2日水曜日の下校時間。
「手伝ってくれ」と先生が声を。これが前回ラストカットの意味。ケンヤ(小林賢也)が、悟と加代の登場が遅れるよう先生に頼んでいた、というシーンが前回のラストカットでした。 - 雛月加代役・悠木碧さんによる「バカなの?」
いいですね~
今回のマイベスト「バカなの?」は誕生会の翌朝。
6時前に家を出て雛月家前にしゃがんでいる悟に、加代がかけた第一声「バカなの?」でした。じゃあここで一句。「バカなのと 聞くたびわたし 身もだえが」(←バカなの?)
最後に
僕街はこれで全体の1/3が終了しました。
私はマンガの6巻までを一回だけ読んだのですが、7巻は読まないつもりです。マンガが全8巻、アニメが全12話でほぼ同時完結する予定ですので、未読の7巻以降は先の展開を予想しつつアニメを楽しみたいと思っています。7巻以降はアニメが終わってから! 7巻以降はあとのお楽しみでとっておきます。
あ、ひとつ書き忘れてました。ラストカットの話です。
加代画像が小さい窓になりブラックアウトしたあと、小さい窓がインしてくるEDにつながったので、EDの入り方に驚きました。
この演出狙ってやったのかなぁ? なにげに今回のビックリポイントでした。
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「僕だけがいない街」 (全12話)
(スタッフ)
原作:三部けい
監督:伊藤智彦
シリーズ構成:岸本卓
キャラクターデザイン:佐々木啓悟
美術監督:佐藤勝
音楽:梶浦由記
アニメーション制作:A-1 Pictures
(キャスト)
藤沼 悟(ふじぬま さとる)
満島真之介(29歳)、土屋太鳳(10歳)
雛月 加代(ひなづき かよ):悠木碧
藤沼 佐知子(ふじぬま さちこ):高山みなみ
ケンヤ(小林賢也):大地葉
オサム(修):七瀬彩夏
カズ:菊池幸利
ヒロミ(杉田 広美):鬼頭明里
美里:木野日菜
八代 学:宮本充
雛月母:岡村明美
ユウキ(白鳥 潤):水島大宙
(主題歌)
オープニング・テーマ「Re:Re:」
歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION
エンディング・テーマ「それは小さな光のような」
歌:さユり
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